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個人企画に参加してみた ①と②それと③ +バンダナコミック01作品

流星の天使 〜 錬金魔装器兵 マグアード誕生秘話 〜

作者: モモル24号

 1980年初頭、静岡県富士宮市で新たな洞窟が研究機関により発見された。数ある富士山の洞窟の中で、発見が遅れたのは諸事情による。秘められていたのは霊水洞と呼ばれるもの。


 古来よりこの地は、富士=不死の力を得られるなど、特別な神域として敬われてきた。富士の水を飲む事で力が得られると、信じる者は跡を絶たない。


 ────しかしこの、霊水を別の観点から活用しようと考えた男がいた。


 名を粟倉 光英(あわくら みつひで)という。


 彼は霊水と呼ばれる水の中でも、高純度のマグマエネルギー溢れる神水に注目した。


 いまで言うアクアメタルなどの技術の応用で、神水と融合させた金属結晶を構成。溶岩熱を越える熱量の中、濃縮を繰り返す事でマグアメタルと呼ばれる液体金属が誕生した。


 だが粟倉の研究は日の目をみる事なく静かに封印された。大量生産大量消費の時代に、半永久的に運用出来る金属の存在など、経済界が認めるはずがなかったからだ。


 やがて時代は進む。対テロ、特別犯罪対応組織、いわゆるサイバーポリスを含んだ、緊急を要する案件に特化した組織が誕生した。


 求められたのは迅速化。対ミサイル兵器にレーザーの開発が急がれた。だがレーダーをくぐり抜け潜入するドローン兵器の到来。残念ながら、政府の対応は後手を踏むばかりであった。


 未知のウィルス生物兵器に加えて、ドローンから進化した自動戦闘兵器、通称オートマーダーフライと潜海兵器、ドルフィンダイバーと呼ばれる新兵器が登場する。同盟国頼りの旧兵器では国土を守れない。


 ……政府はようやく重い腰を上げた。国防を掛けた、極秘プロジェクトが起ち上げられたのである。


 そんな状況下で、再び粟倉の研究が脚光を浴びた。残念ながら粟倉は研究施設の閉鎖の決定に失意と絶望の中で行方知れずとなっていた。


 破棄されずわずかに残された研究成果をもとに、研究機関が発足する。研究機関へ多額の出資したのは真守グループ。そして技術開発を行うのは、真守グループに保護されている金星人の技師達だ。彼らを中心に新たな防衛兵器を開発する事になった。


 機関の発足と同時に、搭乗適性のある少年少女が集められた。秘密裏に適性能力が測られ、見込みある者を選抜して訓練が行われた。


 持てる技術の全てを集めマグアメタルを最大限に活かした液化燃料を使った、魔装器兵マグアードがついに完成した。


 全長六メートルに対して重量は僅か四百キログラム。搭乗者の体重を加えても軽自動車よりもやや軽いくらいだ。瞬間的なパワーは馬力換算でおよそ一万馬力という。


 また魔装器兵の全身は固体化に見えるが、流動性のボディとなっている。コックピットをはじめ重要箇所には、アブソープション機能も搭載されていた。物理的な衝撃と吸収した熱を、マグアメタルエネルギーへと変換する。急激な寒暖差や高圧力に対して高い耐性を持つのが特徴だ。


