第65話 押して押されて『拮抗勝負』
「やっほー」
「おん? あっ、シーラか」
アルスの思わぬ逆転劇に興奮してたらいつの間にかシーラが戻って来てた。
「って、その手に持ってるのは何……?」
「これ? あっちにお店があったから美味しそうなの買ってきたんだよね」
「多すぎだろ」
ポテチにホットドッグにアイスクリームにわたあめにサンドイッチにりんごに。
いや、どんだけ食いもん買ってきたんだよコイツ!?
てかよく見たら全部食べ物だなオイ!
思ってたより品揃えとか良いんだなオイ!
「なに、もしかして欲しいの?」
「いや、いらんけど」
「悪いけどあげられないかな。私もお腹空いてるからさ」
「いらんけど!?」
頼むから人の話を聞いてくれ!
聞け!
聞いてくださいお願いします!
「そういえばルードたちはどう?」
「あいつらか? 今ちょうどアルスが逆転したところだぜ。やるだろ? うちの子」
「へぇ。それはすごいね」
とは言ってもまだ始まったばかりなんだよね。
逆転したのは良いんだけど、それって今度は逆転される可能性だってあるわけだ。
おまけに相手はマナを増やす戦術、いわゆる『ビッグマナ戦術』を得意としている。
油断してたら一気に持ってかれることだって十二分に考えられる。
「これからが本番って感じかな」
「そうなんだよなぁ。あっ、お菓子落ち」
「三秒ルール三秒ルール」
「拾うの早っ!?」
☆★☆
「俺のターン! ドロー!!」
ルード
マナ0→5
手札3→4
「…………」
じっとり、と流れた汗がポツンと落ちていく。
手札とフィールド。
それらを交互に見ながら悩むルード君を見ながら、僕はハラハラしていた。
(……くっ)
僕のフィールドにはユニットが三体。
そして、ルード君のフィールドにはユニットが二体。
クロハル君が教えてくれた通りなら今は僕の方が有利……なはず。
だけど、
「そうだな。まずは2マナを使い、スペル『大地の恵み』を発動!」
ルード
マナ5→3
手札4→3
「『大地の恵み』?」
知らないカードだ。
「このカードの効果で俺は」
ルード
最大マナ5→6
「自分の最大マナを1増やす」
「えぇ!? また増やすの!?」
ど、どど、どどどどうしよう。
1マナが多いだけでも大変だったのにこれじゃあ2マナも多くなって、
「さらに最大マナが6になったことで『大地の恵み』の更なる効果を発動!」
「ま、またマナが増えるの!?」
そ、そんなことされたらもう無理だよ!
ただでさえツラかったのにもっとツラくなっちゃうなんて。
「いや、ただドローするだけだ」
「あっ、そ、そうなんだ」
そっか。
ドローするだけなんだ。
それなら良かった。
……えっ?
ルード
手札3→4
「よし。これで次のターンに動きやすくなるな」
「ズ、ズルいよルード君! マナも増やしてドローもするなんて!」
「言ったはずだぞ? 手加減はなしだとな」
「うぐぐぐぐ」
そうだけど……そうだけどさあ。
「あとは残った3マナを使い『ブロックガードナー』を召喚!」
ルード
マナ3→0
手札4→3
『ブロックガードナー』
コスト3/土属性/アタック2/ライフ4
【効果】
『ガード』
①このユニットは相手プレイヤーに攻撃できない。
「も、もうターンエンドしても良いんだよ?」
「まだ行くぞ。俺は『コボルト』でお前の『フレイム・フレスター』に攻撃!」
『コボルト』
アタック2/ライフ2→アタック2/ライフ0
『フレイム・フレスター』
アタック4/ライフ1→アタック4/ライフ0
「うげっ!」
痩せた犬のようなユニットの牙と『フレイム・フレスター』の拳がぶつかって、爆発した。
モクモクと爆発から出た煙が僕の目の前を見えなくする。
やがて。
煙が晴れると、そこには『フレイム・フレスター』の姿がなくなっていた。
「破壊された『コボルト』の効果を発動。ドロップゾーンから『ゴーレム・ピット』を手札に加える」
ルード
手札3→4
「これで俺はターンエンドだ」
「ぼ、僕のターン、ドロー!」
アルス
マナ0→4
手札5→6
「くっ、うぅ……」
僕の手札とフィールド。
それから、ルード君の手札とフィールド。
交互に見てから僕は思わず歯噛みしていた。
僕のフィールドにはユニットが二体。
だけど。
ルード君のフィールドにもユニットが、二体。
僕の手札は六枚。
ルード君の手札は四枚。
あんなにカードを使って、おまけにユニットでバトルまでしてる。
なのに、
(カードが……減ってない!)
