第43話 『キング オブ マスターズ』の属性
ほとんどのカードゲームには『属性』というものがある。
戦い方や固有能力、得意分野など。
カード一枚一枚の特徴を表すものであり、個性を示すもの――それがカードゲームの『属性』というものだ。
ある属性は攻撃が得意だったり。
ある属性は防御が得意だったり。
または、他の属性を合わせることで、とんでもない爆発力を生んだり。
このように。
カードゲームにおける『属性』というのはかなり重要な位置を占める要素となっている。
そして、それは『キング オブ マスターズ』も同じ。
(光属性か……)
攻撃やバトルを得意とするシンプルな扱いやすさが特徴の『火属性』。
大量召喚やドロー、相手のカードを手札やデッキに戻すなどの搦め手を得意とするテクニカルな『水属性』。
そして。
相手に直接ダメージを与える『バーン戦法』や追い詰められることで爆発するプロレス気質な『闇属性』。
これら三つの属性は、別名『前期カラー』なんて呼ばれていたりする。
それは。
その属性たちの後に新たな属性――俗に言う『後期カラー』が登場したからだ。
(……ということは残りの属性もあることは確実、だな)
『後期カラー』の属性は『前期カラー』と同じく全部で三つ。
その内の一つである『光属性』の力が。
今、俺の目の前で、発揮されようとしていた。
☆☆☆
「どうせ攻撃はできないし。これで私はターンエンドかな」
「なら、俺のターン! ドロー!」
チャラ男
マナ0→2
手札4→5
ターンが移り、先行の二ターン目。
ドローしたカードが加わり、手札が増える。
だが、美少女のフィールドに目を向けたチャラ男が「ぐぬぬ」と声を上げた。
「光属性……」
「どうしたのかな。もしかして怖いとか?」
「なっ! ちげえし!」
(うっわ、煽ってる……)
美少女の小バカにするような言動と、もぞもぞと口の端で動くお菓子。
その姿から放たれた煽りは効果抜群だったらしい。
ムッとした表情を浮かべたチャラ男は、何の躊躇いもなく一枚のカードに触れた。
「行くぜ! 俺は2マナを使って手札から『フレア・マックラン』を召喚だ!」
チャラ男
マナ2→0
手札5→4
『フレア・マックラン』
コスト2/火属性/アタック2/ライフ2
【効果】
『先制』
「あらら」
残念、とでも言いたかったのか。
チャラ男が召喚したのは身体に炎を纏った青年の姿をした赤髪のユニット。
それを見た美少女がパキッとお菓子を鳴らす。
けども、その顔には明らかに「関心関心」という言葉が浮き彫りになっていた。
(『先制』持ち……この状況にはピッタシなユニットだな)
『先制』は『速攻』と同じく。
バトルゾーンに出たばかりでも攻撃ができるユニットの固有能力。
しかし、『先制』には『速攻』とは明らかに違う部分がある。
それは――『相手のユニットにしか攻撃できない』ということだ。
『速攻』は相手のユニットだけではなく、相手のライフにも直接攻撃ができる。
それに対して。
『先制』は相手のユニットにしか攻撃できない、という『速攻』の劣化版みたいな効果になっている。
つまり、『先制』は『速攻』の下位互換。
別の言い方をすると、『先制』は『速攻』よりも弱い効果である、ということだ。
ただ、それについてはハッキリ言って状況によりけり。
であるからして。
「さあ、アタックフェイズ! 俺はまず『フレア・マックラン』で『侍従の騎士』に攻撃だ!」
『フレア・マックラン』
アタック2/ライフ2→アタック2/ライフ1
『侍従の騎士』
アタック1/ライフ2→アタック1/ライフ0
「まだまだ! 俺は『火の拳マサル』で相手のライフに攻撃だ!」
「やるね」
『火の拳マサル』
アタック1→アタック2
美少女
ライフ20→18
流石は火属性といったところだな。
高い攻撃力で安定して攻めに行けるのは普通に強い。
けれども、バトルはまだ始まったばかり。
その証拠に。
美少女は残ったお菓子を一気に口の中に放り込むと、腰のポーチから新しいお菓子を取り出した。
ちなみに、そのお菓子はどっちも麩菓子みたいなヤツだった。
「これでターンエンドだ!」
「そう。じゃあ、私のターン。ドロー」
美少女
マナ0→2
手札5→6
後攻の二ターン目。
お菓子を食べながら美少女がカードをめくる。
よく見たら右手だけでカードを触って、お菓子は左手だけで触っている。
そこら辺はしっかりしてるのな。