 デッサン人形を思わせる人型の姿なのは、災害時の作業を想定もしている。人道的アピールもあるが、操縦者が人であるため、動かす際のイメージを優先した結果だ。


 また敵対的勢力が運用する無人ドローン兵器やオートマーダーフライに対して、市街地などの活動を想定、ドルフィンダイバーに対して深海での戦闘も考慮してある。


 武装はマグアブレードと呼ばれる硬質化するマグアメタル製の刀、それに電磁分解砲という特殊弾を頭部に装填していた。


 敵の武装進化が宇宙にも及ぶことも視野にいれ、背には音速を優に超える飛翔装置も設置されているという。


 一番の特色は搭乗するまでの時間だ。登録者の持つ携帯機器により、マグアードは流動体で飛んでくる。


 マグアメタルが流動するためか、稼動時にボディが白みがかった黄金色に輝く。そのためついた呼び名は「流星の天使」 ……人型に集まる姿が広げた翼のようだと言われた。


 マグアードは戦闘に重きを置いた兵器ではあるが、核廃棄物の処理など危険を伴う現場でも安全に作業出来る仕様となっている。


 名前の由来通りマグマ熱にすら耐えうる液化装甲は、防御に移行すれば太陽の炎にも耐えられる優れものだった。


 極秘プロジェクトは人目を避け富士の演習場の奥で、急速に進められる事になった。


 ◇


 木華 藤美(このはな ふじみ)は魔装兵科をトップの成績で卒業した、将来有望な魔装器兵搭乗者の見習い候補生だった。


「トップクラスったって、お勉強だけだろ? 実技試験を含めるのなら俺が魔兵科一番さ」


 自信に満ちた言葉で藤美の前に立つのは、北山 雄彦(きたやま たけひこ)だ。筆記試験は及第点、実技……と言っても生身の武道試合においては優秀な成績をおさめる少年だった。


