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『キング オブ マスターズ』  作者: 大和大和
~ニューカラーズ・エントリー~
51/70

第51話 いざ尋常に




(うわぁ、ここまで来ちゃったよ)


 見渡す限り、広がるのはどこまでものびのびとした一面の草原。

 そう。

 今、俺たちがいるのはなんとシトラシティの外。

 緑髪の少年の後ろを脳死で追いかけてたらこんなところまで来ちゃいました。

 なんだそれ、と思ったそこのあなた。

 俺もそう思います。


「よし……ここでいいな」

「えっ? あ、おう?」


 俺は別にどこでも良かったからとりあえず(うなず)いておく。

 でも、この少年のこだわりが少しわかったような気がする。

 確かにここは人気が少ないからバトルをするには良い場所かもしれない。

 人目を気にしなくてもいい、ってのが俺的にはかなりありがたいな。

 あと風もすごく気持ちいい。

 良いことずくめだ。


「やるぞ」

「あっ、はい」


 いけない。

 思いっきし脱線してたら相手が不機嫌になってしまった。

 とりあえずデッキを出して、っと。

 このままややこしくなるのも嫌だからさっさとバトってしまおう。


「おい、バトルしろよ」

「っ! ……へっ、いいぜ」


 まさに、売り言葉に買い言葉。

 互いに火が付いた俺たちは、持っていたデッキを勢いよく前に突き出す。

 そして、叫んだ。


「カード!」

「スタンバイ!」


 俺たちの間にフィールドが現れ、五枚の手札が目の前に飛んでくる。


(ううん……)


 悪くはない。

 悪くはないんだけどさ。

 じゃあ良いのか、って()かれたら別にそうでもないんだよね。

 なぁにこれぇ。

 とか一人で悩んでも仕方がないので三枚のカードを適当に入れ替える。


(まあ、どうにでもなぁれ、っと)


 無事に、手札の入れ替えは終了。

 良くなったとは言ってない。

 あとはアイツだけだな。

 顔を上げた俺は、真剣な表情で手札を見つめる緑髪の少年の方に目を向けた。




 ☆☆☆




「始まるな」

「そうだね」


 パリパリパリ、と隣から美味しそうな音がする。

 一体コイツはどんだけ食うんだ。

 そんなに食べて虫歯とかは怖くないのだろうか、と正直に思う。


「……シーラ」

「何かな?」

「相変わらず菓子が好きなのは良いんだが、虫歯とかは気にしないのか?」

「どうだろう。虫歯になったことないから何とも言えないかな」

「っ!?」


 時々思うのだが、シーラ。

 お前の体は一体全体どんな造りをしているんだ。

 ……いや、これ以上はよそう。

 頭痛が痛くなってきた。


 片手で頭を押さえ、大きな溜め息を吐く。

 そうやって考えを入れ替えた俺は、対峙する二人の少年に目を向けた。


「シーラ。お前はどう見る?」

「んー?」


 今のところ。

 あの二人の少年を両方知っているのはシーラただ一人だけ。

 ヤツのデッキはとかく、クロハルという少年は闇属性を使うらしい。

 街中でたまたま耳に挟んだ話ゆえ、信憑性(しんぴょうせい)はわからない。

 そこで情報通でもあるシーラに聞いてみたのだが、


「どうだろうね。クロハルのデッキを見たわけじゃないから何とも」

「……そうか」


 返ってきた反応は思っていたよりも微妙だった。

 ならば仕方あるまい。

 ふっ、と息を吐き捨てた俺は再び対峙(たいじ)する二人のマスターを見る。

 それと同時に。

 二人の目線と声が交差していた――




 ☆☆☆




「いくぞ」

「おうよ」


「「バトル、スタート!」」


 緑髪の少年

 ライフ20

 マナ1

 手札5


 クロハル

 ライフ20

 マナ1

 手札5




(先行は俺か)


 先に光ったのは俺のデッキ。

 そっかぁ。

 手札が欲しかったから後攻が良かったんだけどな。

 まあいいや。


「俺のターン」


 クロハル

 マナ1→1

 手札5→5


「ドローフェイズはスキップ。そして、メインフェイズ。俺は1マナを使い、手札から『ダークスライム』を召喚」


 マナ1→0

 手札5→4


 『ダークスライム』

 コスト1/闇属性/アタック1/ライフ1

 【効果】

 ①このユニットが破壊された時に発動する。相手のライフ、または、相手ユニット1体を選んで2ダメージ与える。


 俺が一番手として召喚したのは、黒いわらび餅の『ダークスライム』。

 他のユニットと比べたら控え目かもしれないが、相手の動きを見るのには十分な性能をしている。


 つまり、これでよろしい。


「俺はこれでターンエンド」


 これ以上できることがないからターンはさっさと回す。

 デッキの光が入れ替わり、ターンが相手に移る。

 それを見た緑髪の少年はその口に不敵な笑みを浮かべた。


「ふっ。……俺のターン」


 緑髪の少年

 マナ1


「ドロー!」


 手札5→6


 デッキから一枚のカードがめくられる。

 それを手札に加えた緑髪の少年だったが、


「ふっ、くっくっ」

(……何だ?)


