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葬送のレクイエム──亡霊剣士と魂送りの少女【小説家になろう版】  作者: 深月(由希つばさ)
第24章 戦乙女の狂詩曲(ラプソディー)

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201/210

第24章1話 もう一度だけ⋯⋯

更新、一日遅くなりすみません。

第24章「戦乙女の狂詩曲ラプソディー」、開幕します。

楽しんでもらえたら嬉しいです✨


挿絵(By みてみん)


 曇天(どんてん)の下をハゲタカが飛ぶ。

 敵も味方もなく死者を食い散らかし、腐肉(ふにく)をついばむ。……逃げても逃げても死体にしか()わなくなっていた。


 シロアリのように追いすがる敵兵たちから逃げ延びた谷底で空を見上げたオズワルドは、城に残してきた少女の声を聞いた気がした。



(……。……エリーゼ……)



 気のせいだった。

 遠く離れた戦場で、彼女の声が聞こえるはずがない。


 春になるのを待たず、神聖ガルム帝国は攻めてきた。雪解けになり兵力を整える間を与えず、自軍の犠牲をもいとわずに。


 神聖ガルム帝国の兵力五万、対してノワール王国側の兵力は二万に満たない。戦い続けた兵士たちは疲れ果て、兵糧(ひょうろう)や薬にまで事欠いた。第一王子のオズワルドが前線に出てくるほどに戦況は厳しい。


 ……もともと負けるとわかっている戦線にオズワルドが臨んだのは、父王を逃がす退路を作るためだった。


 国王ゾーウィングを国外亡命させ、再起をはかる。


 それは事実上、国民を見捨てる戦略で、それでもオズワルドが戦場に残ったのは、ひとえに父王が国際社会からの非難を避けるためだ。


 王位継承権第一位の王子を殺した神聖ガルム帝国へ報復するため苦渋(くじゅう)の選択として国外へ(のが)れたのだと、言い逃れをするためだった。



 ──グリモアに逃れる手はずは整っている。向こうで落ち合おうぞ、息子よ。



 そうぬけぬけと言った父王に、オズワルドは内心、絶句した。父と作戦参謀(さんぼう)たる軍務卿(ぐんむきょう)の提示した作戦内容は、自分を敵地に置き去りにする布陣でしかなかった。


 このノワール王国を見捨て、王子である自分さえもおとりにして逃げ延びようと言うのだ、この国王(おとこ)は⋯⋯。その瞬間、何かがオズワルドの中で壊れた。


 それは父王に向けた忠誠心だったかもしれないし、王位継承者として(いだ)いてきた畏敬(いけい)の念だったかもしれないし、……そういった幻想の中で生きてきた自分自身だったのかもしれないけれど。



 ──立派に役目を果たしてみせます……陛下。



 ……そのとき、オズワルドはすでに生きることをあきらめたのだと思う。

 だから、わずか五十人ほどの部下たちと命からがらに逃げ延びた山中でその知らせを聞いたときも、悲しみなどは感じなかった。



『オズワルド殿下! 国王陛下が……陛下が敵兵どもの姑息(こそく)なだまし討ちに遭い、ボイジュ(とうげ)にて交戦。討ち死にされました……!』


『……父上、が……』



 ──皮肉だった。

 誰よりも生き延びたがっていた父王が、自分よりも早く忘却(レテ)の河の向こうに()ってしまった……。



『くくっ…………ふふふ』


『…………殿下、』



 (わら)いたくなった。

 結局、死の女神は誰にでも平等だ。あの父王を逃がすために、自分も部隊の者たちも決死の攻防をしてきたのに……。



『──殿下。ダメです、この先にある渓谷(けいこく)の出口も先回りされています。神聖ガルム帝国の敵兵……五千はくだりますまい』


『なんとかして殿下だけでも逃がせる道を──』


『うん……。もう、いいよ』



 オズワルドは周囲を見回した。

 老臣サイラスは、もう五十年は王家に仕えてくれている忠臣だ。その他の者たちも、最後までオズワルドに忠義をつくしてくれている者たちばかりだった。


 ……泣きたくなった。


 こんなにも、自分は恵まれていたのだと思った。

 父王でなく、こんな自分に最期までつくしてくれようとする臣下たちがいることを(さと)って。



『白旗をあげて降伏を。──サイラス、使者を頼む』


『なりません、殿下。そんなことをすればあなたさまが……!』


『──最期にこの首ひとつでどれだけの命を救えるか、試してみよう』



 ざわり、と周囲がざわめいた。

 涙をのむ者たちがいた。すすり泣く者たちがいた。


 あまりに悲惨な現実に感覚が麻痺(まひ)しているのだろうか。死が(せま)っているのに、不思議なぐらい穏やかな気持ちだった。



(…………。……エリーゼ)



 ──ごめんね。もう君には会えそうにない。

 この作戦に出るときから、わかっていたことだけど。


 なぜかな……。

 今、無性に君の声が聞きたいんだ。

 君の笑顔が、怒る顔が見たい。


 心残りはないよ。いや、あるとすれば──

 もう一度だけ、あの丘でリュートを弾きたかった。平和で穏やかだった、あの日々の中で。


 だから──

 僕が死んだら、歌ってくれないか。


 魂送(たまおく)りはいらない。忘却(レテ)の河の向こう側にあるという安寧(あんねい)は望まない。

 ただ、君の歌が聴きたい。

 何の意味もなく、何も生み出さない──鎮魂歌(レクイエム)を。


 願うことは、ただそれだけ。

 他に何もいらない……。



『殿下、敵の軍勢が……!』


『! ──来たか』



 偵察(ていさつ)に出していた兵が転がり込むように駆け込んでくる。何かから必死に逃げてきたのか、転がり込んできたときには息も絶え絶えでろくに話せなかった。全身がおこりのように震えている。



『誰か、この者に水を……』



 満足に水をもっている者など、誰もいない。それでも誰かが差し出した水筒を、兵士はごくごくと飲んで喉を鳴らした。──やっとのことで出た言葉は、常軌(じょうき)(いっ)していた。



『バ、バケモノが…………』


『何?』



 予想もつかない言葉に、オズワルドは眉をひそめる。老臣サイラスが兵士を叱咤(しった)した。



『これ、殿下の前だぞ。しっかりせぬか』


『……よい、(じい)。落ち着いて話せ。敵の軍勢はどこまで来てる?』


『予想通り、渓谷の出入口付近に展開していたようです。すぐそこまで迫っています!』



 全員に緊張が走った──……のもつかの間だった。



『神聖ガルム帝国の軍勢は、突如現れたバケモノと交戦中! 撤退(てったい)していきます!』


『…………撤退……?』



 想定外の事態に、全員が呆然(ぼうぜん)とする。そのオズワルドの耳にも、遠い喧噪(けんそう)が飛び込んできた。


 敵兵たちの怒号(どごう)剣戟(けんげき)、それらを襲う異形の存在たちの雄叫(おたけ)び。神聖ガルム帝国の(よろい)を着た、逃げ惑う敗残兵たちが駆けてくる。


 ……と思いきや、オズワルドたちには目もくれず方々に逃げ去った。



(なっ……!? 何が起きてる?)



 あっけにとられたオズワルドたちの目に、事態の元凶(げんきょう)が見えてきた。


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