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【短編】ヤキモチ焼きな婚約者の様子が最近おかしい

掲載日:2023/05/04

 アルバート・ユング男爵令息には二歳年下の婚約者がいる。

 エミリー・アドミア。男爵家の次女で今年十六歳になる御令嬢だ。


 ユング家とアドミア家は当主同士が非常に仲が良い。

 その結果彼らの子息子女である二人は早々に父親の意向で婚約を結ばされた。


 アルバートはエミリーのことが決して嫌いではない。

 ふわふわとした茶色の髪と黒スグリのような円らな瞳はリスのようで愛らしい。

 喜怒哀楽を表に出し過ぎるのが令嬢としては玉に瑕だが、その素直さに癒される時もある。

 恋人や結婚相手というよりは小動物を愛でる感覚に近いが、それでも好意を持っていた。


 正直すぎる彼女はとても嫉妬深かった。

 アルバートに近づく女性は彼の母親以外は全て嫉妬の対象だった。

 メイドたちにさえ威嚇するような視線を投げかけていたので注意したところ。


「アルバート様は鈍いから気づいていないだけです!」


 そう頬を膨らませながら言い返されたので困惑したことを覚えている。

 当時はエミリーも十歳になったばかり。

 成長すれば焼餅焼きな性格も少しは改善するだろう。


 自分は愛人をつくるつもりはないし、そもそも女性に興味は無い。 

 何回も言い聞かせているのでそのことをいつか彼女も理解してくれる筈。

 十二歳だったアルバートは側近のフロイドと相談した結果彼女を見守ることにした。



 そして六年が経った。




「なあ、最近あのお子ちゃまの様子おかしくないか?」   

「お子ちゃまって言うな、僕の婚約者だぞ」



 無礼過ぎる側近の台詞にアルバートは言葉だけの叱責をする。

 艶やかな黒髪と紫の瞳が魅力的な美青年、フロイド。


 彼はアルバート付きの乳母の息子で今は役目を終えた母の代わりに彼へ仕えていた。

 二人は生まれた頃からの付き合いで友人であり悪友であり兄弟のような関係。


 そのせいか主人と侍従という関係だがアルバートに対するフロイドは今のように遠慮が無い。

 無礼と取れる発言もアルバートはフロイドだけには許している。

 二人はユング男爵家の庭にいた。


 もう少ししたらエミリーがここに見事に咲いた薔薇を見に来る。

 その前に庭に異常が無いか見回っていたのだ。

 

 別にフロイドだけでも構わなかったが、アルバートも気分転換に散歩感覚でついてきたのだ。

 二人だけで美しい庭を歩く。口調も知らず友人同士の気安い物になっていた。



 流石に他の人間がいるところではフロイドも口調を改めるが、それでも親密な態度は隠さなかった。

 嫉妬深いエミリーがそれを許せる筈も無い。



「そのお前の婚約者、少し前まで俺に対して散々キャンキャン言ってただろ」


 アルバート様に対して無礼過ぎるわよ貴方、その口の利き方はなんなの?!って。

 フロイドの似ていない物真似にアルバートは吹き出した。


「ちょっ、お前。エミリーは流石にそこまで頬を風船みたいにしてないよ」

「いや、してるだろ。少なくとも俺の前ではいつもこうだったぜ」


 あんな態度で男爵夫人が本当に務まるのかね?

 整った眉を顰めて言う従者にアルバートは苦笑した。


「それはまあ、大人になればしっかりするよ。それに最近はそこまで焼き餅焼きじゃないだろ?」


 

 従者にそう言いながらアルバートは婚約者のことを思い出す。

 半年前からだろうか。読書好きで絵画が趣味の伯爵令嬢と親しくなってから落ち着きが出て来た気がする。

 今では自分でも小説のようなものを書いているらしい。 

 そのせいか以前のようなポンポン悋気を爆発させる癇癪玉のような性格では無くなった。

  

「僕が見る限りだとお前に対する風当たりも弱くなった気がするよ」


 アルバートの指摘にフロイドも首を傾げつつ同意する。


「そうなんだよな、アルバートと適切な距離を取れ。使用人の態度じゃないってあんだけうるさかったのに」



 今は俺とお前が話しているところを黙って見ているだけなんだよ。

 そう口にするフロイドは主人の婚約者の態度が軟化したことに対し嬉しいというよりも気味悪そうな表情をした。



「なんかこう、観察してるみたいな? それで時々頬を赤らめてたりするんだよ」



 もしかして俺に惚れたんじゃないか。

 不安そうに告げる幼馴染の従者にアルバートは目を丸くする。

 しかし目の前の青年は身分こそ平民だが非常に美しい外見をしている。


 確かエミリーが読んでいた本の挿絵もやたら美しい青年ばかりが描かれていた。

 その中の一人が今思い出せばフロイドに似ていた気がする。


 アルバートは思わず立ち上がり黒髪の青年の肩を強く掴んだ。


「おい、もしそうだとしても」

「わーってるよ、つーかあんなちんちくりんに手出す筈無いだろ。そんなことしたらお前の傍に居られなくなる」



 そんなリスクがあるのにお前の婚約者とどうにかなるなんて絶対無い。

 強い眼差しで言い切られアルバートは頬を赤らめた。

 彼を信頼しきっていなかった自分が恥ずかしかったのだ。


「すまない、お前が僕を裏切るなんて有り得ないと知っていたのに……!」

「本当、仕方ない御主人様だな。そんな泣きそうな顔するなよ」


 別に俺は怒ってないから。

 優しく頭を撫でてくるフロイドにアルバートは抗わなかった。



 そんな彼らの様子を薔薇が咲き誇るアーチの陰から見守る少女が一人いた。 

 けれど二人はそのことに気づかず、美しい瞳にお互いだけを映していた。



 そしてその半年後



「アルバート様、私は貴方と婚約破棄致します!」

「は?どういうことだエミリー」

「本当は偽装妻として二人の関係を応援するつもりでしたが、母に相談したところ絶対に許さないと言われまして……」

「偽装妻?いや僕は君をそんなものにするつもりはないけれど」

「そうですよね。フロイドのことを考えれば妻なんて作れませんわよね」

「なんでそこにフロイドが出てくるんだ?」

「御免なさい、関係を隠しておきたいのは理解しています。全く隠れていませんでしたけれど!」


 これからは当て馬婚約者の立場は捨て、貴腐人として二人を遠くから見守ることにします。

 そう言いながら走り去るエミリーをぽかんとした顔でアルバートは見送った。


 そして同日街へ遊びに行っていたフロイドは、本屋の如何わしい書籍が並んだ棚に自分と主人によく似た男たちが絡み合った表紙の小説を発見していた。


「なんだこれ?耽美小説?女子に大人気ってマジかよ」


 世も末だなと呟きながらフロイドは本を棚に戻す。

 それはある伯爵令嬢と男爵令嬢の身分を隠した共著で、後々大人気耽美小説として演劇化までされるが今の彼がそれを知ることは無かった。





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― 新着の感想 ―
[一言] 伯爵令嬢に腐教されたか…
[一言] 魍魎戦記マダラとか真女神転生だとかを楽しんでた世代なんですが いまだにBLと耽美の区別がつかないんですよね 耽美のほうが先に使われてたのは知ってるんですけど
[一言] 破棄した後2人で顔合わせた時の反応まで見たかったところ
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