第44話 攻めと受け
『閃光の騎士シャイナ』
コスト6/光属性/アタック2/ライフ7
【効果】
『ガード』
『先制』
①このユニットは自分のライフが10以上であれば召喚コストを3減らして召喚できる。
②このユニットがバトルする時に発動できる。自分のライフを3回復する。
美少女の前に現れた可憐な少女――『閃光の騎士シャイナ』は。
吹く風に流れる金色の髪を任せ。
レイピアを握り締めると、それを目の前まで静かに持ち上げる。
そこから何かを汲み取ったのか。
美少女は『閃光の騎士シャイナ』の後ろ姿に小さく頷きを返した。
「アタックフェイズ。私は『閃光の騎士シャイナ』で『火の拳マサル』に攻撃」
「なっ! 召喚したばかりじゃ!」
「悪いね。この子も『先制』を持ってるんだ」
「くっ!」
チャラ男の疑問をさらりと受け流す美少女。
流石だな。
その間も美少女から指示を受けた『閃光の騎士シャイナ』が『火の拳マサル』に向かって切りかかる。
その瞬間、突如として『閃光の騎士シャイナ』の体が淡い光に包まれた。
「ここで私は『閃光の騎士シャイナ』の効果を発動。この子がバトルする時、自分のライフを3回復することができる」
「なにっ!?」
美少女
ライフ12→15
「さあ、受けてもらおうかな。フラッシュ・スラスター」
「くそっ、迎え撃て! マサル!」
チャラ男の声援を受け、その手を突き出す『火の拳マサル』。
しかし、それよりも早く。
『閃光の騎士シャイナ』の煌めく一撃がその小さな体を鮮やかに切り捨てる。
『閃光の騎士シャイナ』
アタック2/ライフ7→アタック2/ライフ4
『火の拳マサル』
アタック3/ライフ1→アタック3/ライフ0
「まあ、これでターンエンドかな」
レイピアを振るい、軽やかに美少女の元へと舞い戻る『閃光の騎士シャイナ』。
その背中に静かな「おかえり」と美少女の声。
随分と愛着があるんだな、と関心しつつ。
俺はチャラ男のバトルゾーンに目を向ける。
(……こうなるとマジで面倒なんだよなぁ、あいつ)
俺が見たのは両手にボンボンのような炎を持った『火炎少女エリナ』。
闇属性であれば直接ダメージを与えて狙い撃ちできる。
だが、他の属性となるとそうはいかない。
あのユニットを倒すには他のユニットを先に倒さなくてはいけない。
その点、美少女の出した『閃光の騎士シャイナ』はバトルする時にライフを回復できる効果を持っている。
状況を打開できたわけじゃあない。
だからといって、悪い手というわけでもない。
今はとりあえずその場しのぎを頑張る作戦のようだ。
そして、先行の四ターン目が始まる。
「俺のターン、ドロー!」
チャラ男
マナ0→4
手札4→5
「行くぜ! 俺は2マナを使って手札から『火炎のメーラ』を。そして、1マナを使って手札から『火の拳マサル』をもう一体召喚する!」
マナ4→1
手札5→3
『火炎のメーラ』
アタック1/ライフ1
『速攻』
『火の拳マサル』
アタック1/ライフ1
「さらに、『火炎少女エリナ』の効果でパワーアップだ!」
『火炎のメーラ』
アタック1→アタック3
『火の拳マサル』
アタック1→アタック3
「なるほど。面白いね」
面白くないです。
というかそんなこと思ってる暇もないはずだろ。
むしろヤバイですよ美少女サン。
『火炎少女エリナ』を中心として一気に攻め込もうとしてるのが丸わかりだ。
それなのに美少女のところにはユニットが一体だけ。
このままじゃあ一気に押し切られるけど、どうするのだろうか。
「アタックフェイズ! 俺は『火の拳マサル』と『火炎少女エリナ』、そして、『速攻』ユニットの『火炎のメーラ』と『フレア・マックラン』で相手のライフに攻撃だ!」
「なら『火炎のメーラ』の攻撃を『閃光の騎士シャイナ』でガード。他のは全部ライフで受けるよ」
「な、ガード!?」
『火炎のメーラ』
アタック3/ライフ1→アタック3/ライフ0
『閃光の騎士シャイナ』
アタック2/ライフ4→アタック2/ライフ1
美少女
ライフ15→18
『火の拳マサル』
アタック3→4
『火炎少女エリナ』
アタック2
『フレア・マックラン』
アタック4
美少女
ライフ18→8
「そいつ、ガードまでできるのか!?」
「そうなんだよね。優秀でしょ? この子」
(普通に強いんだよなぁ)
そう、何を隠そう。
『閃光の騎士シャイナ』というカードは光属性の中でもダントツに強いカードの一つなのだ。
自分のライフが『10』以上であれば実質3コストになるユニットで。
『先制』と『ガード』で攻めの起点にも、守りの起点にもできる優秀さ。
さらにはライフの回復もできて、低アタック高ライフの長期戦向けのステータス。
おまけに、見た目がすごくいい。
こうして見てみると改めて思う。
本っ当に無駄がなさすぎる。