「…………」


 そしてもう一人、無口な少年が魔装器兵搭乗第一期候補生に選ばれたのが矢巻 瑞里(やまき みずと)だ。


「北山、騒ぐな。木華、北山、矢巻。以上の三人を第一期候補生とする。今回選ばれなかったものも、二期三期と選出してゆく。精進を怠るなよ」


 対テロ特捜部に新たに設置された魔装兵課。いわゆる治安維持の名目と、敵対行為の未然防衛の為に作られた軍事組織である。


 テロ活動において猛威を振るうようになったドローン兵器をはじめ、水際から侵入する敵国の破壊活動の阻止が主な目的だった。


 彼らに用意された魔装、マグアードと呼ばれる人型の搭乗マシンは三台。実習用に試作型が二台、予備が一台で計六台。


「ぶっちゃけ本気で攻め込まれたら、たった六台じゃあ守れないっすよね、先生」


 試作型を使った模擬戦で木華に負けた北山は、悔しいのかしきりと余計なお喋りを続ける。


 教導官を務める田宮 明義(たみや あきよし)は、頭を抱えた。北山の発言のせいではない。


 時間がなかったとは言え、候補生の選考にはいささか疑問があったためだ。


 それは魔装器兵の搭乗システム……つまりコックピットが旧来兵器のレバー操作式を採用した事による弊害とも言えた。


 旧式機器は、伝達に遅れとマシントラブルを引き起こす。本来なら必要のなかった能力がいまだに必要となる。魔装器兵を動かす為の体力や知識を要する事になるからだ。


 マグアメタルを使う事で、半永久的に運用が可能の新兵器のはずだったのが、政治屋共の悪い癖で半端な性能に落とされてしまった。



 自衛隊との実戦を兼ねた合同演習で、候補生三名の搭乗する魔装器兵は成果を上げてみせた。


「有人である以上、煙幕などで視界を塞がれるのが痛いわ」


「片っ端からぶっ飛ばせば問題ないさ」


「…………」


 演習後のミーティングで、真っ当な意見は木華のみだった。教導官の田宮は深くため息をついた。


 粉塵による視界遮断に関しては、細菌兵器に対する浄化機能を作動させる事で解決出来た。


 不安を残しつつも、マグアードは実戦に耐え得ると判断され、正式に採用される事になった。


 魔装器兵マグアードの登場により、日本へ侵攻を謀るいくつもの飛翔体と潜水体が密かに沈められるようになった。 


 ◇ ◇


「日本の自衛隊の配備が大幅に変わったようだ」


 ────狭く薄暗い部屋で、卓上照明のみを頼りに机に向かう女性の姿が見える。乱雑に積まれた本と資料らしき紙の束は、いくつか足元に崩れ落ちたままとなっている。


 何か独り言を呟き、机に散らばる紙の束にいくつもの数式書き込んでいる。


 知らせを届けに来た男は、散乱した資料を踏まぬように注意しながら部屋に入る。


「……ようやく正式に稼働を始めたのね」


 研究熱心で、振り返る事もなく諜報員がもたらす情報を当ててみせる。少女のような姿をした女性の名は粟倉 藤子(あわくら ふじこ)という。


 父の無念を晴らすべく、一人でマグアメタルの特性について研究を続けていた。


 彼女が生まれたのは父、粟倉光英が病で亡くなった年になる。四十年近くも前の事で、彼女自身は父の思い出などなかった。


 藤子がどうして父の研究を引き継ぎ無念を晴らそうなどと思ったのか。それは父の残した手記を読んだからだ。