 何故か抑えきれない、とばかりにクツクツと肩を震わせている。

 流石にそんなことをされたらいくら俺でも気になるぞ。


 私、気になります!

 とか思っていたら、すぐに答えは返ってきた。


「お前、闇属性なんか使ってんのかよ」

「……はぁ?」


 すまん。

 言ってることがわからない。

 確かに俺のデッキは闇属性デッキだ。


 けど、それがどうかしたのだろうか。

 そう(いぶか)しむ俺に。

 緑髪の少年は不敵な笑みのまま、一枚のカードに手を掛けた。


「残念だったな! 俺は闇属性なんかに負けたこたぁないんだよ!」

「なに……?」


 意味がわからない。

 と、緑髪の少年の言葉を切り捨てようとした俺は、そこで自分の思考に一旦ストップを挟み込んだ。


(闇属性に負けたことがない?)


 闇属性が苦手とする属性はいくつかある。

 そこに今の発言を加えることで、(おの)ずと相手のデッキが何であるか見えてくる。


(…………!)


 その答えを導き出した俺は――ヒヤリと頬に冷たい汗が流れた。


(まさか……)

「いくぜ!」


 一枚のカードが相手の手札から抜き取られる。

 そして、緑髪の少年はそのカードを思いっきり自身のバトルゾーンに叩き付けた。


「俺は1マナを使い、手札から『グリンスライム』を召喚する!」


 緑髪の少年

 マナ1→0

 手札6→5


 『グリンスライム』

 コスト1/風属性/アタック1/ライフ1

 【効果】

 ①このユニットがバトルゾーンに出た時に発動する。自分の手札を1枚選んで捨てる。


(やはりかっ……!)


 予想通りだ。

 相手のバトルゾーンに現れた緑色のわらび餅を見てクッと歯を噛む。


 あの少年が使っているのは『後期カラー』の一つである属性――『風属性』だ。

 ……これは少しマズイかもしれない。


「俺は召喚した『グリンスライム』の効果を発動! コイツの効果で俺は手札を1枚捨てる!」


 手札5→4


「さらに手札から捨てた『干からびた怨霊』の効果を発動!」

「くっ」


 ちくしょう。

 (しょ)(ぱな)から握られていたか!


「『干からびた怨霊』は手札から捨てられた時、ドロップゾーンからノーコスト召喚することができる! さあ、来い! 『干からびた怨霊』!」


 叫ぶ緑髪の少年の声に合わせて。

 突然、ドロップゾーンから噴き出した風から、白い装束を来た髪の長い幽霊が現れた。


 『干からびた怨霊(おんりょう)

 コスト2/風属性/アタック1/ライフ1

 【効果】

 ①このユニットが手札からドロップゾーンに送られた時に発動できる。このユニットをドロップゾーンからノーコスト召喚する。


(本当にマズイぞコレェ……)


 ようやくさっきの発言に合点(がってん)がいった。

 これは確かに闇属性ではキツイかもしれない。


 でもまあ、いいだろう。

 相性が悪くてもバトルはできる。

 とりあえず今回はやれるだけ――







「はっ、雑魚い闇属性なんぞとっとと潰してやるよ!」







「…………あ?」


 やろうと思ったけどやめた。


 闇属性は、俺にとってただ相性が良いだけの属性ではない。

 この属性は、このデッキは。

 俺が初めて手にしたデッキで、俺が初めて好きになった属性だ。

 多少とはいえ、相性に不利と有利があることも理解している。

 それでもな。

 自分の好きな物をバカにされて黙っていられるほど大人じゃないんですわ。

 ならば――よろしい。







(真っ向からぶっ潰す!)







 やることは()()()

 自分のデッキにチラリと目を向け、力を貸してくれ、と願いを送る。

 それから俺は、グッと下げた右手を強く握り締めた。







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― 新着の感想 ―
[一言] >あとは自分の計算ミスを減らすためですね(汗 私は毎回重要な試合書きの前、確認用の「両方のデッキ構築、手札、流れ」は書きます、一応自分嫌のミスは減すできる。
[一言] >マナ1→0 >手札5→4   数月読めないから忘れます、でも以前このような表記はないの印象あります。   私の経験談は、このような表記いちいち入るはテンポ悪い、そして「文字数稼ぎ」の悪…
[一言] 構築済みデッキからダキアちゃんを抜いてダークスライムを入れるかどうかで当時は盛り上がりましたね。自分は愛にいきる親ダキア派でした。
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