ちなみに『速攻デッキ』が潰れた理由は大体こいつ。
「つ、強い……」
「もう終わりかな?」
「ぐっ。俺はこれでタ、ターンエンドだ!」
思ったように攻めれず、チャラ男が悔しがる。
だが、それもしょうがないように思う。
「じゃあ私のターン。ドロー」
美少女
マナ0→4
手札5→6
「私は4マナを使い、手札から『盾持ちクレイド』と『侍従の騎士』を召喚」
マナ4→0
手札6→4
『盾持ちクレイド』
コスト2/光属性/アタック1/ライフ3
【効果】
①このユニットがバトルゾーンに出た時に発動できる。自分のライフを2回復する。
『侍従の騎士』
コスト1/光属性/アタック1/ライフ2
【効果】
『ガード』
美少女
ライフ8→10
「そして、アタックフェイズ。私は『閃光の騎士シャイナ』で相手のライフに攻撃。シャイナ、フラッシュ・スラスター」
「うわっ!」
『閃光の騎士シャイナ』
アタック2
チャラ男
ライフ20→18
「これでターンエンド。さあ、どうぞ」
後攻のターンが終了。
美少女のバトルゾーンには三体のユニット。
その内の一体は手負いだが、流れとしては悪くない。
着々と守りの態勢を作っているな。
さあ、チャラ男はどうするか。
「俺のターン! ドロー!」
チャラ男
マナ1→5
手札3→4
「俺は5マナを使って、手札から『炎の闘士レイガイス』を召喚する!」
マナ5→0
手札4→3
『炎の闘士レイガイス』
コスト5/火属性/アタック3/ライフ3
【効果】
①このユニットがバトルゾーンに出た時に発動できる。相手ユニット1体を選んでそのユニットとこのユニットをバトルさせる。
②このユニットがバトルで相手ユニットを破壊した時に発動する。カードを1枚ドローする。
(なるほど)
攻める、ね。
「まずは『火炎少女エリナ』の効果でパワーアップ!」
『炎の闘士レイガイス』
アタック3→5
「そして、召喚した『炎の闘士レイガイス』の効果を発動! 俺は『炎の闘士レイガイス』と『閃光の騎士シャイナ』をバトルさせる!」
「まあ、そうなるよね」
うん、知ってた。
こればかりは仕方ない。
美少女もこの展開は流石に読めていたようだ。
「行け! 『炎の闘士レイガイス』!」
「いってらっしゃい。シャイナ」
かつての剣闘士を彷彿とさせる男が金髪の少女に殴りかかる。
傷だらけになりながらも戦う少女の体が薄っすらと光を放った。
「私は『閃光の騎士シャイナ』の効果を発動。バトル時に自分のライフを3回復」
「だが、やられてもらうぜ!」
「わかってるよ」
美少女
ライフ10→13
『炎の闘士レイガイス』
アタック5/ライフ3→アタック5/ライフ1
『閃光の騎士シャイナ』
アタック2/ライフ1→アタック2/ライフ0
激しい攻防の果てに。
腹に赤い拳が突き刺さり、地面に倒れた少女が光となって静かに姿を消す。
そのすぐ後に、筋骨隆々とした男の体が赤い光に包まれた。
「よし! 俺は『炎の闘士レイガイス』の効果を発動! バトルで相手ユニットを破壊した時、カードを1枚ドローする!」
チャラ男
手札3→4
「それからアタックフェイズ! 俺は『フレア・マックラン』『火の拳マサル』『火炎少女エリナ』で相手のライフに攻撃だ!」
「そう。なら私は『フレア・マックラン』を『侍従の騎士』で、『火の拳マサル』を『盾持ちクレイド』でガードかな」
『フレア・マックラン』
アタック4/ライフ1→アタック4/ライフ0
『侍従の騎士』
アタック1/ライフ2→アタック1/ライフ0
『火の拳マサル』
アタック3/ライフ1→アタック4/ライフ0
『盾持ちクレイド』
アタック1/ライフ4→アタック1/ライフ0
『火炎少女エリナ』
アタック2
美少女
ライフ13→11
(うっわぁ……)
見事、としか言い様がない。
お互いのユニットが一気に姿を消し、残ったのはチアガールもどきと筋肉モリモリマッチョマンの変態のみ。
傍から見てもかなり激しい攻撃だったが、そこは光属性。
持ち前の防御力で防ぎ切った形になった。
「くそっ……。これで俺はターンエンドだ……!」
「やっとかな。私のターン、ドロー」
美少女
マナ0→5
手札4→5
デッキにしなやかな指を乗せ、ゆっくりとカードを引く。
そして、それを見た美少女は食べかけの麩菓子を左の人差し指で押し込み、小さく頬を緩ませた。
「いいね。そろそろ行こうか――じっくりコトコトとね」
「っ!」
思わず背筋が震えるような妖しさで。
美少女がそっと呟く。
その声を聞いたチャラ男があからさまに警戒の色を浮かべる。
そんなチャラ男の前で、美少女は艶やかに微笑みながらゆっくりと。
手札から抜き取った一枚のカードを指先でクルリと表向きにした。
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