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葬送のレクイエム──亡霊剣士と魂送りの少女【小説家になろう版】  作者: 深月(由希つばさ)
第24章 戦乙女の狂詩曲(ラプソディー)

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第24章7話 戦乙女の狂詩曲(ラプソディー)

挿絵(By みてみん)


「…………──」



 祭壇に縛り付けられたセミロングの髪をした少女が、意識のないまま静かに涙を流す。


 それを見て──……アウグスタは思い出す。

 心がバラバラになるような悲しみも。

 胸を引き裂かれるような──……憎しみも。


 ……はじめから、出逢わなければよかった。

 好きになんか、ならなければ、よかった、のに……!



「──そうよ。私はただ、彼を利用してただけ……」



 メルという少女に課した魔術の術式──……それは彼女に記憶の旅をさせるものだった。彼女の意識を塗り替え、肉体(うつわ)を明け渡させるための……。


 この肉体(うつわ)を手に入れるために、果てしない時間(とき)をかけたのだ。


 死なない軍隊の研究──……ひいては亡者の軍隊を(ひき)いる司令塔を作るという名目で、聖性の強い実験体を作ることに明け暮れた。すべては、このときのため。


 そのきっかけが青年王子への(あわ)い恋心だったことなど、とうに忘れてしまった。


 はじめはただ、彼を救いたいだけだったのに。

 いつしかその目的もすり替わった。


 (いだ)いてしまった恋心を否定するために──……はじめから自分の目的のために彼を利用したのだと、みずからに信じ込ませた。



「私にはノワールの実験体が必要なの。どうしても……。──だから、ルリア。邪魔者を倒して? かつての相棒をあなたの手で終わらせて……」



  ☆☆



 アウグスタの命令を受けて、プラチナブロンドの髪をした漆黒の花嫁衣装の乙女は駆ける。紫水晶の宝玉(いし)をはめ込んだ宝杖にも似た──……巨大な鎌を手に。


 相対した金髪の剣士と褐色の王子を亡き者にしようとして獲物を振り下ろし──……

 ふたりの剣士に、左右から鎌をからめとられた。



「!?」


「……ふん。攻撃が単調すぎるな。所詮(しょせん)はあのニセモノメイドの後釜(あとがま)。人形程度の知恵(あたま)しかもたんか」


「おい、ルリアを侮辱(ぶじょく)するな……」



 エヴァンダールの挑発(ちょうはつ)に、かたわらのアスターが青筋を立てる。協力しているのか仲違(なかたが)いしているのかわからないふたりだ。


 そのふたりの口上が重なった。



 ──残光蒼月斬!


 ──死霊乃風(アルバラン・サーガ)



「……っ! きゃあああああぁぁぁぁっ……!?」



 吹き飛ばされた戦乙女の死体人形が宙を舞う。

 ルリアの死体人形は礼拝堂の壁にぶつかって、ズルズルとずり落ちた。



「……っ! ルリア……!」


「──手加減はした。今のうちにさっさと縛り上げるでもなんでもして押さえ込んでおけ」


「わかってる……っ」



 乱暴に言い放って、アスターは矢も楯もたまらず飛び出す。


 ()ちたカーテンでも絨毯の切れ端でも何でもいい。いくら死体の筋力が強化されていても、拘束(こうそく)してしまえば何もできない。


 ──そう思って駆け寄ったアスターだったが、ルリアがうめくのに足を止めた。



「…………う……」


「!」



 まぶたがうっすらと開いて、黄玉色(トパーズ)の瞳がアスターを映す。焦点の合わなかった目がアスターを見て、おびえたように後ずさった。



「うぁ……!」


「……ルリア……?」


「…………ごめん、なさい……」



 ──……初めて、意味のある言葉を発した。

 アスターは息をのんだ。



「ルリア……。俺が、わかるか……?」


「…………」



 ルリアは、幼い子どものように、不安そうにきょろきょろと辺りを見回す。さっきまでの無機質な動作とは明らかに違った──人間らしい仕草。



「…………ルリ、ア……」



 声が震えた。

 倒れたルリアに向かって手を差し伸べる。

 黄玉色の瞳が、信じられないものを見るように見開かれて……──告げた。



「ごめんなさい…………お父様」


「……え……?」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ……!」


「──っ!?」



 ヒュンッと、(やいば)が空間を斬り裂いた。

 ルリアが目も止まらぬ速さで鎌をとり、アスターとの間を()いだのだ。まるで何者をも自分に寄せ付けまいとするかのように。


 ルリアは嫌々をするように首を振っている。

 その身体がガタガタと震えていた。



「痛く……イタくしないで。ルリア、いい子にするから。いい子にするからぁ……っ! いい子にいい子にいい子にいい子にいい子にぃぃぃぃ……っ!」


「……っ! よけろ!」



 エヴァンダールが警告した、その瞬間だった。

 ルリアが手にしていた鎌が──……光った。


 ()の先にはめられていた大きな紫水晶が輝きを放つと同時に、ルリアが奇声のような歌声を発する。

 魂送りともつかない技の衝撃波が、アスターとエヴァンダールを真っ正面から襲った。



「…………っ!」



 すさまじい威力の衝撃波が礼拝堂の壁に穴を開け、とっさに剣技で衝撃を相殺(そうさい)したふたりの剣士もろとも吹き飛ばした。

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