第42話 ストリートにバトっちゃおう
あ……ありのまま今、起こった事を話すぜ!
「美少女がナンパされているのを黙ってみていたらいつの間にかバトルが始まっていた」
な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何が起こったのかわからなかった。
頭がどうにかなりそうだった……。
話し合いだとか、喧嘩だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。
この世界のもっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
(いや、今はもうわかっちゃったんだけどね)
俺の目の先には、さっきまで色々と話していたチャラ男と美少女。
しかし、とっくのとうにバトルのスタンバイは済んでしまっていた。
相手はまだ手札交換の最中で、じっくりと悩んでいる。
そりゃあ悩むよな。
だって、このバトルで勝てば美少女と楽しい時間が過ごせるんだもの。
なお肝心のお相手さんはお菓子をずっと食べてる残念美少女な模様。
俺はトボトボと美少女の方に近付いてから小声で話し掛けた。
「なあ」
「ん、何かな?」
「今更なんだけど大丈夫なのか? バトルを安請け合いなんかしてさ」
「問題ないかな。丁度デッキのテストもしたかったところだし」
「えぇ……」
それさ、別に今じゃなくて良くない?
なんでテスト感覚でこのバトルを受けちゃったんだよ。
その条件で負けたら『ナニ』をされても文句言えないんだぞ。
本当にいいのかよ。
「立体バトルって途中でやめれないのか?」
「降参すればやめれるかな。そうなると私の負けになるけど」
「あ、そっかぁ」
なるほど。
要するにバトルが始まったら勝つしかない、と。
そういうことですね、わかります。
「ま、そこでゆっくり見てなよ。君、疲れてるみたいだから」
「そうさせてもら…………えっ?」
あれ、今こいつなんて……?
「えっと、疲れてるって?」
「それは」
「よっしゃ! こっちは準備が終わったぜ!」
「……また後で話そうか」
「あ、あぁ……」
今のやり取りのせいで色々と気になることができた。
だが、相手の準備が整ったのでヒソヒソ話は一旦中止。
そろそろバトルが始まる、ということでその場から離れる。
邪魔にならないように。
あと、あまり関係者っぽく見られないようにこっそりと野次馬の最前列に紛れ込む。
(がんばえー)
外野から心の中でエールを送る。
それからすぐ。
チャラ男と美少女の色々なモノの賭けられたバトルが始まりを告げた。
☆☆☆
「さあ、始めようか」
「行くぜ!」
『バトル、スタート!』
美少女
ライフ20
マナ1
手札5
チャラ男
ライフ20
マナ1
手札5
(さて、どんなデッキなのかねぇ……)
それぞれの頭上に『20』の数字が浮かび上がり、左手から一つの小さな光の玉がポンッと飛び出す。
先行を取ったのは――
「おっしゃ! 先行は貰ったぜ!」
「あらら」
(先行はあっちか)
デッキが光るのを見て、チャラ男が嬉しそうに声を上げる。
美少女も残念そうにはしてるのかもしれない。
けど、俺の目には全然そういう風には見えない。
試運転もしてないデッキでぶっつけ本番とか本当に大丈夫なのかよ。
そんな俺の心配も虚しく。
チャラ男は一枚のカードを手札からバトルゾーンに出した。
「行くぜ! 俺は1マナを使って『火の拳マサル』を召喚!」
チャラ男
マナ1→0
手札5→4
『火の拳マサル』
アタック1/ライフ1
先行の一ターン目はドローができない。
しかし、最初の手札は程よく整っていたらしく、動きに淀みはなかった。
(なるほど。火属性のデッキか)
どうやら相手の使うデッキはアルスと同じ火属性デッキのようだ。
火属性は一枚一枚の攻撃力が高く、安定した攻めが得意な属性。
そのためか、俺の知るかぎりで一番の使用率を誇る属性でもある。
それはそうだよな。
だって、分かりやすいし、戦いやすいし、強いものな。
「俺はこれでターンエンドだ!」
「じゃあ、私のターンかな」
攻撃できるユニットがいないので、チャラ男のアタックフェイズは終了。
そして、チャラ男のターンが終わり、美少女のターンが始まる。
「私のターン、ドロー」
美少女
手札5→6
(さあ、どう動く……?)
後攻の一ターン目。
心配と言えば心配ではある。
だけど、それと同じくらいにどれだけ戦えるのかという期待もある。
というのが俺の本音だ。
(火属性が相手ならユニットを出して相手の攻撃に備えるのが定番だけど……)
手札を前にして何かを考え込む美少女の横顔をジッと眺める。
……本当に見た目はものすごい美人なんだけどなぁ。
(……って、今はそんなこと関係ないだろ!?)
しっかりしろ俺、と顔を叩いて正気に戻す。
いかん。
俺の女性に対する耐性がなさすぎて、ヤバイ。
(とりあえず集中だ、集中!)
目の前のバトルに何とか全集中。
攻撃の得意な相手に先行を取られたのは少なからず痛手なはず。
こうなるとスペルとユニットをフルに使って盤面の有利を取りに行くのがベストな選択だ。
バトルゾーンを押さえることができれば、相手は攻めにくくなる。
が、後手に回った以上、それが難しいことなのは確かだ。
(『相手が動けないように妨害する』『自分の動きを通せるように相手の妨害を突破する』……『両方』やらなくちゃあならないってのが後攻のツライところだな)
覚悟はできてる。
と、思いたい。
後攻になった以上は毎ターンが腕の見せ所。
どのように相手からアドバンテージ――有利を取っていくのか。
お菓子をポリポリと食べる相変わらずの姿を見つつ、ソワソワとしながら待つ。
すると、
「そうだね。ならこうしようか」
ようやく美少女が動きを見せた。
そっと伸ばした細い指で一枚のカードに触れ、それをスッとバトルゾーンに送り出す。
「私は1マナを使い、手札からユニット――『侍従の騎士』を召喚」
美少女の静かな声が響いて。
バトルゾーンに置かれたカードが、マナを受けて光を放つ。
そして、
(なっ!)
眩い光に包まれながら。
ゆっくりとその姿が浮かび上がる。
(あ、あれは)
右手に細長い剣を握り、
(まさか……)
左手には銀色の無味な盾を構え、
(嘘だろ……?)
中世のヨーロッパを彷彿とさせる銀色の全身鎧――と、腰には何故か白黒のエプロン。
(あのカードは!)
その絶妙にダサい恰好に。
あまりにも見覚えのあるその姿に。
俺の驚きと少しばかりの喜びが混じったショックを受け、強張る。
(アイツのデッキは!)
美少女の使うデッキ。
それは、日本にいた頃は当たり前のように見ていたもので。
だけど、この世界に来てからは全く見かけなかったもの。
攻撃とダメージを司る闇属性。
俺が愛用するその属性の対極に存在するものにして。
かつて、持久力の塊とも揶揄されていたほどに防御と回復に特化した属性。
すなわち、
「……光、属性」
新たなる第三の属性――『光属性』だった。
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