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『キング オブ マスターズ』  作者: 大和大和
~ニューカラーズ・エントリー~
58/70

第58話 お店の中にお店があるお店ってなーんだ?





 というわけで。

 俺たちはシトラシティに戻ってきていた。

 なんだけど、


「うわ、すごい恰好だな」

「新手のファッションか?」

「あの子すっごい恰好してる……」

「すげーなアイツ。未来に生きてんな」


(……ま、周りからの視線が痛すぎる!)


 わかっていたとはいえ、やはり周りからの目がすごいのなんの。

 恥ずかしくても隠すモノもないし。

 しばらくはこの服装で我慢するしかない。


 今の気分はまるで見世物パンダである。


 と、俺は一人。

 心でそんなことをぼやきながら、シーラに連れられるままに歩いていた。


「どうかしたの? クロハル君?」

「な、何でもない……」

「そう?」


 アルスが話しかけてきたので、適当に誤魔化す。

 一応、俺の周りではアルスたちが壁役をやってもらっている。

 流石にねぇ。

 この恰好だと……ねぇ?


(うぅ、早く服変えてぇな)


 でも、完全に隠しきれてるわけじゃない。


 その証拠に。

 さっきから周囲の視線が、俺に向かって刺さりに刺さっていた。


「あー、めっちゃスースーするな」

「涼しい?」

「意外と涼しい」

「これから夏だし丁度良いんじゃないかな?」

「何言ってんだおめー」

「その恰好で出歩くのは流石に勇気がいるぞ、クロハル」

「お前も何言ってんの!?」


 シーラが悪ノリしてくるのは、まあわかる。

 だけどさ。

 ルードまでノッてくるのは違うじゃん。

 お前だって苦労人(こっちがわ)のはずやろ。

 何でそっち側に行こうとしてんだよ。


 俺だって人前でこんな恰好したくないから!


「で、どこに行くんだよ」

「お店がいっぱいあるとこ」


 お店がいっぱいあるところか。

 となると、


「……市場とかか?」

「ふふん、どうだろうね?」


 なんか含みのある言い方だな。

 まあ、服を買ってくれるらしいから、俺的にはどこだろうと文句はない。




 と、思っていた時期が私にもありました。




 ☆☆☆




「すげえな……」

「こんなところがあったんだ!」


 あれから、しばらくして。

 シーラに連れられるまま、歩き続けた俺たちの前に大きな建物が一つ。

 そこで俺たちは大きく圧倒されていた。


「この街にこんな場所があったんだ……」

「すごいよね」

「え? あ、えぇ、そうね」


 すごいな。

 驚き過ぎて、若干ギスギスしているシーラとメリルも普通に会話できちゃってる。

 これなら俺もいけるか?


「なあ、クラちゃん。こんな場所あるの知ってたか?」

「クラちゃん言うな」


 ダメか。


「お前さ、なんでそんなに……」

「ほらほら。止まってないで入ろうか」

「うわっ! ちょ、押すな!」


 後ろからシーラに押されて足が前に出る。

 すると、俺の足を感知した自動ドアが静かにスゥーッと開いた。

 でもなんかさ、あれだよね。


(シーラって……何か空手とかでも習ってたりするのか?)


 背中……じゃなくて腰を押してくるところが中々に(つう)だよね。

 とか思いつつ、俺たちは自動ドアを潜り抜ける。


 そして、ボロボロな恰好をした俺を真っ先に迎えたのは、




 ――ガンガンに冷えた風だった。





(っ、ちょ、寒いっ!?)


 普通だったら大丈夫なんだろう。

 けど、残念だったな。

 生憎(あいにく)と今の俺は通気性しかない恰好。

 実質的には丸裸に近いので、その冷たい風は俺に効くわけだ。


(うわやばっ! もう体冷たいんやが!?)


 ペタリと腕を触ったらツンとした感覚が返ってきた。

 マジで冷えてるやつじゃん。

 けど、そんなことをしているのはもちろん、俺だけ。


 他の連中はみんな建物の中を見て、瞳をキラッキラと輝かせていた。


「すごいよクロハル君! お店がいっぱいある!」

「お、おう」

「アルスはこういう所は初めてかな?」

「うん! こんなお店もあるんだね!」

「お店……というか、複合商業施設って言うんだけどね」


 隣からアルスとシーラの話し声が聞こえてくる。

 俺はそのやり取りを聞き流しながら近くにあったパンフレットを手に取った。


(『ショッピングモール・ミオン』、ね。……へぇ、開店は半年前か)

 

 まあ、大体はシーラの言う通り。

 俺たちがやってきたのは、多くの店が入り乱れる複合商業施設。




 ――その名も『ショッピングモール・ミオン』。




 要は、『ショッピングセンター』だ。

 名前が何かに似てるって?

 シ、シラ、シラナイナァ。


「シトラシティにもショッピングセンターがあるなんて知らなかったわ……」

「半年前にできたばかりらしいぞ」

「そうなの?」

「おう。これに書いてあった」


 流し読みしていたパンフレットを閉じて、差し出す。

 それを受け取ったメリルは、興味深そうにパンフレットを開いた。


 ながら歩きは危ないぞー。


「さあて。私たちもクロハルの服を買いに行こうか」

「お、おう」


 メリルはパンフレットを読みながら。

 で、アルスは目を輝かせたまま適当な店の中へ。

 それぞれがショッピングセンターに散って行ったので、俺たちも服を買いに動く。


「私が服とズボンを買うからルードは下着をよろしく」

「了解だ」

「……俺は?」

「クラちゃんはアルスたちといつでも会えるようにしといて」

「……あいよ」


 なるほど。

 クラちゃん呼びはシーラなら大丈夫、と。


(へぇ……)


 俺が呼んだりするのは嫌だけど。

 でも、シーラから呼ばれるのは良い。

 つまりは……そういうことなのか。


 と、勝手に邪推する俺の元にルードがノッシノシと近づいてきた。


「クロハル。何か下着の好みはあるか?」

「あー、えっと、通気性のあるヤツだと嬉しいな。あと、下はトランクスで」

「了解した。通気性のあるシャツとトランクスだな。行って来る」

「なんか悪いな」

「……気にするな」


 うん。


 めっちゃくちゃ気にしてるね。

 二つ返事で答えてはくれたけど、ルードの背中に哀愁(あいしゅう)が漂っている。


 遠くなっていくその背中を見ながら。

 俺はそのワケを理解していた。


(それはそうだよな……)


 仲間が勝手にバトルを吹っ掛け、そして、敗北。

 挙句の果てには、バトルの最中に変なトラブルが発生。

 そのせいで、知り合ったばかりのヤツに服を買わなきゃいけない始末。


 ……これさ、ルードからしたら完全に流れ弾ってヤツだよね。

 まさに、踏んだり蹴ったり。


(強く生きてくれ)


 けど、俺に何かできるわけじゃない。

 なので、苦労人仲間の背中に向かって俺は心の中で合掌した。


「じゃ、私たちも行こうか」

「お、おう」


 いつの間にかディエルの姿も消えて、残ったのは俺とシーラだけ。


(俺、この恰好のまま歩かなきゃダメなのか? ……ダメなんだよなぁ、多分)


 やっぱり、周りからの視線がちょっとキツイ。

 しかも寒い。

 だが、シーラには関係のないことのようで。


「どうしたの? 行かないの?」

「おう。今行」

「もしかして、その服装が好みだったりするのかな?」

「今行きますぅ!」


 俺はなけなしのプライドをかなぐり捨ててシーラの後ろを追いかけた。




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