第67話 アルスの攻勢
「止まったね」
「止まったなぁ」
「どうしたのかな」
「どうしたんだろうねぇ」
「一口食べる?」と。
善意で分けてもらったポテチをパリパリしながら会話する俺達。
まだ数分ぐらいしか経ってないとはいえ、ドローをしてからアルスは深く考え込んでいるようでさっきから動きがない。
(手札事故でも起こしたんだろうな。多分)
俗に言う『完璧な手札』という奴だろう。
隣で呑気にお菓子を食べてるシーラも流石に気付いているはず。
いやまあ、カードゲームには運はつきもの。
カードの組み合わせが悪くて動けなくなる時なんか思っているよりも結構ある。
それをどうやりくりするのか、ってところがカードゲームの面白い部分だと個人的には思っている。
と言っても手札事故が起きたら基本的には「はいクソゲー!」って言いながら心の中で泣いてるんですけどね。
「おっ、動いたね」
「ん?」
ちょいと意識が逸れたところでアルスの方に動きがあったようだ。
最後に残ったポテチを口に放り込んだ俺はアルス達の方へ目を向けた。
☆☆☆
「まずは3マナを使って『炎の鉄拳』を発動!」
アルス
マナ6→3
手札5→4
「『怒龍土ガングイル』を破壊! ……したいけどできないから『地術師ダンテ』を破壊!」
「そう来たか」
「爆砕っ!」
僕の発動したカードから炎の拳が飛び出て、『地術師ダンテ』の体を丸ごと叩きながら爆発する。
けれども、ルード君は驚いたりはしてないみたいだ。
(一気に行くしかない!)
「僕は1マナを使って『ファイヤーボーイ・ゲキ』を召喚!」
アルス
マナ3→1
手札4→3
『ファイヤーボーイ・ゲキ』
アタック1/ライフ1→アタック3/ライフ1
『速攻』
「なっ、『速攻』ユニットだと!?」
「行くよ! アタックフェイズ! まずは『ファイヤーボーイ・ゲキ』で『怒龍土ガングイル』に攻撃!」
「くっ、……そのまま受ける! 迎え撃て! ガングイル!」
『ファイヤーボーイ・ゲキ』
アタック3/ライフ1→アタック3/ライフ0
『怒龍土ガングイル』
アタック4/ライフ4→アタック4/ライフ1
「さらに『レッドスライム』で『怒龍土ガングイル』にもっと攻撃!」
「流石に看過できん……! 『ゴーレム』でガードだ!」
「っ!」
『レッドスライム』
アタック3/ライフ1→アタック3/ライフ0
『ゴーレム』
アタック3/ライフ5→アタック3/ライフ5
「でもまだだよ! 僕は『火犬ブルム』で『怒龍土ガングイル』に攻撃!」
「ぐぐっ!」
『火犬ブルム』
アタック3/ライフ1→アタック3/ライフ0
『怒龍土ガングイル』
アタック4/ライフ1→アタック4/ライフ0
「よし……僕はこれでターンエンド」
全部は倒しきれなかったけど、何とか強そうなユニットは倒すことができた。
……と、思う。
でも、今はこれぐらいしか僕にできることは何もない。
「俺のターンだな。ドロー!」
ルード
マナ0→11
手札3→4
「これは良い……! 俺は4マナを使いスペル『よみがえる大地』を発動!」
ルード
マナ11→7
手札4→3
「『よみがえる大地』の効果で俺はドロップゾーンから土属性のカード1枚を手札に加えることができる! 俺はドロップゾーンから『怒龍土ガングイル』を手札に!」
ルード
手札3→4
「そして! 最大マナが6以上あるため『よみがえる大地』の更なる効果を発動! ドロップゾーンからコスト4以下の土属性ユニット1体をノーコスト召喚できる! さあ、地の底より甦れ! 『地術師ダンテ』!」
『地術師ダンテ』
アタック2/ライフ2
『ガード』
「ノーコスト召喚した『地術師ダンテ』の効果でカードを1枚ドロー」
ルード
手札4→5
「さらに『地術師ダンテ』の効果を発動! ドロップゾーンより『よみがえる大地』をスペルゾーンにセット!」
「うそぉ……」
な、なんてこったい。
たった1枚のカードだけでこんなにメチャクチャしてくるなんて……。
「最後のダメ押しだ! 俺は6マナを使い『怒龍土ガングイル』を召喚!」
ルード
マナ7→1
手札5→4
『怒龍土ガングイル』
アタック4/ライフ4
『ガード』
「『怒龍土ガングイル』の効果発動! 俺の最大マナを2増やす!」
ルード
最大マナ11→13
(マ、マズい)
「メインフェイズを終了し、アタックフェイズ! 俺は『ゴーレム』で『火炎少女エリナ』を攻撃!」
「っ!」
まさかそっちを攻撃してくるなんて!
でもダメだ。
『火炎少女エリナ』がいなくなったらこっちのパワーが一気に落ちちゃう。
それだけは、絶対にダメだ。
「バトルする時に『火炎少女エリナ』の効果を発動! 代わりに別のユニット――『炎の導師マーズ』とバトルさせるよ!」
「厄介な……!」
『火炎少女エリナ』に向かっていた大きな拳がぐるんと『炎の導師マーズ』の方に向きを変える。
『炎の導師マーズ』は赤いローブを翻すとその手から咄嗟に炎を吐き出した。
『ゴーレム』
アタック3/ライフ5→アタック3/ライフ1
『炎の導師マーズ』
アタック7/ライフ1→アタック7/ライフ0
「やられた!」
「『火炎少女エリナ』か……思った以上に厄介なユニットだな。まあいい。俺はこれでターンエンドだ」
僕のターンが、回ってくる。
でも手札にはまともに動けるようなカードがない。
このドローに僕の運命を賭けるしかないんだ。
「僕のターン……」
お願い!
「ドローッ!」
アルス
マナ1→7
手札3→4
デッキからカードを見ないでめくった僕は恐る恐る目を開いた。
少しずつ。
少しずつ、開いていく視界にゆっくりとカードが入っていく。
そして、見えてきたのは、
『気炎万焼』
コスト2/火属性
【効果】
①自分の手札を1枚捨てる。その後、カードを2枚ドローする。
(あ、あっぶなーい!?)
だ、だだ、大丈夫。
まだ、大丈夫。
2マナを使わなきゃいけないのはツラい。
でも、これはドローできるカードだからまだ大丈夫。
このカードで逆転できるようなカードをドローすればいいんだから!
「2マナで『気炎万焼』を発動! 手札を1枚捨ててから2枚ドローする!」
アルス
マナ7→5
手札4→2
『気炎万燃』の効果で手札から1枚のカード――『マグマグスライム』を信じてドロップゾーンに送り出す。
あとはドローをするだけだ。
(お願いお願いお願いお願いお願いっ!)
うーっ、と心の中で手を擦り合わせる。
もしこれで良いカードが引けなかったら……。
いや、ダメだ!
最後まで諦めたら本当に勝てなくなっちゃう、って。
クロハル君もそう言ってた。
(……信じなきゃ)
デッキの上に指を乗せて。
もう一度、目を閉じる。
このドローで僕の勝ち負けが全部決まる。
まだそうと決まったわけじゃないけど。
なんとなく、わかるんだ。
ここで一気にひっくり返せるようなカードを引かないと、そのまま僕は負けるって。
だから。
(本当に! お願いッ!)
ありったけの想いを込めて。
カードを、めくった。
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