「私は2マナを使い、手札から『使い走りのエルルゥ』を召喚」
美少女
マナ2→0
手札6→5
『使い走りのエルルゥ』
コスト2/光属性/アタック1/ライフ2
【効果】
①このユニットがバトルゾーンに出た時、このユニットを破壊して発動できる。自分のライフを2回復する。
美少女が次に召喚したのは、アホ毛の大きな金髪ショートボブの女の子メイド。
だが、
「私は召喚した『使い走りのエルルゥ』の効果を発動。この子を破壊し、自分のライフを2回復」
その効果を発動した途端、何故かいきなりずっこける。
おまけに、持っていたバケツもひっくり返る。
中に入っていた水が『使い走りのエルルゥ』の頭に綺麗にぶちまけられる。
それでも。
起き上がった『使い走りのエルルゥ』はバケツを持つと一礼してから急いで退散した。
うーん、これはダメイド。
一体今のどこに回復要素があったのか。
だけど、美少女のライフは回復した。
美少女
ライフ18→20
「なっ、ライフを回復したっ!?」
これはまた。
光属性の強みが出ているな、と俺は思った。
(あれは本当に厄介なんだよなぁ)
光属性の特徴は大量の『ガード』ユニットとライフの回復を合わせた高い防御力。
毎ターン毎ターン『ガード』ユニットで攻撃は止められ。
やっとの思いで削ったライフは一瞬で回復される。
実際にバトルすると、まるで岩か何かを相手してるみたいになってかなりダルくなる。
まあ、そうやって粘り強く戦うのが光属性の戦い方なわけだけど。
「私はこれでターンエンド」
「くっ。俺のターン、ドロー!」
チャラ男
マナ0→3
手札4→5
先行の三ターン目。
チャラ男が歯噛みしながらカードを引く。
しかし、引いたカードを見た瞬間、その表情を一瞬で柔らかくした。
「行くぜ! 俺は3マナを使って手札から『火炎少女エリナ』を召喚!」
チャラ男
手札5→4
マナ3→0
『火炎少女エリナ』
アタック2/ライフ2
「さらに『火炎少女エリナ』の効果を発動! 自分のバトルゾーンにいるこのユニット以外の火属性ユニットのアタックを+2する!」
『火の拳マサル』
アタック1→アタック3
『フレア・マックラン』
アタック2→アタック4
「そして、アタックフェイズ! 俺は『火の拳マサル』と『フレア・マックラン』で相手のライフに攻撃!」
「くっ」
『火の拳マサル』
アタック3→4
『フレア・マックラン』
アタック4
美少女
ライフ20→12
「よし! これで俺はターンエンドだ!」
(へぇ……)
これはすごい。
引きの良さに助けられたな。
あの光属性を相手にこんな序盤から一気に『8』ダメージも与えられたのは相当デカい。
だが、やられた方もそれを黙って見ているわけではない。
「いいね。私のターン、ドロー」
美少女
マナ0→3
手札5→6
後攻の三ターン目。
手札を増やす美少女の横顔。
その顔には、遠目からでも見えるくらいに不敵な笑みが浮かんでいる。
「お待たせ。さあ、行こうか」
「なに?」
(あん?)
その口から出た呟きはあまりにも小さくて聞き取れない。
しかし、急に何を言い出したんだ、などと思ったのも束の間。
美少女は手札から一枚のカードに触れると、それをゆっくりと優しく表向きにした。
「私はこの子の効果を発動」
「ん?」
「っ! ソイツは!」
美少女が表向きにしたカード。
チャラ男はそれがどんなカードかわからず、眉を潜めている。
でも、その絵柄にものすごく見覚えがあった俺は、思わず声を上げる。
それをつぶさに聞き取ったらしい。
一瞬だけこちらを振り向いた美少女がニッコリと微笑んできて。
「この子は自分のライフが10以上であればコストを3減らして召喚できる」
「なに……?」
「よって。私は3マナを使い、手札から」
この子を召喚、と。
美少女が優しい声色で一枚のカードを送り出す。
叩き付けるわけでも、投げ付けるわけでもない。
そっと添えるようにバトルゾーンに置かれたカードが光を放ち、
美少女
マナ3→0
手札6→5
「さあ、おいで――『閃光の騎士シャイナ』」
純白の鎧に身を包み。
真っ直ぐに伸びたレイピアを片手に。
腰まで伸びた金色の長い髪を小さく揺らして。
美少女の前に凛々しい可憐な少女――『閃光の騎士シャイナ』がその姿を現した。
ゆっくり投稿。
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