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『キング オブ マスターズ』  作者: 大和大和
~ニューカラーズ・エントリー~
39/70

第39話 天見黒春のパーフェクトでっき教室







 公認大会が開催される――その知らせが巡りに巡ったあの日から。

 俺たちの日常は少しだけ変化を見せていた。


「ねえ、クロハル君!」

「どした? アルス」

「今ね、デッキに新しいカードを入れたから見て欲しいんだ!」

「へー、いーじゃん」


 いーじゃん、すげーじゃん。

 とか思ってたらスッ、となんのためらいもなく手が差し出された。

 しかも、その手にはデッキが一つ握られている。

 なーんでそんなに軽く自分のデッキを渡せるのかね。

 この世界だとデッキは命と同じくらい大事な物のはずなのに。

 俺にとってはその信頼が逆に怖いよアル之内君。

 なんてことを思いつつ、恐る恐るアルスのデッキを受け取る。


(まあでも、頼まれたらしょうがないな。見せてもらおうか。新しいカードの性能とやらを)


 早速、渡されたデッキを手にとる。

 そして。

 さあ見るぞ、とデッキを手の上でパラパラと横にスライドさせて、


「悪いわね、クロハル。ちょっといいかしら?」

「ん? あぁ、メリルか。どうかした?」

「私のデッキを少し見てほしいのだけど」

「えっ、お前も!?」

「そ、そんなに驚かなくてもいいじゃない!」


 メリル、お前もか。


「あ、クロハル兄ちゃん! 俺のデッキも見てよ!」

「待って」

「クロハルさん! 私とバトルしてください!」

「待って」


 もうやめて! とっくにクロハルのライフは0よ!

 とまあ、こんな感じで。

 大会に向けての意識改革が起きて大変なことになっている。

 アルスが進んで自分からデッキ作りをするくらいだから、これはもう大改革みたいなものだろう。

 あとは今みたいに俺にデッキ診断を頼む人まで出てきた。

 理由は『強いしカードに詳しいから』、だそうだ。

 なんでや。

 レオさんもそこそこ強いし詳しいやろ。

 あとはそれ以外にもカードを漁ったり、目に付いた人に片っ端からバトルを挑んだり。

 もうね。

 すごいのよ、周りの勢いが。

 まだ大会は二ヶ月も先のことだというのに。

 おかげで俺のところにたくさんの予約待ちができてしまった。

 星持ちの高級レストランかな。


「あー、アルスはこれを入れたのか」

「うん! そうだよ! どうかな?」

「そうだなー。悪くはない、とは思う。けど、全体的にコストが高めだから最初の手札にこのカードが来たらキツくないか?」

「えっ、そうかな?」

「俺はそう思う。心配だったら実際にバトルしてこいよ」

「わかった! クロハル君! バトルしよう!」

「ちょっと待って」


 待って。

 お願いだから待って。

 このままじゃあ僕死んじゃうよぉ!

 二つ返事で即出航。

 そんなアルスの行動力は尊敬できるし、羨ましいとさえ思うよ。

 でもね。

 今じゃない。

 今じゃないんだよ。


(俺のデッキもちょいと(いじ)りたいんだけどなぁ)


 ちょっと依頼が多過ぎて忙し過ぎるッピ!

 こんなんじゃ俺、過労死しちまうよ。

 しかも、この忙しさは『カードオフ』にいる時だけではない。

 最近、バトルを仕掛けてくる野生のマスターが多いのなんの。

 草むらもないのに目の前に飛び出してきては急にバトルを仕掛けてくるわけよ。

 ちなみに言うと、誰かと目線を合わせるのもアウト。

 街中だろうが店の中だろうが目と目が合えばその時点でバトルが始まる。

 そのせいだろうか。

 最近の街の空気は何故か無駄にピリピリと(しび)れている。


(もうさ……ねっ)


 完全にやってることがヤンキーかギャングスタなのよね。

 本当にさ、日本じゃあ考えられない光景だよ。

 いや、考えたくもない光景なんだけどさ。

 あまりの驚きにバトルシティなんて言葉がちょちょいと頭に思い浮かんだくらいだ。

 この街はバトル・シティと化す!

 一般人はどいてな、ってか?

 恐ろしいかよ。

 もう世紀末だよ。

 世紀末。

 まあ、そんな話はどうでもいいから置いといて、と。


「とりあえず、アルスは他の誰か探してバトルしてくれ。メリルのデッキも見るから」

「わかった! 頑張ってねクロハル君!」

「お、おう」


 あ、やっぱり行かないでアルス。

 私を置いて行くなアアアア!

 自分で言っといてアレなんだけどアルスも手伝ってよ、デッキ診断するの。

 確かに『キング オブ マスターズ』には『デッキマイスター』とかいうデッキの診断やデッキ作りしかしない変人プレイヤー達もいたけどさ。

 俺は違うんだよぉ!

 そんな俺の切ない思いを余所に、アルスはデッキを片手に意気揚々とマスターたちの中へと消えていく。

 その後ろ姿を見て、溜め息をこぼした俺はそっとメリルのデッキを手に取った。


「人気者は大変ね」

「何だよ。なら俺と代わるか?」

「ごめんなさい。私、カードにはあまり詳しくないのよ。だから頑張ってクロハル」


 バトルのことなら教えてあげられるんだけど、とはメリルの言葉。

 ですよね。

 というか今のってさり気なく(あお)られてないか?

 ええい、許さんぞ貴様ァ!

