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葬送のレクイエム──亡霊剣士と魂送りの少女【小説家になろう版】  作者: 深月(由希つばさ)
第3章 過去をとむらう者

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第3章2話 あらぬ誤解

挿絵(By みてみん)


 その日、アスターはカルドラ聖堂の宿舎にいた。


 大陸各地にある聖堂は、巡礼者の宿泊施設も兼ねている。

 普通の宿屋と違い、宿泊するには身元を保証する証書が必要だったが、怪我人も進んで受け入れてくれるのはありがたかった。


 ベッドから起き上がって全身の包帯を見た。

 まだ痛みはするものの骨折などはなく、ガノー渓谷で助け出されてから、五日目には熱も下がってベッドから出れるようになった。


 荷物から剣を取って中庭でひとり、素振りした。そうでもしないと、身体がなまってしょうがなかった。


 少し動いて息があがっているようでは、亡者に遭ったときに戦い抜けない。

 もっと強く。もっともっと──。



「あーっ! アスター、また起き上がって!」



 うるさい声が飛んできた。メルだった。

 巫女たちの食堂で昼食をとってアスターの部屋に看病に向かう途中だったらしく、水桶やら替えの包帯やらを抱えている。



「あらあら。そんなに元気でしたらもう大丈夫ですねー」



 おっとりと言ったのは、巫女のエイニャだ。カルドラ聖堂に所属する謡い手のひとりで、十七歳という年の近さからか、メルとも馬が合うようだ。

 メルがエイニャに物申した。



「大丈夫じゃないです。アスター、お医者様からあと一週間は安静にしてるように言われてるんです。傷が開いたらどうするんですか」


「あらあらー。まぁ、大変」



 ちっとも大変じゃなさそうにエイニャが言う。


 アスターはといえば、どうやってこのふたりを説得しようか考えていた。ガノー渓谷での一件以来、メルはアスターに対してすっかり過保護になっている。


 そこへ──



「これは包帯でベッドに縛り付けておくしかないんじゃないでしょうかね? それか、一番大きな傷に衝撃を与えて悶絶もんぜつさせるか。アスター殿はどちらがお好みですか?」



 現れたもうひとりの謡い手──レタがにやつきながら、巫女としてのたしなみを時空の彼方にすっ飛ばしたような提案をしてのけた。


 弱冠十八歳にして歴戦の男どもを介抱という名の拷問に処したといわれている……彼女に介抱された男たちがそろって口をつぐむので、真偽のほどは誰も知らない。



「レタさん、ダメです。そんなことしたら、アスター、今度こそ死んじゃいます」



 メルの苦言に、レタはしれっと返した。



「この程度で死ぬようなら、どのみち亡者との戦いで生き残れません。でも、大丈夫。ここで死ねば私たち謡い手が心をこめて魂送りしてさしあげますので、どうぞ心置きなく、未練を残さず安心して逝ってください」


「ダ、ダメですってば」


「あらあらー、おふたりとも楽しそうですね」



 ふたりの物騒なやりとりを聞きながら、エイニャがおっとりと笑っている。


 勘弁してくれ……。

 アスターは深いため息をついた。メルひとりでも騒がしいのに。


 他の巫女たちと違って、メルの足枷あしかせのことをさして気にしてないようなのは助かるが……。



「──と、まぁ。冗談はさておき。アスター殿に伝言があって呼びにいくところでした。イリーダ様が執務室に来てほしいとのことです」


「……イリーダ聖堂長が?」


「傷に障るようでしたら、あとでアスター殿のお部屋にうかがうとのことでしたが……見たところ、大丈夫そうですね?」


「あぁ。すぐ行く」



 言って、きびすを返したアスターをメルが呼び止めた。



「アスター、待って。せめて包帯を替えてから……」


「部屋に置いといてくれ」



 アスターの去った廊下を、メルはぼんやりと眺めた。

 その背中に向かって、小さくため息をついた。



(またムチャしてる……)



 カルドラの町に来るまでの道のりを思うと、不安は募るばかりなのだ。

 道中、アスターの無謀を叱り飛ばしてくれたガレッツォたちとは町に着いた時点で別れて、今はメルしかいない。



「しっかりしなくちゃ。もうアスターを止められるの、私だけなんだから……」



 自分を元気づけたつもりが──気付けば、声に出ていた。

 そんなメルを、謡い手のふたりがニマニマ見ている。



「おや。メルさんとアスター殿って、そういうことだったんですね」


「へ? レタさん、何を──」


「あらあら。だから、あんなにアスターさんのことをかばって……私たち、お邪魔だったかしらー?」


「エイニャさんまで何言ってるんですかっ」



 ──あらぬ誤解をされていた。



「わ、私はただ……魂送りができたらアスターの役に立てるかなって、思って……」


「うんうん、そうよねー。好きなひとの役に立ちたいって思うよねー。わかるわー」


「アスター殿をベッドに縛り付けるときには、喜んで協力しますよ。決行は夜ですね。今夜ですか? こういうことは、相手が弱っているうちにするのが吉です」



(…………こ、このふたりって……)



 メルはぷるぷると震えた。

 聖堂に仕える神聖な巫女のイメージがガラガラ音を立てて崩れていく。



「あらあら、現実なんてこんなものよー?」


「そうです、メルさん。幻想なんて下手に抱かない方が身のためですよ?」



 ひとしきりメルをからかって、エイニャがくすくす笑った。



「まぁ、でも。一時はどうなるかと思ったけど、アスターさんにこんなかわいい相棒パートナーさんができてよかったわー。やっとルリアさんの後継の方と組む気になったんですね」


「……『ルリアさん』?」



 メルの反応に、レタが目を丸くした。



「知らないんですか? ルリア・エインズワース様──アスター殿の元相棒です」



 初めて聞く名前に、メルは首をかしげた。

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