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おかけになった電話番号は。

君を失って ーおかけになった電話番号は。3 ー

作者: 由宇ノ木

最後の話。





君を失って、全ての友人も失って、両親からも見放された。

幸福に過ごせていたあらゆる場所を失った。

仕事さえも────

気がついたらすでに半年が過ぎていた。

君に対する慰謝料を払うように俺の両親から急かされた。

君の両親からは、連絡は必ず弁護士を通せと言われた。

一度でいい。君に会って謝りたいと弁護士に申し出たが拒否をされた。


慰謝料もいらないと、君が拒否をしたと聞いて、まだ愛が残っている気がした。


どこまで自惚れが強いのかと、偶然会った同僚だった男に言われた。


君は先月結婚したのだと。


見合いをし、そのまま望まれて結婚したのだと。


胸を突き刺された。


君は、ああ、君は・・・!


初めて泣き崩れた夜────


どこかで夢を見ていた。

君とやり直せると。

時間がたてばまたきっと君と。


『ふざけるな。結婚間近にお前がほかの女とホテルで寝てたのを知ったときの、彼女の悲しみ苦しみはそんなもんじゃなかっただろうよ』


鏡に映る、若いくせに死人のようなもう一人の俺が俺をなじる。


いっそ死んでしまえたら────


何度も考え何度も考え直す。


俺が死んでも彼女の迷惑になるだけだ。





新たに小さな会社を起こした。

仕事をした。

必死に働いた。

仕事をとるための土下座も、バカにされることも、どんな屈辱も、君の悲しみと苦しみに比べたら比較にならない。


本当に、本当に。





やがて、父が死に、母が死に、俺には家族と呼べるひとはいなくなった。


独身を貫いた俺には両親だけが家族だった。

両親にも申し訳ないことをした。

俺は両親のささやかな夢も奪ったのだ。

君と賑やかな家庭を築いて、老後は笑って過ごせたはずだったのに。両親と仲の良かった君・・。



必死に働いたおかげで会社は軌道にのり、支社を出す話まで出ている。

個人資産もだいぶ増えた。


鏡を見る。


映るのは年老いた男だ。


若い時分に愛するひとを裏切った、年老いた男だ。


あれから半世紀以上たち、年老いた男は孤独に死を迎えようとしている。


君が亡くなったと聞き、年老いた男ももう生きなくていい。


もしも君に、君達家族に、不幸が降りかかろうものなら、それは俺が追い払おうと思っていた。そのためにも働いて働いて金を稼ぎ地位を築いた。


けれど君は最後まで幸せだったと知った。家族に囲まれ、穏やかに逝ったのだと知った。


貯め込んだ資産の処理を弁護士に頼んだ。

資産はすべて寄付にまわされる。


君が幸せでよかった。


本当に、本当に。


君と一緒に過ごせた時間だけが唯一の宝物だよ。



俺のまわりには誰もいないけど、死は安らかにおとずれてくれるだろう。








end



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