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『キング オブ マスターズ』  作者: 大和大和
~ニューカラーズ・エントリー~
70/70

第70話 今日の友は明日も友達




「〜〜〜〜〜っ! やったぁ〜〜〜〜!! 勝ったぁ〜〜〜〜!!」


 スーッ、と下から出た光に包まれながらアルスが喜んだ。

 両手まで挙げちゃってまあ。

 ……もしかして、俺がボコしすぎたせいか?

 いやいやいやいや。

 総合戦績は勝ち越してるけど俺だってアルスには何回も負けてる。

 だからセーフ……なはず!


「あらら。うちのルードは負けちゃったか」

「どーよウチの子は。すごいだろ?」

「うん、すごいね」

「だろ」


 正直、アルスの負けだなと思ってたのは内緒で頼む。


「あそこまでやって一気に返されちゃうなんてね」

「あー、まあ、そうだな」


 火属性のデッキは長期戦になるとほぼ負ける。


 というのが俺を含めた『キンマス』プレイヤー全員の認識となっている。

 その理由としては主に『リソース能力が低い』ってことが原因だ。

 水属性なら大量のドローカード。

 俺の好きな闇属性ならドロップゾーンから使えるカード。

 光属性や土属性、風属性でもドロップゾーンからカードを拾ったり、手札を増やしたりできる。

 要するに、カードの使い回しができる。

 ということだ。

 だが、火属性にはそういったカードが他の属性に比べて少ない。

 そうなると長期戦になればなるほどその差は大きくなってしまう。

 だから、火属性とのバトルではいかにして長期戦にまで持ち込むか、って部分が大事になってくる。


 その代わりに火属性は一枚一枚のカードパワーが高かったりするわけなんだけど。

 一応はそんな感じだ。


「あいつ、引きが良い時はとんでもない引きをするんだよな」

「そうなの?」

「そうなの」


 オマケに、だ。

 とにかくライフが0になるまで粘ってくる。

 そりゃあもう納豆とかとろろみたいに粘ってくる。

 その粘り強さもアルスの引きの強さを際立てる要因なのかな、とは個人的に思っている。

 実際に負けた時のバトルは大体がアルスの粘り勝ちだしな。

 マジでこれなかったら勝てる、ってところで引いてくるんだからやられる側としてはたまったもんじゃない。


「クロハル君!」

「おっす。お疲れアルス」

「うん!」


 服も髪型も元通り。

 何もかもピンピンな姿になったアルスが俺のところに走ってきた。

 いつものことだけど、やっぱり尻尾を左右に振ってるような幻覚が見えるよ俺。


「アルス」

「ルード君!」


 あ、ルードも来た。

 どうやら落ちたカードは全部拾い終わったようだ。

 立体アクティブバトルはやってる時は楽しい。

 本当に。

 だけど、負けるとカードがバラバラに落ちてくんで後始末がものすごく大変そうなんだよな。


「カードは大丈夫だった?」

「あぁ。念入りに確認はしたからな。取りこぼしも特にはないはずだ」

「そっか。良かったぁ」


 バトルをしたからだろうか。

 二人の雰囲気は結構良さげだ。


「お疲れ様。二人とも」

「あ、シーラさん」

「まだ食ってるのかお前……」


 隣で座ってたシーラ監督からもアルスとルードの二人にお声が掛かる。

 けどルードはシーラの口からはみ出たアメの棒を見るや否や呆れたような表情を浮かべた。

 そりゃそうなるか。

 本当にすごいよな、コイツ。

 さっきからずーっとお菓子を舐めたり食べたりしてるんよ。

 ここまで来たらもう才能とか執念とかそういうレベルなんじゃないか?

 と、みんなで話し込んでいるところに、ふと近づいてくる足音が聞こえてきた。


「遅いよクラちゃん」

「わりぃ。遅くなった」

「ごめんなさい。遅くなっちゃったわ」

「メリルさん! と……」

「ディエルか」


 一足、というか。

 だいぶ遅れてメリルとディエルの二人がやってきた。

 これは……


「もしかして、迷子になってたとか?」

「え、えぇ。ちょっと恥ずかしいけどその通りよ」


 そう言って、メリルが顔をほんのりと赤くさせる。

 意外だ。

 と思ったけど、よく考えたらそうでもないのかも。

 他のところは知らないけど、この街にこれだけの大きなショッピングモールはなかったって感じの話はしてた気がする。

 それに案内板があってもわからない時とか結構あるしな。

 うん。

 そりゃあしっかり者のメリルでも迷うことぐらいあるわ。


「もしかしてバトルはもう終わっちゃったの?」

「今さっき終わっちゃったな」

「そう……それは残念だわ」


 がっくしとメリルの肩が落ちる。

 そうだよな。

 プロを目指してるってことでバトルには人一倍関心が強いこいつのことだ。

 きっとアルスのバトルも見ておきたかったんだろうな。


 そうだ!

