第33話 激突! 弱きものたちVS死せるものたち
「じゃあ行きますよー」
「っ!」
相手のターンは、まだ終わっていない。
ゆっくりと手を挙げた受付嬢はその腕をスッと下に振り下ろした。
「私は二匹の『スライム』と『カップルン・スライム』で攻撃でーす!」
「俺は『スライム』一体の攻撃を『死皇帝の側近』でガード!」
「あれー?」
プルプルとスライムの群れが押し寄せてくる。
その内の一体である相手の『スライム』と間に入った『死皇帝の側近』が互いに衝突した。
『スライム』
アタック1/ライフ1→アタック1/ライフ0
『死皇帝の側近』
アタック2/ライフ2→アタック2/ライフ1
『スライム』
アタック1
『カップルン・スライム』
アタック1
クロハル
ライフ16→14
「ぐわっ!」
だが、残り二体の攻撃を止めることはできない。
攻撃された俺のライフが『16』から『14』に減った。
「私はこれでターンエンドでーす」
「くっ、俺のターン、ドロー!」
クロハル
マナ0→3
手札4→5
デッキからカードを引く。
これで俺の手札は五枚になった。
左手に浮かぶ三つのマナを視界の端に捉えながら、俺は荒い呼吸を繰り返していた。
(早々にケリを着けないと……)
レオさんやメリル。
そういった強いと言えるようなマスターはいたが、今、俺の前にいるこの人はそいつらとはワケが違う。
このままではダメだ、と俺の本能が訴え掛けてくる。
そのせいだろうか。
嫌な音を立てて鼓動する心臓に、俺はグッと歯を食いしばった。
「俺は! 1マナを使い、ドロップゾーンから『死皇帝の愛猫』を召喚!」
マナ3→2
『死皇帝の愛猫』
アタック1/ライフ1
「そして、効果を発動! 『死皇帝の愛猫』を破壊し、デッキから『死皇帝の愛犬』をドロップゾーンに送って自分のライフに2ダメージを与える!」
クロハル
ライフ14→12
「さらに俺は1マナを使い、ドロップゾーンから『死皇帝の愛犬』を召喚し、効果を発動!」
マナ2→1
『死皇帝の愛犬』
アタック1/ライフ1
「手札を1枚捨ててデッキから『スターヴ・ゴースト』を手札に加えてから自分のライフに2ダメージを与える!」
手札5→4→5
クロハル
ライフ12→10
ついに、俺のライフが『12』から『10』へと到達した。
これ以上自分のライフを削れば、無理矢理押し切られる可能性が高くなる。
だが、ここで止まるわけにはいかない。
手札は四枚とまだ少し余裕は見える。
だったらやるしかない、と覚悟を決めた俺は手札に加えた『スターヴ・ゴースト』の効果を発動した。
「ここで俺は手札から『スターヴ・ゴースト』の効果を発動! 『スターヴ・ゴースト』をノーコスト召喚し、2ダメージ分アタックとライフをアップ! それから自分のライフに1ダメージを与える!」
クロハル
ライフ10→9
手札5→4
『スターヴ・ゴースト』
アタック1/ライフ1→アタック3/ライフ3
(なんとかここまで漕ぎ着けた)
顎の下まで滴っていた汗を拭い捨て、受付嬢の方に目を向ける。
受付嬢は丸くした目で俺の事を見ていた。
「すごいですねー」
「感想を言うのはまだ早いと思いますよ」
なにせ、俺のターンはまだ終わっていないのだから。
「俺は『死皇帝の細工人』で相手の『スライム・ブレイバー』に、『死皇帝の側近』で『スライム』に攻撃!」
「あらー!」
『死皇帝の細工人』
アタック1/ライフ2→アタック1/ライフ0
『スライム・ブレイバー』
アタック2/ライフ1→アタック2/ライフ0
『死皇帝の側近』
アタック2/ライフ1→アタック2/ライフ0
『スライム』
アタック1/ライフ1→アタック1/ライフ0
指示に従って、俺のユニットがそれぞれの相手に一撃を与える。
これでようやくイーブンか。
ちょいと心許ないが、盤面の有利は取れた。
あとはこの有利な状況を如何にして維持するかだ。
「これで俺はターンエンドです」
逸る心に焦がされながらターンを渡す。
そして目を上げたその時、俺は不意に疑問を抱いた。
(……何だ?)
ターンが回ってきた受付嬢は少し困ったような表情を浮かべている。
だけど、ちょっとばかり見方を変えればその表情は余裕そうにも見える。
まるで、待ってました、とでも言いたそうな顔だ。
そんな俺の探るような視線を受けながらも、受付嬢はにこやかなままデッキに指を乗せた。
「では私のターンですねー。ドロー!」
受付嬢
マナ0→3
手札3→4
「そろそろ行きますよー」
「えっ……?」
受付嬢がフフッ、と笑みを浮かべる。
俺の戸惑いが醒めるよりも早く、これが答えだ、と言わんばかりに受付嬢は動きを見せた。
「私は手札からスペル『スライムパレード』を発動しまーす!」
「なっ!?」
パン、と相手のスペルゾーンにカードが置かれる。
それと同時に、あまりにも聞き覚えのあるカード名が俺の耳を貫いた。
(そ、そのカードは!)
