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葬送のレクイエム──亡霊剣士と魂送りの少女【小説家になろう版】  作者: 深月(由希つばさ)
第2章 さまよえる亡霊のごとく

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第2章4話 捜し人の行方

挿絵(By みてみん)


 翌日、亡者が出た。


 メルは、ガレッツォとともに最後衛に配置された──雇い主である商人たちと積み荷を守る位置取り。

 本来は前衛に向いているガレッツォまでいるのは、魂送りがうまくできないメルをフォローするためだ。


 アスターは、亡者の群れに深く斬り込んだ。


 そばにいた傭兵たちが止める間もなかった。制止を聞くアスターでもない。戦いにたければ猛るほど周囲の声も耳を貸さずに単独行動するアスターを、みながもて余した。



「アスター、撤退だ! 戻ってこい!」



 アスターは止まらない。

 むしろ亡者ともつれあうようにして、敵陣に斬り込んでいく。さながら悪鬼のようだった。


 メルの隣で、馬車に乗り込んだガレッツォが悪態をついた。無茶な戦い方は、そのまま死に直結する。

 胸騒ぎがした。

 ひとを捜してるって言ったのに。

 アスターは死んじゃダメなのに……!



「あ、こら。嬢ちゃん、行くな!」



 ガレッツォの制止を振り切って、メルは駆けた。亡者のただ中へ。メルに気付いた亡者どもが転身、殺到した。



「アスター!」



 叫んだ。まるで悲鳴だった。

 気付いた青年が方向を変えた。亡者どもを蹴散らしながら。少女の首根っこをつかむようにして助け出す。


 ガレッツォが駆ってくれた馬車に引き上げられたときには、生きた心地がしなかった。メルはガクガクと震えていた。

 そのメルに向かって、アスターが吠えた。



「戦えないヤツがなんで来た。死にたいのか!」


「だって……!」



 メルの目に、見る見るうちに涙がたまった。



「なんであんなムチャな戦い方するの! 会いたいひとがいるんでしょ。アスターは生きて帰らなきゃダメなのに……!」



 自分が言葉をのみ込んだことに遅れて気付いた。

 アスターの気配が冷えていた。蒼氷の瞳が悲しみをたたえて。研ぎ澄まされた刃のように──

 メルを拒絶した。



「……おまえに何がわかる……」



 アスターが言った。

 手負いの獣がうなるような、絞り出すような声音。

 メルが何かを言う前に、アスターは手当てに呼ばれて馬車の奥に引っ込んでいった。



  ☆☆



 その日の野営地──

 メルはアスターではなく、ガレッツォのところにいた。


 昼間の一件以来、なんとなくアスターのそばにいづらくて、せまい幌馬車の中で逃げ回っている。


 少女の沈んだ顔を見たガレッツォは、スキンヘッドをつるりとなでて天を仰いだ。強面こわもてのおかげで、子どもになつかれるような柄でもない。扱い方もしかり。


 なんで俺んとこ来てるんだよ……。

 文句のひとつもぼやきたくなる。


 豪放ごうほう磊落らいらくな傭兵仲間同士の喧嘩を成敗するのとは、わけが違う。


 彼らが多少へこんでも決してへこたれないブリキ製品なら、行きずりに乗せた少女と青年はまるで繊細なガラス細工だ。……どっかに「壊れ物注意」の貼り紙でもくっついてるんじゃないか?



「まぁ、いい。座れよ。スープいるか?」



 コクリとうなずいて、メルはアルミの深皿を受け取った。そのまま、タマネギを煮詰めた黄金色のスープとにらめっこする。湯気だけがむなしく立ちのぼって、はかなく消えていった。



「わかんないよ。アスターがなんであんなムチャするのかわかんない。会いたいひとがいるのに、なんで……」


「会いたいひとがいるのに、か……」



 それはガレッツォも引っかかっていた。

 亡者を相手にしたときの、狂ったような無謀な戦い方。

 ひとを捜して旅をしているというわりに、情報を集める素振りも見せない、他人ひとと線を引いたような振る舞い。

 あれではまるで──



「アスターは、私とは違うのに……」



 メルが、ぽつりと言った。無意識のうちに言葉がつい、こぼれた。そんな感じだった。



「違うって?」


「……。会いたくても、会えないことってあるから。私も昔は友達がいたけど、みんな死んじゃった」



 語られた内容にドキリとした。いつもの天真てんしん爛漫らんまんな振る舞いと、少女が口にした過去があまりにかけ離れていて。


 だが、両脚に巻き付けた鎖と鉄輪が、無言で真実を告げていた。正規のルートを経ず、聖堂を通さずに歌と踊りを仕込まれて裏取引される子どもたちのことは、風の噂で、ガレッツォの耳にも届いていた。



「でも、アスターは私とは違う。会いたいひとがいるなら、あんな戦い方しちゃいけない。アスターは生きなくちゃいけないのに……! なんで……」


「──なるほどな。それで合点がいった」


「……え?」



 ひとりで答えを出して納得しているガレッツォに、メルが不審な顔になる。

 ガレッツォはひげをなでた。



「いや。案外、嬢ちゃんと同じかもしれないってこと。……要するに、だな。あいつ、本気で人捜ししてるわけじゃないんじゃねぇかな」



 メルが、ますます眉根を寄せた。本気で捜してないなら旅をする理由もないんじゃ……といった顔だ。

 ガレッツォも、メルの話を聞くまではそう考えていたのだが。



「あいつ多分、()()()()()()()()()()()()()。だから、会いたいけど、見つかってほしくない。見つかっちまったら、そいつが『死んでる』っていうことを否が応でも受け入れなきゃなんなくなる。大方、そんなところじゃないか?」



 ひとを「捜している」と「見つかってほしくない」は両立する。

 傭兵稼業をやっていると、たまにそういう奴にも出会う。たいていは、どこかあきらめたような顔で、戻らない過去をさみしげに語る。


 過去に触れられるのは、大切な者たちの死を受け入れているからだ。けれど、傷に触るのには痛みが伴う。まだ血を流している傷であればなおさらだった。


 あの金髪の青年の時は、まだ止まったまま。

 不用意に触れれば鮮血の噴き出す傷が癒えることなく、そこにある。



「いつか会えるって捜してるなら、まだいい。相手がまだ生きてるかもしれないって甘い幻想ゆめの中で生きていける。……だから、嬢ちゃんに当たるんだよ。自分が見て見ぬふりしてる残酷な現実ことを、無自覚に突きつけてくるんだからな」


「……そんな……」



 夜目にもわかるほどさっと青ざめたのは、メルにも思い当たる節があったからだ。

 故郷を喪ったという経緯。

 そして、戦いの最中さなかに見せる悲しみに満ちた気配。



「私、アスターにひどいこと言った……?」



 ガレッツォは、後悔に顔をゆがませた少女の頭を、ぽんぽんとたたいた。

 誰にでも触れてほしくない傷のひとつやふたつある。



「なぁに、お互い様だ。あいつだって当たり散らしてんだから。……ったく。おとなげない。俺から言わせりゃ、亡者の中に飛び込んでまで止めてくれる相手の方がよっぽど貴重だよ──あいつには、そういうヤツが必要だ」

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