第68話 ビッグマナ戦術を超えてゆけ!
「ドローッ!」
アルス
手札2→4
「…………」
ふう、と小さいのに大きな息の音が僕の耳に響く。
僕の出した音なのか。
それとも、他の誰かが出した音なのか。
深く息を吸って、ゆっくりと吐き出した僕は静かに目を開いた。
「ッ! 来たぁ!」
まるで、心の中の願い事を聞いていたかのようだ。
僕が引いた2枚のカード。
その中に、僕の欲しかったカードが入っていた。
(よし!)
ドローしたカードを手札に加える。
それから。
グッと右手を握りしめ、ルード君に向かってニッと笑ってみせた。
「いくよルード君! 僕は3マナを使って『バーニング・チェンジ』を発動!」
「『バーニング・チェンジ』だと!?」
アルス
マナ5→2
手札4→3
「このカードの効果でまずは『火炎少女エリナ』を破壊! そして……手札からコスト6以下の炎属性ユニット1体をノーコスト召喚!」
僕がそう叫んで、手にした一枚のカードをバシン、と半透明なフィールドに叩きつける。
その瞬間、大きな炎が爆発した。
「怒りに燃える赤き炎よ! 大地を焦がして吠え猛ろ! ノーコスト召喚! 燃え盛れ! 『炎獣イグニ』!」
真っ赤に燃え上がる炎。
その炎がゆらりと僅かに揺れる。
やがて燃える炎を吹き消すように。
雄叫びを上げて現れたのは、炎のように赤いたてがみを揺らす一匹の獅子だった。
アルス
手札3→2
『炎獣イグニ』
アタック5/ライフ3
【効果】
『速攻』
①このユニットが攻撃する時に発動できる。相手ユニット1体を選んで5ダメージ与える。
「なるほど……そいつがアルスのエースユニットか!」
返事はしない。
その代わりにコクンと大きく頷く。
「さらに手札から2マナを使ってスペル『アタック・チャンス!』を発動!」
アルス
マナ2→0
手札2→1
「『アタック・チャンス!』だと?」
「『アタック・チャンス!』は僕のユニット1体を選んでそのライフを+3して、このターンだけ2回攻撃できるようにするスペル! 僕が選ぶのはもちろん『炎獣イグニ』!」
『炎獣イグニ』
ライフ3→6
「これは少しマズイか……?」
「アタックフェイズ!」
ルード君のバトルゾーンにいるのは『ゴーレム』と『怒龍土ガングイル』と『地術師ダンテ』の三体。
全部、倒すっ!
「『炎獣イグニ』で『ゴーレム』に攻撃する時に効果を発動! 相手のユニット1体に5ダメージを与えることができる! 『怒龍土ガングイル』に5ダメージ! ロア・フレイム!」
「なっ!? くっ!」
僕の声に合わせてジッと岩だらけのドラゴンを『炎獣イグニ』が睨みつける。
そして、口から溢れるほどの真っ赤な炎を、その口から一気に、真っ直ぐに吐き出した。
『怒龍土ガングイル』
ライフ4→0
「そのままいっけぇ! イグニ・ファイヤー!」
「迎え撃て! 『ゴーレム』!」
『ゴーレム』
ライフ1→ライフ0
『炎獣イグニ』
ライフ6→3
「さらに! 『アタック・チャンス!』の効果でもう一回攻撃する時に『炎獣イグニ』の効果を発動! 『地術師ダンテ』に5ダメージ! ロア・フレイム!」
「くっ!」
『地術師ダンテ』
ライフ2→0
「いっけえ! ルード君にイグニ・ファイヤー!」
「う、うおおおおお!?」
ルード
ライフ20→15
これで、ライフは同じくらいになった。
あとは頑張って踏ん張り続けるだけだ。
「僕はこれでターンエンド」
「俺のターンか……」
ルード
マナ1→14
一筋の小さな汗がひたりと僕のほっぺを流れ落ちる。
どうすればルード君の防御を突破できるんだろう。
そう身構えていた時だった。
「アルス」
「……? どうかしたの? ルード君」
「ちょっとな」
なんだろう。
そう思ってルード君の方を見てみる。
ルード君は、僕のことを見ながら笑顔を浮かべていた。
「正直言って、アルスがここまで強いとは思っていなかった」
「えっ? あっ、そ、そうかな?」
「あぁ。俺としてはここまでやれば勝てるだろう。……そう思っていたんだ」
「……そうなんだ」
僕が、強い。
そんなことを言われて、僕は少し嬉しくなった。
クロハル君やメリルさんにはいつも負けてるけど。
それでもちゃんと強くなってたんだ。
「ルード君」
「なんだ?」
「僕も……僕も楽しいよ! ルード君とバトルするの!」
「……そうか!」
熱い、ナニカ。
それがフツフツと僕の胸の中に湧いてくる。
まるで僕の中に『イグニ』がいるみたいな。
……そんなことあるわけないのに。
「だからかはわからないが……俺は、このバトルで負けたくない。そう、思っているんだ」
「っ!」
ふと、見えたルード君の目はとても真剣な目そのもの。
それを見たからなのか。
知らず知らずのうちに、僕の体もキュッと引き締められていた。
「だから容赦はしない。全力でやらせてもらうぞ! アルス!」
「うん!」
「俺のターン、ドロー!」
ルード
手札4→5
「俺は4マナでスペル『よみがえる大地』を発動!」
マナ14→10
「『よみがえる大地』の効果よりドロップゾーンから『ゴーレム』を手札に! そして、追加効果で『地術師ダンテ』をドロップゾーンからノーコスト召喚!」
『地術師ダンテ』
アタック2/ライフ2
『ガード』
「ノーコスト召喚した『地術師ダンテ』の効果を発動! カードを1枚ドローする!」
手札5→6
「『地術師ダンテ』のもう一つの効果を発動! ドロップゾーンから『よみがえる大地』をスペルゾーンにセット!」
「くっ」
カードが全然減らない。
それどころか、さっきよりもドンドンとカードが増えている。
(土属性って――すごく強い!)
