第47話 早すぎる再開
「よっしゃ、行くぜ! 俺はコイツで攻撃!」
「じゃあ私はこのユニットでガード!」
うんうん。
元気にやってるな、と。
店の中ではしゃぐカードゲーマ―たちの姿が今日も明るく眩しい。
お休みして一日くらいしか経ってないけれど、ここはいつも通りのようで少し安心した。
「さて。あいつらは、っと」
早速、人達でごった返す店内にあちらこちらと目を走らせる。
ううむ。
こうして見ると大会の影響はかなり強いことがわかるな。
普段は子供たちがほとんどで、大人や老人はたまに来る程度。
だけど、今日は子供も大人も関係なく『カードオフ』に入り浸っている。
これがこの世界における『大会』の立ち位置なのだろう。
端的に言ってすごい。
「あっ、いた」
探していた目的の人物をやっと発見。
こんなに繁盛してるというのに隅っこのテーブルを取るとは流石だな。
「よっ」
「あっ、クロハル君!」
「久しぶりね」
「おう」
軽く手を挙げれば、二人も同じように手を挙げて応えてくれる。
うんうん。
たったの一日ぶりだけど、アルスもメリルも元気そうで何よりだ。
「調子はどうだ?」
「私はそこそこね」
「僕は……うーん、微妙かなぁ」
「お、おう」
アルスよ、本当に微妙そうな顔だな。
メリルはいつも通りか。
俺は子供たちに一言謝って席を譲ってもらい、そこにどさりと座り込む。
すると、隣になったアルスがすぐに話しかけてきた。
「ねえねえ! クロハル君はどうだった?」
「ん、何が?」
「お休みよ、お休み。久しぶりにゆっくりできて良い気分転換になったんじゃない?」
「あ、あぁ、うん。そうだな……」
気分転換。
気分転換、ねぇ。
そのことをメリルとアルスの二人に尋ねられて。
俺の脳裏に、ふと昨日の出来事が蘇った。
――あー、急に肩が痛くなってきちゃったなー。どうしようかなー。これは慰謝料が必要かな? あー、でも、お菓子を買ってくれたら治るかもしれないんだけど
――まあね。この街に来たのも食べ歩きがしたかったからだし
――問題ないかな。丁度デッキのテストもしたかったところだし
――いいね。そろそろ行こうか――じっくりコトコトとね
――別に選ぶのはゆっくりでも良いかな。お金なら気にしなくていいからさ
(…………)
おかしいな
まともな思い出があんまりない。
昨日は美少女とそこそこ楽しく過ごしたはずなんだけど、
「……まあ、楽しかったよ。うん」
「なら何でそんなに複雑そうな顔をしてるのよ」
「気にしないでくれ」
昨日のことを思い出し。
けれども、吐こうとした溜め息をゴクンと飲んで我慢する。
あれは事故。
そう、あれは事故なのです。
ちょっと楽しい時間ではあったけどほとんど事故みたいなものです。
異議は認める。
「クロハル君は今日どうするの?」
「ん? あー、そうだな。どうしよう」
そういえば、そうだな。
こっちに来たのはいいけど何しよう。
俺、何も考えとらんかった。
……久しぶりにバトルでもしてみるか?
「ねえ、クロハル」
「んあ?」
デッキを取り出そうとしたところでメリルからお呼びが掛かった。
なんだね。
お金ならないぞよ。
「ちょっとでいいから私のデッキを見てもらえないかしら?」
「え、何か変えたのか?」
「ちょっとね」
「ほーん」
メリルはどうやらデッキ診断をして欲しかっただけらしい。
良かった、お金寄越せとかじゃなくて。
取り敢えず、渡されたデッキを手に取る。
でも、一個だけ言っておくぞ。
俺はデッキの専門家じゃ、ない!
「……どうかしら?」
「そうだなぁ」
パラパラと、流れるようにデッキのカードに目を通す。
見てくれ、って言われたから見てるけどさ。
メリルのことだからデッキの中身を一気に変えるような真似はしないはず。
なんて言ってもだな。
(何も問題はないようじゃがのォ~)
やはり、というか何というか。
こうして見ても、特に変わったところはない。
(一体何を変えたっていうん……っ!?)
特に変わってない。
そう思いながらメリルのデッキを見ていた俺は――不意にその手を止めた。
「こ、これは……っ!?」
目に留まったのは、端に金色の模様が入った一枚のカード。
それを、震える指先で抜き取った俺は、メリルにズズイと迫った。
「ちょ、何!?」
「これ、これ! どこで手に入れたんだ!?」
「えっ?」
急に押し迫られたメリルが、口角を引きつらせながらスッと俺から身を引く。
その動きに軽くショックを受けた俺はすぐに居住まいを正した。
待って。
やめて、引かないで。
ごめんってば。
「で、このカードはどこで手に入れたんだ?」
「どこでって、昨日出た最新のパックなんだけど……」
「さ、最新のパック!?」
マジか。
おいおい、マジかよ。
俺の知らない間に新しいパックが発売されてたのか。
そんなこといきなり聞かされちまったらよ。
買うしかないじゃない。
「ゴメン。ちょっと行ってくる」
「ちょ、今行くの!?」
抜いたカードを差し直し、デッキをポンとメリルの前に置く。
こんなことしてる暇ないじゃん。
笹食ってる場合じゃねぇ!
パックだよ。
パックを買わなきゃカードゲーマーの名が廃るってもんだ。
そう思い、勢いよくガバッと立ち上がったわけだけど。
「あっ」
「こ、今度はなによ?」
「…………やっぱやめた」
「えぇ!?」
急に立ったり、座ったり。
俺の急変する態度を見たメリルも引いたり驚いたりと表情を忙しくしている。
うーん、情緒不安定かな?
まあ、俺のせいなんですけどね。
「あれ、クロハル君。パック買いに行かないの?」
「お金がっ……ないんだっ……!」
「そ、そうなんだ」
椅子に腰を深く下ろし、両手で頭を抱えながらそのワケを言い放つ。
アルスはそんな俺の姿を見ると、苦笑しながら相槌を打ってくれた。
ごめんな、アルス。
俺に共感してくれるなんて。
本当に良い奴だよ、お前。
「それは災難だったね」
「まあな」
本当だよ。
昨日、あんなことさえなければ今頃はパックを何個も買えたはずだ。
くそっ、変なことで事故った昨日の俺が憎い。
アタイ……ゆるせへんっ。
ゆるせへん……アタイ……ッ!
と思った時だった。
(…………あれ?)
そういえば今の声って誰のだろう。
思わず普通に答えちゃったけど、知らない人の声だったぞ今の。
アルスにしてちょいと女っぽいし、メリルにしてはちょいと大人しい。
けど、妙に聞き覚えがあるのは何でだろう。
まるで小骨が喉に刺さったかのような。
それでいて背中が痒くなるような。
そんな小さな違和感を抱いた俺は、声がした方を振り向いた。
すると、そこにいたのは。
「んなぁぁぁ!? お、お前っ!?」
「やっ」
人たちの影に埋もれながらも輝く金色の髪をなびかせて。
白一色の半袖半ズボンからは綺麗な手足がスラリと伸びている。
その姿は、昨日見た姿と全く変わっていない。
(な、なんで……)
間違える、はずがない。
忘れる、はずもない。
だって、そこにいたのは、
「昨日ぶりかな」
(なんでコイツがここに!?)
昨日、俺のことを散々に振り回した、あの美少女だったからだ。
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