 粟倉光英は自身の研究施設が閉鎖される前に、重要な資料のみを密かに持ち出していた。彼は初めから研究にストップの声がかかるのがわかっていたらしい。


 粟倉の考えは、世を騒がせた墜落事故により確信に変わる。情報を隠蔽すれば彼の生命はなかっただろう。父はあえて研究資料を施設へ残した。


 ────最重要部分は全て書き換えて。


 粟倉光英は、失意を胸に自暴自棄な生活を送り身体を壊した……それが世間に伝わっている事実だった。


 しかし彼は病んだふりをして公安を欺き、研究を続けていたのだ。実験設備などないために、研究の大半は机上の空論ならぬ理論を書き上げるだけだったが。


 研究には妻の博子(ひろこ)が協力してくれた。研究所を追われた際に得た退職金と彼女のパートでの稼ぎで生活費用のやり繰りを行う。父は研究資料を託せる相手が見つかるまで、隠し通すつもりだったのだ。


 ……だが病弱を装い、あまり外へ出ることのなかった粟倉光英の身体は、本当の病に冒され帰らぬ人となってしまったのだ。


 もっと早く粟倉の研究が脚光を浴びていれば結果は違ったのかもしれない。


「──戻って会長さんに伝えて。あれは紛いものに過ぎないと。父に代わり、私がそれを証明してあげるわ」


 振り向くことのないまま、藤子は手を振った。研究施設の閉鎖を迫った某国の連中は、粟倉光英の研究の本当の危険性を知り恐れている。


 極秘プロジェクトを起ち上げるなど、出し抜かれた面はある。あのような玩具で満足してくれてるのならば、大陸の連中を掃除するのに都合が良いと考えるはずだ。


「ただいつまでもあの連中相手に、誤魔化せるはずないよね」


 諜報員の男が差し入れを置いて帰った後、閉まった扉をみつめて藤子は独り呟いた。


 ◇ ◇ ◇


 海自の特殊部隊として、魔装器兵マグアードの運用が決まる。特別軍事対応部隊魔装課、略して「特魔」と呼ばれるようになっていた。


 メンバーは教導官を部課長に据えた四名のままだ。


「やれやれ、失態を見せればいつでも切りやすいからって補充メンバーもなしか」


 真守グループから多額の研究資金が出ているのにも関わらず、この有り様だ。


 新部隊の国防費まで平然と懐に納めてしまう連中こそ害悪な存在として始末すべきではないか。部隊を任される事になった田宮は己の運のなさを嘆いた。


 メンバーが変わっていない事に、手札の仕込みだけは念入りに行うものだと、逆に感心したくらいだ。


「全員揃ったようだな。我々はこれから人民軍エージェント──通称『レッド』 と、もっともやり合っている地域に派遣される」


 真守グループが協力を申し出た理由でもある地域では、国籍不明の海軍が頻繁に訪れ、近海の島を狙っている。


「海戦か。あまり面白くないんだよな」


 北山がつまらなそうに不満を訴える。特別な兵器、特別な部隊への配属に胸を躍らせるような若者は減った。


 選ばれた三名のうち、魔装器兵に関心があるのは木華だけ。北山は政府公認の戦いを求め、矢巻は高給に惹かれた。


「魔装技師達の家族の住むこの町にも頻繁に襲撃がある。敵も狙いを露骨に絞ってみせて来た。近々大規模な作戦が敢行されると予測が出たそうだ」

 