 今回のバトルも白熱してて面白かったし、後で自慢してやろ。


「そういえばクロハル」

「ん?」


 なんだ?

 先ほどの様子とは違って、今度は俺のことをジッと見つめてくるメリル。

 何か変なところでもあったかな。

 買ってもらった物だからあまりいちゃもんは付けたくないんだけど。


「新しい服、買ったのね」

「おうよ。ピッカピカの新品だぜ」

「悪くないと思うわ」

「さんきゅ」


 中々に良い感性をしてるじゃないかメリル君。

 やっぱシンプルなのが一番良いんだって。

 こういうのでいいんだよ、こういうので。


「なんだったらメリルもバトルしていくか?」

「そうね。そうできれば良かったんだけど」


 時間がね、と。

 メリルの指差した先にあったのは大きな電光掲示板。

 その端っこに『17:43』と明るい文字が表示されていた。

 嘘やん。


「マジか。もうそんな時間に」

「私もさっき気付いたのよ」

「さいですか」


 確かに。

 こんな時間だと外はもう暗くなる。

 シトラシティは街灯も多くないから想像以上に夜道は暗くなるのだ。

 残念だけど、これはお開きにするしかないかな。


「じゃあそろそろ解散って感じだな」

「そうなるわね」

「アイツらは……」


 横目でシーラたちを見てみると、そっちではディエルが二人にあーだこーだと言い訳をしている。

 で、アルスがその横でポーッとそれを見ているという。

 なんとも不思議な光景が広がっていた。




 ☆☆☆




 あれから何とか話もまとまったようで。

 一段落が着いたところでシーラたちにお開きにしようってことを伝えた。

 その結果、シーラたちはまだ買い物が必要だというので俺たちとはここで別れることになった。


「これが例のブツだ」

「ありがとう。悪いな本当に」

「気にするな」


 ルードからやや大きめな袋を受け取る。

 少し覗いてみると、中には男物の下着が何点も入ってるのが見えた。


「なんか多くね?」

「セールで安くなってるものがあってな。色を付けておいた」

「マジか!」


 うひょー。

 こりゃあ助かる。

 正直、お金に余裕があるわけじゃないから本当にありがたい。

 この下着は大事にしよう。

 そうしよう。


「じゃあまた」

「あぁ」


 挨拶代わりに手を出し、グッと硬い握手を交わす。

 それからルードはアルスの方を向いて、


「次は負けないからな。アルス」

「うん! またバトルしようねルード君!」

「もちろんだ」


 いいねぇ。

 熱いねぇ。

 青春だねぇ。


(…………青春、か)


「またね。クロハル」

「ん、あ、おう。今日は本当にありがとう」

「良いって。負けちゃったのは私たちの方なんだからさ」

「それでもだよ」


 感謝はしっかりと伝えておく。

 伝えたいことは伝えられる時にちゃんと伝えた方がいい。

 ……この世界に来てから俺が意識するようになったことだ。


「……ならその気持ちはちゃんと受け取っておくよ」

「そうしてくれると助かる。クラちゃんもじゃあな」

「クラちゃんって呼ぶな」


 ううん。

 試しにクラちゃんチャレンジしてみたけど普通にダメだった。

 ばっちし睨まれてしまった。


「次はぜってぇに負けねぇかんな」

「いいよ。次も負けねぇから」

「ぐっ」


 まあ、なんというか。

 コイツは平常運転だな。


「ふふっ。今度は君ともバトルしてみたいかな」

「っ! えぇ、望むところよ」


 なにやら女性陣は女性陣で挨拶も済んだみたいだ。


「じゃあまた」

「うん。またね」


 お互いに手を振り合って。


 一方はエスカレーターに。


 もう一方は階段の方に。


 こうして。


 激動のような一日は穏やかな時間と共に過ぎていったのだった。





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