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『キング オブ マスターズ』  作者: 大和大和
~スタートカラーズ・セットアップ~
8/70

第8話 カードゲームの醍醐味





「俺は1マナを使い、手札からスペル『痛み分け』を発動します」

「何だって!?」

「全てのプレイヤーのライフに1ダメージ。さらにバトルゾーンにいる『苦鳴の龍ベルギア』の効果を発動して、相手のライフに3ダメージ与えます」

「うわあ、やられた!」


 相手のライフが0になった。

 すると、周囲から「うわー」「すごい!」「ありえねー!?」だのと集まっていた子供たちが騒ぎ立てる。

 手札をテーブルに置き、大きく仰け反った店員はくたびれた様子で口を開いた。


「また負けちゃったかぁ」

「ありがとうございます、レオさん」


 あれから三回もバトルを挑んだ俺は、店員であるレオさんを相手に三勝を上げてみせた。

 レオさんはカードをまとめ、デッキを整えると、少し悔しそうな表情を浮かべた。


「クロハル君さぁ、ちょっと強すぎないかい?」

「えっ、そうですかね?」

「そりゃあそうだよ。だって、こんなに手も足もでないバトルなんて僕は初めてだよ?」


 店員であるレオさんとの三回のバトル。

 その内訳は、全て『苦鳴の龍ベルギア』の効果を使って一気に相手のライフを0にする。

 通称、『ベルギアワンキル』と呼ばれる動きでの勝利だった。


 『ワンキル』とはワンターンキル、つまり、一ターンの内に相手を倒し切ってしまう動きのことだ。

 悪いのはそんな動きを可能にする『苦鳴の龍ベルギア』の効果と、そのコンボを見つけたカードゲーマーたちである。


 俺は悪くねぇ。


「じゃあ、約束通り一箱貰いますよ」

「バトルの時に言ったけど箱であげるのは今回だけだよ?」

「えぇ、わかってます。大丈夫です」


 確か、二回目のバトルの時だったか。

 「レオさんに箱をください」とお願いしたところ、渋い表情で今回だけなら、という条件を頂いた。

 その後に、お店の収益にも関わるから本来は箱を渡すことはしない、ということを教えて貰った。


 それはそうだ。

 毎回バトルで負ける度に箱を渡してたらすぐにお店は潰れてしまうだろう。

 そのことを理解した俺は、約束通り箱を持って来てくれたレオさんに対して深く頭を下げた。


「無茶苦茶なお願いをしちゃってすいませんでした」

「本当に、今回だけのサービスだからね?」

「次からはちゃんとパックだけにします」


 初来店サービス、ということで大目に見てもらったということを忘れないようにしよう。

 俺の言葉を受け、頼むよ、と返したレオさんはデッキを持ってカウンターに戻っていった。

 近くにいた子供たちもバトルが終わった途端に、感想を言い合いながらそれぞれの場所に戻っていく。

 そんな中、箱を目の前に置いた俺は、そこから一枚のパックを手に取った。


「うわあ、すごいね。クロハル君」

「そうだな」


 俺の対面に座ったアルスは、期待に輝く目でパックの詰まった箱を見つめている。

 ちなみにコイツは俺とレオさんが二回目のバトルをしている時に戻って来た。

 多分、子供たちが騒ぎ出したからバトルしていたことに気付いたんだろうな。


「何だったら一緒に開けるか?」

「えっ、いいの!?」


 いいのもなにもないだろう。

 カードゲームをやっていて一番楽しい時。

 それは他でもない。


 ――カードのパックを開けている時だ。


「じゃあ、開けるぞ」

「うん!」


 さて、どんなカードが出てくるのだろうか。

 期待を胸に、パックに指を掛けた俺は一気にその封を切った。




 ☆☆☆




「うーん……」


 パックを切り、中から取り出したカードを一枚一枚横にずらしながら見ていく。


(このパック……まさかと思ったけど)


 封入された八枚のカードの内の最後の一枚。

 『スライム』のカードを見終わると、俺はそれを見終わったカードの山の上に置いた。


 『スライム』

 コスト1/水属性/アタック1/ライフ1

 【効果】


(やっぱりか。初期の頃のカードだな)