 大掛かりな戦争になると、同盟国も黙っていられない。軍隊を派遣すれば言い訳が効かなくなる。だが無人の機械兵のならば、故障のせいに出来る。


 情報がもたらされたのが、どういう理由からなのか、田宮は考えたくもなかった。


 休むことも考えると二交替制で、常時出撃の可能なのは一機体のみ。特魔部隊に用意されたのは倒産した会社の跡地。


 オフィスビルをそのまま改装したので、魔装課の四名に、メンテナンスの者が二名、調査補助のための警官が十名配属された。


 プロジェクトを掲げた割に場当たり感が強く現場任せ。そして予想以上に未確認国籍の襲来に晒される事になった。


「こちら、木華。目標の三日月島近海にレッドの小型原潜2艇確認。潜兵出撃前に叩きます」


 三日月島とは、日本の排他的経済水域の少し先にある太平洋上の島だ。どこの国にも属さない、金星人の暮らす島と言われている。


 アメリカ、ロシア、中国など軍事強大国が所有を巡り軍を派遣して来るため、幾度となく衝突を繰り返していた。最近ではイギリスやフランス、オーストラリア、インドなども加わり、同盟国同士ですら戦闘に発展する危険地帯となっていた。


 中でもレッドは人海戦術を使って押し寄せてくるため、一番嫌がられていた。


 魔装器兵の開発に真守グループと金星人の技師が協力を申し出た理由は、今後を見通して日本に仲介させるためだ。


「退避勧告が先だ」


「ですが、それだと潜兵が出てきますよ」


「わかっている。待機中の北山を向かわせる」


「了解。五分待ちます」


 さして戦果をあげる事がなく、焦りを感じていたのが懐かしい。この地に来てから毎日が戦闘となっていた。


 冷静な木華も疲弊が激しい。馬鹿正直に通告などしなくても、そう呟く声が田宮の耳にも届いた。


 魔装器兵マクアードの海中での優位性も証明された。ドルフィンダイバーと呼ばれる水中型無人ドローン兵器は、誘導タイプの魚雷のようなものだ。


 水中で目標を捕捉し、爆発するだけで機械的な追尾しか出来ない弱点があった。


 潜水艇から指令を出す事で、ある程度コントロールは可能だ。しかし、機動性に優るマグアードは、触れる前に破壊が可能だった。


 射出されたドルフィンダイバーは六十近く。木華一人で捌くには数が多すぎる。


「お待ちかね、俺様の出番だぜ」


 マッハ2近い速度。減圧処置や耐G処理をされていても、実際そんな口を叩く余裕はない。


 普段から高圧的な北山だったが。敵の大軍に自分から飛び込んでいく勇気はあっても、魔装器兵に信頼を持っていなかった。


「怖じけたのなら帰りなよ。足手まといだ」


 すでに敵に囲まれながら、マグアブレードを片手に深海で動き回る木華。空中と違い海中、それも深海となると別な恐怖が生まれる。


 マグアードの性能の問題ではない。戦闘が長引く事による酸素等の給気、眼前の暗闇への孤独感。有人機体ゆえの精神的な恐怖までは如何ともしがたい問題であった。


「う、うるせえ。俺がビビるかよ」


 恐怖を打ち消すために、吠える北山。深海の戦場から届く二人の声に、部課長となった田宮も気が気でない。


 暗い海中、敵の発光信号を頼りに撃破し続ける二機のマグアード。木華は宣告の後、真っ先に潜水艇を潰していた。


コックピット(余計なモノ)のせいで海中だと鈍い」


 実装されたばかりだというのに、木華は魔装器兵の弱点に気がついていた。袂を分かった母の言葉の意味がよくわかった。


 魔装器兵はまだ未完成なのだと。次世代技術を中途半端に取り入れたせいで、プロジェクト本来の試案から違う形のものが出来あがった。


 政治家の介入でおかしくなった────そうぼやく教導官、部課長となった田宮の考えは正しい。


 人員を増やさないのも、結局旨みだけ奪って廃棄するためだった。政府ははじめから国防の危機など眼中になく、目先の利益と我欲が満たされれば充分だったのだ。


「冗談じゃない……こんな所で死んでたまるか」


 増援の潜水艇が二艇現れ、ドルフィンダイバーがさらに三十機体展開された。


「────うわぁぁぁ!!」


 北山の機体から悲痛な叫びが聞こえる。臆したのならそのまま逃げ出せば良かったものを、彼は恐慌(パニック)に陥り、魔装器兵から脱出装置(カプセル)を使って降りてしまったのだ。


 魔装器兵なしに、脱出装置(カプセル)は動けない。まして深海。五十を越える敵機の中、僚機と脱出装置(カプセル)を回収し逃げるのも困難だ。


「恨むなら……政府機関を怨みなさいね」


 北山は哀れな犠牲者だ。おそらく矢巻も同じだ。彼らは失っても痛くない人的モルモットだった。


「それは私も同じか……」


 木華がこの特魔に選ばれた理由は、彼女が祖父の粟倉光英の孫娘であると知られたからだろう。


 魔装兵科をトップの成績で卒業した将来有望株……そんな煽てにまんまと乗せられ自分から棺桶に足を入れてしまった事に悔いはない。


「欠陥品でも……やれる所までやってやるさ!」


 ────無人の敵。孤独な深海の戦場で木華は吠えた。矢巻はともなく、お人好しで心配性な田宮や少し打ち解けた魔装課の人々には、はうまく逃げて欲しいなと思った……。


 木華が撃破した潜海兵器ドルフィンダイバー六十八機。操作と回収不能にさせるため、潜水艇は全て撃沈していた。


 一時間以上に及ぶ戦闘時間、魔装器兵マグアードの損傷は軽微だったていう。


 救援要請を受けて飛び立った矢巻は、残敵の掃討と機体及び搭乗者の回収を行う内に、別な国籍不明の海軍に攻撃を受け、深海に沈んだ。


 政府肝入りのプロジェクトは僅か一回の海戦で全滅となって終了した。魔装兵課の部課長だった田宮を始め、技師、職員全てが懲戒免職となった。


 経済界において頭角を表し始めた真守グループをやり込める為の計画だったのでは、識者の多くはそう考えていた。もちろんそれを口にする事はない。


 実際マスコミを使ったメディアの論調は、真守グループを死の商人に仕立て上げて叩いていたからだ。


 この事件を機に、本当の事は誰も口に出来ない異様な世の中に変わっていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ────撃墜されたはずのマグアードと共に、木華藤美は黄金郷の中で目を覚ました。


「ここは、いったい……?」


 簡素な部屋には小さな窓があり、心地良い風が吹き抜ける。鼻をくすぐる空気には、海の香りがする。


「気がついたようね」


 真っ白な部屋。そこらに置かれたよくわからない形の黄金の像の数々。開け放たれた入口から聞き覚えのある声がした。

 

