第12章2話 希望の光 (※挿絵:カトリーナ王女(子どもver))
──まぁ。またこんな難しい問題を解いたの?
──すごいわ、エヴァンダール。自慢の息子よ。
──それに比べてはこの子は……。
──同じ双子なのに、どうしてこうも違うのかしら。
──あなたもお兄様を見習いなさい……。
『……はい、お母様』
母のたおやかな手が自分と同じ顔の子どもをなでるのを見て、カトリーナは床に視線を落とした。
勉強も教養も何もかも、同い年の兄に遠く及ばない。カトリーナがどんなにがんばっても、なんでもそつなくこなすのは兄の方で、褒められるのもいつもそう。
誰もいない庭園の片隅でひとりになると、うずくまって泣いた。ドレスを汚したら、また怒られるのに。……そう思うそばから涙と鼻水で汚れていく。
どうしてこんなに要領が悪いんだろう。
思うようにならない自分のちっぽけさが悔しくて、みじめで、悲しくて……。
でも──
……さみしくはなかった。
泣いていると必ず、エヴァンダールが来てくれたから。
カトリーナと同じ褐色の肌に黒い瞳。放っておいてもはねるくせっ毛だけが違う。
エヴァンダールは、カトリーナのまっすぐな黒髪をなでた。気に入ったように。
『母様の言うことなんか気にするな』
『でも……』
『誰がなんて言ったって、カトリーナのことは俺が守ってやる。たったひとりの大事な妹だからな』
そうやって兄が言うたび、カトリーナの心はほんのりと温かくなる。
自慢の兄──エヴァンダールがいたから、カトリーナはあの城で生きてこられた。
容姿端麗で優秀な──「完璧」な王子。
そんな兄の進める亡者研究の一翼を担えると知ったとき、どんなに嬉しかっただろう。
カトリーナにとって非凡な頭脳をもち国を救おうとするエヴァンダールは誇りだった。
『カトリーナ……おまえはかわいい妹だよ。俺の誇りだ』
兄のためなら、なんでもできると思った。
亡者と戦って戦場を駆けることも。
兄の研究する秘技を、この身に宿すことも。
カトリーナのことをまっすぐに見てくれたのは、必要としてくれたのは……エヴァンダールだけだった。
その兄が言った。
『──亡国ノワールの英雄が生きているらしい』
『…………ノワールの、英雄?』
『あぁ。防国の双璧──アスター・バルトワルド。そいつと相棒になれ』
『……』
エヴァンダールがおもしろそうに言うのを聞いて、カトリーナは眉を上げた。……相棒という響きに。
カトリーナは兄さえいればよかった。
他の剣士なんか、いらない。
エヴァンダールがいてくれれば、それでよかった……。
でも──
『この国の救世主になれ──カトリーナ』
──それがエヴァンダールの願いなら……従う。
エヴァンダールが「光」で、カトリーナが「影」。
ずっと、そうやって生きてきた。
強い光に、影は寄り添う。
エヴァンダールは、カトリーナの希望だった……。
(…………)
物思いにふけっていたカトリーナは、ふと、天幕の外から聞こえてくる物音に耳を澄ませた。
取り次ぎの侍女たちが慌てる声がする。
「お待ちください、アスター様! その先はカトリーナ殿下の天幕で……アスター様!?」
天幕の戸口に現れた青年の冴えざえとした怒りに、空気が張りつめるようだった。
カトリーナの侍女たちにかまわず、まっすぐ歩を進める。蒼氷の瞳がカトリーナひとりを映して。
──カトリーナの闇色の瞳も、青年を射抜いた。
(↑↑ カトリーナ王女(子ども時代)(AIイラスト 狼駄様作です✨)




