10・皇帝からの手紙
ある日の朝、ファフニールと優里はいつもの宿でコーヒーを飲みながら雑談をしていた。
そんな時、一通の優里宛の手紙が届いた。
「何かしら?」
「誰からなの?」
「えーっと、ごめんなさい。私、この世界に来たばかりだから、言葉を喋れても字は読めないの。私のいた時代とは随分と違うみたいだし」
「それなら俺が読むよ」
そう言われて優里は手紙を渡した。
「ふむふむ、え"!?これ皇帝からの手紙だよ!」
「んな!?あれほど関わるなと言ったのに!」
「と、取り敢えず内容を見てみよう」
「そ、そうね」
「どれどれーー」
手紙に書いてあった内容はこうだ。
『星野優里とその仲間へ
貴様らと仲の良いアランという冒険者を人質に取らせてもらった。此奴を返して欲しければ大人しく星野優里をこちらに渡せ。
皇帝ドルドティス・リントラージより』
実に簡易的な内容だった。
「こいつ!」
ファフニールは手紙を握りつぶしながらドスの効いた声で叫び、優里は無言で皇帝への殺意をむき出しにしていた。
その空間は異様な空気を発しており、常人が入ったら即座に気絶する程の雰囲気を漂わせていた。
2人とも、普段の言動からは考えられないほどに情に熱いのだ。
「なあ優里。こいつ殺していいか?」
「いや、今回の問題の発端は私。私にやらせて」
「••••••分かった。ただし、やるなら徹底的にだ」
「当然よ」
「早速殺ってくるわ。転移」
そうして優里はくちゃくちゃにされた手紙を持ち、皇城の前に転移した。
そしてファフニールはというと、
「ふう。一旦落ち着こう」
深呼吸をしながらかつて無いほどの怒りを鎮めていた。
(それにしても、)
「優里って転移使えたんだ」
そして優里が何の躊躇いもなく超高等魔法である転移を使ったことに絶句していた。
(前々から思ってたけど、優里ってワンチャン俺より強い?)
実際、優里は竜型のファフニールには敵わないが、人型のファフニールに勝つだけの実力はあるのだ。
まあ、そんな戦いが起ころうものなら、それは世界の滅亡を意味するのだが。
◇◆◇
城の前に転移した優里は深呼吸をすることで自身の怒りを鎮めていた。
優里はアランを人質にした皇帝にというよりも、自分のせいで他者に危険が及ぶという考えに至らなかった自分に怒りを覚えていた。
怒りを鎮め、城門を守護する兵に話しかける。
「皇帝から呼ばれた者よ」
「名前は?」
「星野優里よ」
「っ!貴様がか。悪いが皇帝陛下より貴様が来たら捕らえよとの命令だ。覚悟!」
4人の兵は同時に優里に襲い掛かる。
しかし、
「悪いけどあなた達に構っている時間は無い。重力増加!」
「ぐふっ、な、何だこれは!?体が!」
「あなた達に掛かる重力を増加させたわ。あなた達ごときでは、私の敵にはならないわよ」
優里はそうとだけ言ってパチンと指を鳴らし、さらに重力を増加させる。
重力の負荷に耐えられなくなった兵達は、全身から大量に出血し、間もなく絶命した。
「このくらいの魔法、私の時代の兵なら対処できて当たり前だったのだけれど」
実際、重力を操る重力魔法を妨害するのは簡単だ。
自身を魔力による見えない結界で囲めばいいのだ。
このくらいの技術は、常人でも少し訓練すれば出来ることだ。
重力魔法は他の魔法と比べてとても緻密な魔力操作が必要になる。
だから、妨害するのは然程難しくないのだ。
普通の重力魔法なら。
優里は転生と異世界召喚により、完全に世界の理から外れている。
そんな化け物の魔法を、たかが城門の兵ごときが防げるわけがないのだ。
実際、魔法を放たれた兵は咄嗟に自身を魔力で覆っていた。
しかし、優里の圧倒的な魔力の前には無意味だった。
その事に優里は気づいていない。
今はまだ。
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