「────お母さん……」


 マグアメタルに関する研究を祖父と母が追い続けていたのを、木華藤美も知っていた。


 撃墜され深海に沈む彼女を助けてくれたのは母、粟倉藤子だ。


 どうやって娘を助けたのか、その答えは言わなくてもわかる。目の前に現れた母親は母であって母でないものになっていたからだ。


「マグアメタルは……金星人の技術よ。この三日月島はマグアメタルで守られているの」


 母の説明で藤美はようやく全てが腑に落ちた。真守グループは金星人の保護と引き換えに、彼らの高い技術力を得た。


 それを良しとしない勢力が日本政府に圧力をかけ、四十年近く前の失われた技術を開発させた。


 プロジェクトの目的は二つ。真守グループの信頼失墜と、金星人の住まう三日月島の黄金郷への侵入手段の確認だ。


「浅はかな連中よね。常に奪い取った技量でしか物事を測れない」


 マグアメタルに身を包めば、三日月島へ入る事は可能だと、実験部隊が示した。藤美は敵の誘導に気づかず、島に張られているという結界領域へ入り込んでいたのだ。


「マグアメタルを受け入れないものは、ここに入ると黄金に変わるの」


 金星人が何故金星人と呼ばれるのか、その秘密がマグアメタルにより解明された。


 人の常識で測れるのは、人が作った常識という範疇の枠の中だけという事を母の言葉で思い知らされた。


「古代文明で失われた技術の一つに錬金術というのがあるわ」


魔法の世界(ファンタジー)とかそういうやつ?」


「そうね。それに近いものを金星人(彼ら)は持っているの。この身体も、マグアメタルの力がなければ失っていた」


 母は粟倉光英の研究を完成させていたのだ。祖父と母は己の知識のみを頼りに、失われた文明の技術の一つにせまってみせたのだ。


 金星人でないものの侵入に、島は大パニックに陥ったそうだ。


 母が見せてくれた設計書の魔装器兵の本来の姿は、錬金生命体と書かれていた。魔装器兵に余計なもの(コックピット)などいらなかったのだ。


 無人兵器を相手に有限の体力しかない人の身で挑む事に、ずっと違和感があった。


 半永久燃料でもあるマグアメタルとの、人器一体化こそが魔装器兵の正しい姿だった。藤美はようやく疑問が解消され納得した。


「私は父の研究の正しさを証明し、助けてくれた金星人(彼ら)の為に戦うわ。藤美……あなたはどうする?」


 反政府運動に身を投じる母についていけず、一度は袂を分かった母からの誘い。


 彼女は傀儡と化した政府など、端から信用していない。彼女は日本を影から支え守って来た真守一族と、協力してくれる金星人の為に戦っていたのだ。


 それならば、藤美の答えは決まっている。彼女とて故郷を守りたい。


「本来なら少しずつ体内に入れて慣らしてゆくのだけど、侵入方法が知られた今、時間がないわ」


「それって町の居酒屋で販売していた『金魚ビール』でしょ。そうか、それであの町は不可思議な事が起きていたんだね」


 藤美は配属となった町の様子を見る為に、何度か出歩いていた。その時に見かけた謎の液体の正体がここにあったと苦笑いした。


 金魚ビールなる飲み物を飲むと力が湧いたり、病気が治るのもマグアメタルの成分が入っていたからだと理解出来た。


 ただマグアメタルの力で一気に錬金生命体……いわゆる金星人化すると、拒絶反応で死に至るリスクが高まることがある。徐々に身体を慣らすのが一番なのは確かだった。


 しかし嵌められたとはいえ、敵を招き入れるきっかけを作ったのは藤美だ。時間がないのなら選択は一つしかない。


「────責任を取りたいのもある。でも、この国をめちゃくちゃにした奴らを私も懲らしめたい!!」


 一年後、人類初の星間戦争の幕が日本の近海で上がることになる。金星人は悪────この概念を地球人に植え付けた組織を壊滅させるまで、戦いは続く事になる。


 錬金魔装器兵マグアードは真の姿を完成させ、木華藤美は救国の英雄として、名を馳せる事になったのだった。

 

 

 お読みいただきありがとうございます。バンダナコミック01用に新しく投稿した作品になります。


 

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