マズイ。
ピシリと表情筋が固まり、俺の思考に僅かな空白が生まれる。
そんな俺の動揺を知ってか知らずか、受付嬢はニッコリと微笑んだ。
「『スライムパレード』はドロップゾーンに『スライム』ユニットが5体以上いればノーコストで発動できまーす!」
「5体以上……」
相手の言葉を受け、違和感を抱いた俺は記憶をさかのぼった。
(ドロップゾーンにいるのは『スライムの分裂』の効果で破壊された『スライム』で一体……)
じわりと汗が流れる。
(あとはバトルで破壊した『スライム』が二体と『スライム・ブレイバー』を合わせて四体……?)
頬を伝った汗がスゥッと滑らかな曲線を描いて顎の下から滴り落ちる。
それでも、俺は汗を拭うことさえも忘れて深く思考の海に沈み続けていた。
(おかしい……それじゃあ『スライムパレード』をノーコスト発動することはできない。あのスペルを発動させるにはドロップゾーンに『スライム』ユニットが五体以上いなくちゃあいけない。だとしたら、一体……?)
どこで見落としたのか。
ドクッ、ドクッ、と。
心臓の音が大きく鳴っているのが聞こえる――その時だった。
「あっ!」
不意に、俺の脳みそをぶち抜いた一発の雷撃。
その衝撃と共に、ある一つの場面が脳裏に蘇った。
――私は『スライム・ブレイバー』の効果を発動でーす!
――手札から『マグマグスライム』を捨てて、デッキから『マグマグスライム』を手札に加えまーす!
(そうだよ! さっき『マグマグスライム』を一体ドロップゾーンに飛ばしてたじゃねーか!)
ようやくつっかえていた何かが取れた。
それを含めれば、ドロップゾーンにある『スライム』ユニットの数は合計で五体。
綺麗ぴったしに『スライムパレード』の効果が発動できるというわけだ。
ということは、だ。
「ま、まさか……」
「『スライムパレード』の効果でー、私はデッキから名前が違うコスト2以下のユニットを3体までノーコスト召喚しまーす!」
「うわぁ……」
思わず俺の口からそんな言葉がこぼれる。
(これならもう少し守りを固くするべきだったなぁ……)
反省しても、もう遅い。
そう後悔する俺の前で。
受付嬢
手札4→3
「行きますよー」
受付嬢の発動した『スライムパレード』が強い光と共に、その効果を解き放った。
「まずはー、『バリアン・スライム』!」
『バリアン・スライム』
コスト2/水属性/アタック1/ライフ3
【効果】
『ガード』
①自分のバトルゾーンに他の『スライム』ユニットがいるかぎり、相手はこのユニットにしか攻撃できない。
「次はー、『バーニン・スライム』!」
『バーニン・スライム』
コスト2/火属性/アタック2/ライフ1
【効果】
①このユニットが攻撃する時、自分のバトルゾーンに他の『スライム』ユニットがいれば発動する。このユニットのアタックを+2する。
「最後はー、『ビッグスライム』でーす!」
『ビッグスライム』
コスト2/水属性/アタック1/ライフ1
【効果】
①このユニットがバトルゾーンに出た時に発動できる。自分のバトルゾーンにいる他の『スライム』ユニット1体につき、カードを1枚ドローする。
立ち往生していた『カップルン・スライム』の横に。
鍋の蓋のような形をした蒼いわらび餅。
炎になった赤いわらび餅。
そして、単純に大きくなった青いわらび餅。
一気に三体もの特徴的な『スライム』たちが受付嬢のバトルゾーンに勢ぞろいする。
だが、『スライムパレード』はこれだけで終わりではない。
「私はさらに『スライムパレード』の第二の効果を発動しまーす! この効果でノーコスト召喚したユニットが全て『スライム』ユニットだった場合、デッキから『スライム』ユニットを1体選んで手札に加えまーす!」
「くっ……」
たったの一枚で次々に状況がひっくり返されていく。
その様をただ指を咥えて見ていることしか出来ない俺の前で。
「私はデッキから『スライム』ユニット――『アークナイト・スライム』を手札に加えまーす!」
手札3→4
『スライムパレード』のさらなる効果が発動した。
定期更新は一応今回までとなりそうです。
続きは頑張って書きます。
なるたけストックを溜めて定期更新できるようにしていきますので、感想や評価、誤字脱字や要望などありましたらよろしくお願いします。
2022/7/30 大幅に色々と修正しました。




