7・双黒
邪竜と勇者という異色のとんでもカップルが誕生して1ヶ月が経った。
あれから、優里の冒険者ギルドへの登録をし、低ランクのクエストを失敗無しで淡々とこなし、既にBランク冒険者になっていた。
たった1ヶ月でBランクまで上り詰めるなど、常人には不可能なのであっという間に有名人になっていた。
この2人の事を世間は『双黒』と呼んでいる。
その由来は、2人の髪の毛が黒いからだ。
この世界の髪の色は金、赤、茶が一般的なので、髪が真っ黒の2人組は珍しいのだ。
「やっと魔物と戦えるようになったなー」
「Cランク以下の魔物はあなたの気配に怖気付いて出てこないもの。仕方ないわ」
「これでも抑えてるつもりなんだけどな」
「あなたのその膨大な力を、気配に敏感な魔物に隠し通せるわけないのよ」
「それもそうか」
欠伸をしながら呟くファフニールに答える優里。
優里は最初は物凄い堅苦しい敬語を使っていたが、ファフニールがどうしてもというので渋々タメ口で話すようになった。
そんな堅苦しい敬語を使うカップルの方が異常なのだが。
ちなみに、ファフニールの気配を一般人が感じ取る事は不可能だ。
しかし、1流の冒険者は危険に敏感なので感じ取る事ができる。
ファフニールは魔物と戦うと言っているが、実際は勝負になっていない。
ファフニールがちょっとデコピンを食らわすだけで瀕死になってしまうからだ。
ファフニールとやりあえるようになるのは精々Sランクの魔物からだろう。
そのSランク以上の魔物でも、竜の姿になったファフニールには歯が立たない。
全力のファフニールと対等に渡り合えるのは、数える程度しかいないだろう。
ちなみに、その中には優里も入っている。
ファフニールと優里がギルドの酒場で寛いでいると、1人の一々キラキラした装飾品の鬱陶しい男と、この護衛の男が3人が2人に近づいてきた。
「やあ、双黒のお二人。お初にお目にかかる。私はウォーズマン侯爵という。以後お見知り置きを」
「ん?なんだまた貴族か•••••で、何の用?」
ファフニールが飽き飽きした様子で適当に対応した。
優里は面倒だからという理由で沈黙を貫いている。
「貴様!ウォーズマン様にその様な口をきくなど、許されることでは無いぞ!」
「よい」
失礼な態度を取るファフニールに対して怒りを露わにする護衛の1人をウォーズマンが止める。
「貴殿達は凄腕の冒険者と聞く。なんでも、たった1ヶ月でBランクまで上り詰めたとか。その腕を見込んで我が配下にスカウトしに来た。私の豪邸に寝泊まりできるし、金もたんまりと与えよう。どうかね?悪い話ではないだろう?」
「フッ、論外だね。俺達を政治に利用しようっていうゲスい考えが丸見えだ。分かったらとっとと帰れ」
「な!?貴様!せっかく私が下手に出て勧誘してやったというのに、それを無碍にするとは!」
「おやおや、化けの皮が剥がれた様だねー。どうせ部下にもパワハラ、セクハラだらけなんだろう?容易く想像ができる」
「ぐぬぬ、好き放題言いおって。チッ、覚えておけ。お前達、帰るぞ!」
そうとだけ言い残してウォーズマンはギルドから姿を消した。
「流石だなユウト。侯爵相手にあんだけ言い返すとは」
「まあね」
そう言ってファフニールに話しかけるのは、最近仲良くなったソロのCランク冒険者のアランだ。
ファフニールからすると情報屋的な立ち位置だ。
たまにファフニールと2人で悪ふざけをし、優里に叱られることもある。
ちなみに、ユウトとはファフニールの偽名だ。
前世の名前でもある。
「あんなゴミども、死滅してしまえばいいのに」
「まあまあ落ち着け。お前が本気を出すとここら一体が消し飛ぶから」
魔力を体から放出させ、バチバチと雷を纏う優里を慌ててとめるファフニール。
アランの顔が若干引き攣っている。
「それにしても、最近ああいう奴が増えてきたな」
「本当に鬱陶しいわ」
「仕方ないよ。貴族っていうのはそういうもんだ」
「それもそうだな」
「じゃ、俺はクエストがあるから」
「ああ、また明日な」
そうしてアランは2人と別れた。
「それにしても不思議だわ」
「ん?何が?」
「皇帝よ。私が城を出ようとした時に、近衛兵全員で私を捕らえようとしたのに何もしてこないなんて」
「変なこと企んでなきゃいいんだけどな」
「そうね」
「よし、そろそろ宿に戻るか」
「そうね。考えすぎるのも良くないわね」
そうして2人はアレクシアにおすすめされた宿に戻った。
もちろん防音対策は忘れずに。(何をするかとは言っていない)
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