「俺は4マナを使い手札から『ゴーレム』を召喚!」
ルード
マナ10→6
手札6→5
『ゴーレム』
アタック3/ライフ5
『ガード』
「また来た……!」
「さらに! 俺は2マナを使い手札から『ゴブリン』『ゴーレム・ピット』を召喚!」
マナ6→4
手札5→3
『ゴブリン』
コスト1/土属性/アタック1/ライフ2
【効果】
『ガード』
『ゴーレム・ピット』
アタック1/ライフ2
『ガード』
「最後に3マナを使い手札から『コボルト』を召喚!」
マナ4→1
手札3→2
『コボルト』
アタック2/ライフ2
『ガード』
「うわっ、ユニットがいっぱい」
「これで俺はターンエンドだ!」
「じゃあ僕のターン」
アルス
マナ0→8
「ドロー!」
手札1→2
「あっ、このカード……」
僕が引いたのはこの前パックから出たばかりのカード。
それも入れたばっかりだから、あんまり使ったこともない。
だけど、
(使える!)
「僕は5マナを使ってスペル『炎獣爆発』を発動!」
アルス
マナ8→3
手札2→1
「炎獣……爆発?」
「このスペルの効果で相手のバトルゾーンにいる全てのユニットに7ダメージを与える!」
「な、なんだと!?」
僕が発動したスペル――『炎獣爆発』のカードから一気に溢れ出す真っ赤な炎。
やがて、山のように膨れた炎は、まるで風船が爆発するかのように。
ルード君のバトルゾーンに飛び散っていった。
『ゴーレム』
ライフ5→1
『地術師ダンテ』
ライフ2→0
『ゴブリン』
ライフ2→0
『ゴーレム・ピット』
ライフ2→0
『コボルト』
ライフ2→0
「バ、バカな! 俺のユニットが一気に!?」
「よし!」
「くっ! だが、破壊された『コボルト』の効果で『土龍怒ガングイル』を手札に加えさせてもらうぞ……!」
「んえ?」
ルード
手札2→3
あれ、そんな効果あったんだ。
でも!
このスペルはこれで終わりじゃない!
「僕のバトルゾーンに『イグニ』ユニット――『炎獣イグニ』がいるからもう一つの効果を発動できる! このターンのエンド時まで、この効果でダメージを与えたユニットの数だけ『イグニ』ユニットのアタックを+1できる!」
「それは……!」
「ダメージを受けたユニットは全部で5体だから」
「まさか……!」
「『炎獣イグニ』のアタックを5、パワーアップ!」
「なっ、にぃ!?」
ルード君のバトルゾーンに散った炎が。
バラバラになって広がった、小さな火花が。
少しずつ、『炎獣イグニ』のところに集まる。
すると。
その火はまるでイグニの体を包むほどの大きな炎となって燃え始めた。
『炎獣イグニ』
アタック5→10
「なんという効果なんだ!?」
「まだだよ! アタックフェイズ! 『炎獣イグニ』で攻撃する時の効果を発動! 『ゴーレム』を粉砕! ロア・フレイム!」
イグニの口から再び炎が飛び出す。
『炎獣爆発』の効果でボロボロになっていた『ゴーレム』はその炎を受けると、すぐに崩れていく。
あとに残ったのはスペルゾーンのカード1枚とルード君だけだ。
『ゴーレム』
ライフ1→0
「ぐっ!」
「さあ、行くよ! 『炎獣イグニ』でルード君に攻撃! イグニ・ファイヤー!」
炎に包まれた『炎獣イグニ』。
その攻撃は包み込むように、それでいて、吹き飛ばすかのようにルード君へと襲い掛かった。
2025/5/7 一部の内容を修正しました。
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