 って、ヤバイ。

 地味に俺の情緒が不安定になっててヤバイ。

 落ち着け、俺。

 多分、素数でも数えておけば大丈夫だろ。


「いち、さん、ご、なな、じゅうさん、じゅうきゅう、にじゅうさん……」

「……本当に大丈夫?」


 カードを一枚ずつ見ながら孤独な数字を数えていたら、隣のメリルから真面目に心配されてしまった。

 ゴメンな、メリル。

 俺、もうダメかもしれない。


「……パッと見た感じは大丈夫だと思う」

「そうかしら?」

「多分な。ただ展開力は落ちそうだな、って感じはするけどそこら辺はどうなん?」

「うーん、そうね。……でも、今までのデッキだと相性の悪いデッキと戦う時がキツかったのよ」

「それはそう」


 相性が悪いとキツイ、っていうのはどんな物事にも共通するところだからね。

 そればかりは仕方がない。

 あとせっかくだからデッキについても少し、説明しておこうと思う。


 カードゲームのデッキにはそれぞれ『デッキタイプ』というものがある。

 そのデッキタイプは大まかに三つ。

 大まかに、三つ。


 一つは、ガンガンカードを使って、ガンガン攻撃して、一ターンでも早く勝利を狙う『アグロデッキ』。

 またの名を『速攻デッキ』。


 もう一つは、幅広いカードを使い、そのパワーや柔軟さを生かして戦う『ミッドレンジデッキ』。

 またの名を『中速デッキ』。


 最後の一つは、たくさんの妨害カードやカードをどかす除去カードなどを利用して試合の流れを支配することを狙う『コントロールデッキ』。

 またの名……はわからない。


 それぞれの特徴をざっくり説明すると、まずは『アグロデッキ』から。


 『アグロデッキ』は『攻撃型』で、『ガンガンいこうぜ』を地で行くデッキなのでとにかく『早い』。

 しかし、ガンガン行かなきゃいけないので手札が減りやすい。

 手札が減ると攻撃力が落ちる。

 攻撃力が落ちた『アグロデッキ』はただのデッキ。

 なので。

 バトルが長引くと負けやすい、という特徴がある。

 それでも勝てなくは、ないです。


 次に『ミッドレンジデッキ』。

 『ミッドレンジデッキ』は『バランス型』で、相手のデッキに合わせて戦い方を変えられる万能さがウリ。

 早くはないけど遅くもない。

 また、単体でも強いカードを入れることが多いので全体的にパワーが高く、バトルが長引いてもそこそこ戦える。

 やはりパワーは偉大なり。

 ただ、器用貧乏とか言ったヤツ。

 お前だけは絶対に許さない。


 最後の『コントロールデッキ』は『防御型』で、とにかく相手を追い詰めて不利にすることを得意とする厄介なデッキ。

 相手の動きを妨害したり、邪魔なカードはドンドンしまっちゃったりと中々に嫌らしい戦い方が多い。

 最悪の場合、相手のユニットを奪ったり、相手のスペルを勝手に使ったりもする。

 欲しいものは奪い取るね。

 だけど、早くはないのでスピード勝負で普通に負けたりする。

 防御型とは一体。

 でも、相手を一撃で仕留める力は、あります。


 といったところかな。

 この三つのデッキタイプを挙げてみたが、大まかなんで他にも色々とデッキタイプはある。

 でも、この三つさえ覚えていればほとんどのカードゲームを知るのには十分だ。

 それだけわかりやすい、ということなんだろうな。

 ちなみにそれぞれの相性は、


 『アグロデッキ』は『コントロールデッキ』に強い。


 『ミッドレンジデッキ』は『アグロデッキ』に強い。


 『コントロールデッキ』は『ミッドレンジデッキ』に強い。


 といった感じになっている。

 絶対ではないけれど、実際にやってみればこの相性は大体合ってるな、とは思う。

 あくまでも大体ね。

 そして、最近のメリルはこのデッキの相性についてかなり悩んでいる節があった。

 というか悩んでた。

 その気持ちは俺もよく知っている。

 だから、今日だけではなく前々からこのことで俺はメリルの相談に乗っていた。


「ねえ、クロハル」

「なに?」

「やっぱり、水属性って……弱いのかしら」

「……えっ?」


 やはり、これも大会の影響なのだろうか。

 目尻を力なく落として、珍しく弱音を吐いている。

 そのことに驚く俺を、メリルはゆっくりと見返した。


「クロハルはどう思う?」

「いや、水属性は全然弱くないと思うんだが」

「だといいんだけど……」


 メリルがホッと溜め息をこぼす。

 いつになく元気のない姿を見ると、ズキリと心が痛む。

 でもな、メリル。

 今は水属性が弱い属性に思えるかもしれないけど、俺はそうは思わない。

 何故なら――水属性の未来、いずれ来るカードがどんなものかを知っているからだ。

 その中にはあの『流制の水龍フェイ・ターク』さえも超える強力なカードだってある。

 無論、そのことを口にすることはできないし、しない。

 でも。

 だからこそ。

 俺は、断言できる。


「メリルはどう思うか知らないけど――水属性は強いよ」

「っ! …………そう」


 少し長い間を置いて。

 フッとメリルの口が緩んだ。

 『キング オブ マスターズ』は、どこまで突き詰めても結局はカードゲームだ。

 カードゲームは元々誰かと楽しく遊ぶために生まれたもの。

 そのことだけは絶対に忘れてほしくは、




「やい、クロ兄! 俺とバトルしろ!」

「待って」




 ……やっぱり、俺はもうダメかもしれない。

 その日は結局。

 お店が閉店するその時まで、デッキ診断をする羽目になったのだった。



カードリストとかあった方が楽しめるのか悩み中(贅沢)。

感想や評価などをいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 返信ありがとうこざいます。 第10部分: 初戦の第5話 >「の、ノーコ……?」 >「ノーコスト召喚。マナを使わない召喚のことだ」 これはその相手のセリフ、今見るとアルスのセリフかもしれな…
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