さっきまで僕の方が有利だったはずなのに。
気が付いたら、いつの間にか僕の有利はなくなってしまっていた。
(いや、違う!)
バシッバシッと自分のほっぺを叩く。
ルード君の手札とフィールド、そして、『ドロップゾーン』と『マナ』を見直す。
そうだ。
ルード君の方がマナが多かった時点で僕は最初っから有利じゃなかったんだ。
とりあえず、
(どうしよう……)
このままだと次のターンでルード君のマナは『7』になる。
クロハル君が確か『6マナ』が一気にゲームが進むラインになる、って言ってた。
『6マナ』にエースとなる強いユニットが多い、とかも言ってたっけ。
そうなると、
(……)
ルード君の今までの戦い方を思い出してみる。
覚えてるのは、マナをドンドン増やしてくること……くらい。
あと、ルード君はクロハル君みたいにドロップゾーンを使ったりはしないみたい。
だけど。
――そんなことは関係がないくらいに『マナが多い』
きっとルード君は次のターンで強いユニットを出してくるはず。
だとしたら、僕がやらなきゃいけないのは。
(……フィールドのユニットを、全部倒す! 倒さなきゃ!)
とにかくユニットを倒して僕が戦いやすいようにしないといけない。
マナは少ないけど、幸運にも良いカードが手札にはある。
(よし!)
僕はフッと息を吐き出してから一枚のカードを手に取った。
「僕は3マナを使って手札から『火炎少女エリナ』を召喚!」
アルス
マナ4→1
手札6→5
『火炎少女エリナ』
コスト3/火属性/アタック2/ライフ2
【効果】
①このユニットがバトルゾーンにいるかぎり、自分のバトルゾーンにいる他の火属性ユニットのアタックを+2する。
②このユニットがバトルする時に発動できる。代わりに自分ユニット1体とバトルさせる。
「そのユニットは」
「『火炎少女エリナ』の効果で僕のフィールドにいる火属性ユニットをパワーアップ!」
『火犬ブルム』
アタック3→5
『炎の導師マーズ』
アタック5→7
「そして、そのままアタックフェイズ! 僕は『火犬ブルム』で『ブロックガードナー』に攻撃!」
「させるか! その攻撃を『ゴーレム・ピット』でガードする!」
「くっ!」
『火犬ブルム』
アタック5/ライフ1→アタック5/ライフ0
『ゴーレム・ピット』
アタック1/ライフ2→アタック1/ライフ0
「まだまだ! 『炎の導師マーズ』で『ブロックガードナー』に攻撃!」
「ぐぬぬ、迎え撃て! 『ブロックガードナー』!」
『炎の導師マーズ』
アタック7/ライフ3→アタック7/ライフ1
『ブロックガードナー』
アタック2/ライフ4→アタック2/ライフ0
よし!
ルード君のフィールドからユニットがいなくなった!
しかも僕のフィールドには『火炎少女エリナ』とパワーアップした『炎の導師マーズ』がいる。
これで次のターンに強いユニットが出て来ても大丈夫なはずだ。
「ぃよっし!」
「やってくれたなアルス……!」
「僕だっていつもクロハル君と特訓してるからね! 簡単には負けないよ!」
「なるほどな」
これで僕のターンは終わり。
次はルード君のターンだ。
「これで僕はターンエンド!」
「俺のターン! ドロー!」
ルード
マナ0→7
手札4→5
「ここからは一気に行かせてもらうぞアルス!」
(来る……!?)
ルード君が不敵に笑う。
そして、小さく身構えた僕の前で一枚のカードをフィールドに叩きつけた。
「俺は6マナを使い! 手札から『怒龍土ガングイル』を召喚!」
(6マナのユニット……!)
やっぱりだ。
ルード君はやっぱりコストが6のユニットを出してきた。
カードから光が溢れる。
同時に、いくつもの鋭い岩が砕かれたかのように地面から突き上がる。
「……っ!」
大きく振り上げられた前足が、ズドンッと地面に押し付けられる。
そして。
岩石に身を包んだトカゲのような龍――『怒龍土ガングイル』の細くて黒い瞳が僕を見つめていた。
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