 間違いない。

 このパックに入っているカードは、キングオブマスターズを始めたばかりの時に配られたパックと同じだ。

 そのことから、今、この世界で使われているカードが初期のものだと知った俺は、腰に付けたデッキケースに目を落とした。


(どうりで強いわけだよお前……)


 ケースの中に入っているであろう俺のエース『苦鳴の龍ベルギア』。

 その絵柄を思い浮かべ、初期の頃を思い出した俺は小さな溜め息を一つ吐き出した。


 カードゲームには、必ず最強格のデッキ――『環境デッキ』というものがある。

 それはキングオブマスターズでさえも例外ではない。

 特に、初期の頃ともなればカードが少なく、強いカードに対抗できるカードも少ない。

 そういったことから当時の環境デッキは一強になりやすい、という特徴がある。

 その代表が俺の使っている『苦鳴の龍ベルギア』などが入った闇属性デッキだった。

 このデッキが当時、どのくらい強かったかと言うと、他のデッキに対して大体有利を取れ、先行でも後攻でも勝ちを狙えるくらいには強かった。

 かといって絶対に勝てる、というデッキでもなかったし、天下もそう長くは続かなかったけどな。


 それに。

 他に強いカードがないことはないのだが、


(明らかにベルギアが強すぎたんだよなぁ)


 デッキケースからテーブルの上に目を戻す。

 丁度その時だった。


「わっ、当たった!」

「おん?」


 アルスが一枚のカードを見ながらあっと大きな声を出した。

 なんだ。

 一体何を当てたというのか。


「どうかしたか?」

「うん! えっと、『焔剣の戦士バンガル』……だって!」

「へぇ」


 これまた懐かしい名前が聞こえたな。

 アルスからカードを受け取った俺は、それをまじまじと見つめた。


 『焔剣の戦士バンガル』

 コスト7/火属性/アタック5/ライフ4

 【効果】

 『速攻』

 ①このユニットは自分のドロップゾーンに火属性ユニットが3体以上いれば召喚コストを3減らして召喚できる。

 ②このユニットがバトルゾーンに出た時に発動できる。自分のバトルゾーンにいる他のユニットを全て横向きにし、そのターンのエンド時まで、このユニットは横向きにしたユニットの数だけライフを+1し、追加攻撃できる。


(相変わらず良い効果してるよなぁ)


 今更だとは思うけど、念の為に言っておこうと思う。

 『キング オブ マスターズ』は、『ワンキル』が当たり前のように行われるカードゲームだ。

 故に、プレイヤーには『如何にして相手にワンキルをさせないか』というプレイングが求められる。


 特に大会に出るようなプレイヤーはこれを当たり前のようにやってのけるヤツばっかなわけだ。

 控え目に言って頭がおかしいと思う。

 俺の使っている『苦鳴の龍ベルギア』はワンキルの代表的なカードだが、実はというと他の属性のデッキでもワンキルはできる。


 その一つが、この『焔剣の戦士バンガル』だ。

 こいつはユニットを並べてからバトルゾーンに出すことで最大で五回も攻撃することができる。

 五ダメージを四回で二十ダメージ。

 最大回数である五回ならば二十五ダメージ。

 条件は難しいが、決まれば爽快な気分になること間違いなしだろう。



「よし、じゃあまずはウルトラレアが一枚だな」

「ウルトラレア?」

「おう」


 首を傾げたアルスに、『焔剣の戦士バンガル』のカードを見せる。


「ほら、カードの端っこが金色に光っているだろ? こうなってるカードは一番珍しいカードなんだ」

「へぇ、そうなんだ! じゃあ、すごいカードが出たってことなんだね!」

「そうなるな」


 何だかアルスと話していると知能レベルが落ちそうな気がしてしまう。

 そのうち俺も「わあ、君は何々ができるフレンズなんだね」とか言い出すのだろうか。

 ……それはちょっと、遠慮したい。


「良いカードが出た、ってことで。どんどん開けるぞ、アルス」

「うん!」


 まだパックは残っている。

 幸先のいいスタートを切り、気分もいい感じに上がっている。

 俺たちはその後もいそいそと一喜一憂しながらパックを開けていった。



2022/7/30 色々と修正しました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >カードゲームをやっていて一番楽しい時。 >..... >――カードのパックを開けている時だ。 この点を捉える、スートリーになるなところ [気になる点] せっかく一箱開けのに、アプリ版の…
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