第32話 単属性と多属性
クロハル
マナ0→2
手札4→5
「どうするか……」
先行の2ターン目。
五枚になった手札を見る。
うん、悪くはないが良くもない。
ここはとりあえず動くしかなさそうだ。
「俺はまず、ドロップゾーンにいる『死皇帝の家臣』の効果を発動! このユニットを裏向きにしてこのターンのエンド時まで闇属性ユニット1体の召喚コストを2減らします!」
「うわあー、すごーい!」
「ありがとうございますー!」
間延びした声で言わないでくれ。
俺の脳みそまで溶けてしまいそうだ。
眩暈の起きそうな頭を叩きつつ、さらに展開を進める。
「俺は『死皇帝の家臣』の効果を使い、手札からコスト2のユニット『死皇帝の細工人』をノーコスト召喚します!」
ガラ空きだった俺のバトルゾーン。
その真ん中に、ポツンと黒い帽子を深く被った黒尽くめの男が現れる。
手札5→4
『死皇帝の細工人』
コスト2/闇属性/アタック1/ライフ2
【効果】
①このユニットはドロップゾーンから召喚できる。
②1ターンに1度だけ発動できる。ドロップゾーンからカード1枚を選んで手札に加える。その後、自分のライフに2ダメージ与える。
「俺は『死皇帝の細工人』の効果を発動! ドロップゾーンから裏向きになった『死皇帝の家臣』を手札に加え、自分のライフに2ダメージ与える!」
クロハル
ライフ18→16
手札4→5
この効果で俺のライフは『18』から『16』になる。
そこにコテン、と疑問符を浮かべた受付嬢が俺に話しかけてきた。
「あれ、裏向きのカードって戻せるんですかー?」
「戻せますよ」
……この人、思ったより博識だな。
裏向きになったカードは、基本的にスペルでもユニットでもないただのカードとして扱われる。
この辺の説明は長くなるから割愛するけど、裏向きになったカードは手札かデッキに戻せば再利用できる。
このルールを利用して、一気に畳み掛ける!
「俺は2マナを使い、手札からスペル『デッドリィ・ロード』を発動!」
マナ2→0
手札5→4
「手札を2枚捨て、カードを1枚ドロー! その後、ドロップゾーンからカードを1枚選んで手札に加える!」
「うわわー、すごいですねー」
「ありがとうございますー!」
手札4→2→4
何だか相手のペースに押されている感じが否めない。
いつの間にか頬に汗も流れてるし。
汗を拭い、適当にカードを手札に入れた俺は発動したスペルをドロップゾーンに送った。
「まだ行きますよ。俺は今ドロップゾーンに送った『死皇帝の家臣』の効果を発動! もう一度このユニットを裏向きにしてこのターン、俺は闇属性ユニット1体のコストを2減らして召喚できます!」
「えぇー!?」
「この効果を使い、俺はドロップゾーンからコスト2のユニット『死皇帝の側近』をノーコスト召喚!」
「まだあるんですかー!?」
驚く受付嬢の悲鳴を聞き流す。
そんな俺のバトルゾーンに黒い服を着こんだ一人の色白な男が現れた。
『死皇帝の側近』
コスト2/闇属性/アタック2/ライフ2
【効果】
『ガード』
①1ターンに1度だけ、デッキの下からカード1枚をドロップゾーンに送って発動できる。カードを1枚ドローする。その後、自分のライフに2ダメージ与える。
(デッキの下はどうだ?)
フィールドからデッキへ。
右手を伸ばし、少しだけデッキを持ち上げた俺はその下にあるカードを確認する。
これは最近知ったことだけど、この立体バトル中はデッキの中が見れないのだ。
今みたいに触ることはできるけど、一枚たりともカードを抜くことはできない。
おかげで、こうやってデッキの下を見ても不正を疑われたりしないのは正直ありがたいな。
(あー、これか……)
デッキの下をチラリと盗み見て、そっと戻す。
顔を上げ、前を見た俺はそのまま手を下ろした。
『死皇帝の細工人』
アタック1/ライフ2
『死皇帝の側近』
アタック2/ライフ2
『ガード』
(まあ、十分だな)
俺のバトルゾーンにはユニットが二体。
手札は残り4枚で、ライフは少し減って『16』。
未だ相手が有利な状況は変わらないが、まだ巻き返すチャンスはある。
「これで俺はターン、エンドです」
「はーい。じゃあー、私のターンでーす。ドロー!」
受付嬢
マナ0→2
手札3→4
後攻の2ターン目。
ドローしたのでこれで互いに手札は四枚になる。
さて、ここからどうなるか。
「そうですねー」
うーんうーん、と声を上げながら長考に入る受付嬢。
悩みに悩んだ末、「そうだー」と声を上げた受付嬢は手札から一枚のカードをスライドさせた。
「私は2マナを使って、手札からユニット『スライム・ブレイバー』を召喚でーす!」
「うん?」
相手のバトルゾーンにユニットが召喚される。
現れたのは、赤いハチマキを着け、丸い手が生えたオレンジ色のわらび餅。
……雲行きが少し怪しくなってきたな。
マナ2→0
手札4→3
『スライム・ブレイバー』
コスト2/火属性/アタック2/ライフ1
【効果】
①このユニットがバトルゾーンに出た時に発動できる。手札からコスト2以下のカードを1枚捨てる。その後、デッキから捨てたカードと同じ名前のカードを1枚選んで手札に加える。その後、デッキをシャッフルする。
「それはまさか……」
「私は『スライム・ブレイバー』の効果を発動でーす! 手札から『マグマグスライム』を捨てて、デッキから『マグマグスライム』を手札に加えまーす!」
手札3→2→3
「多属性デッキだって!?」
き、聞いてないぞそんなこと。
急に俺の背中がピンと張り詰める。
まるで冷たい氷柱を背中にぶち込まれたような気分だった。
確かに。
『キング オブ マスターズ』に属性は一つにしなければならない、みたいなルールはない。
何なら他の属性を混ぜることで弱点をカバーすることさえできる。
例えば、水属性に火属性を混ぜれば弱点である攻撃力をアップさせることができるし。
火属性に闇属性を混ぜて、さらに攻撃的なデッキにすることだってできる。
ここまで言えばわかると思うけど、属性を混ぜることのメリットはかなり大きい。
けど。
俺の周りには他の属性を混ぜたデッキ――多属性デッキなんて使う奴はいなかった。
アルスはともかく、あのメリルやレオさんでさ使ったところは見たことがない。
理由は何となくわかっている。
単純に扱いが難しいからだ。
メリットが大きい。
それは逆に考えれば、デメリットが大きくなる、ということだ。
水属性と火属性の例をもう一度挙げると、その二つを混ぜれば展開力があって攻撃力が高いデッキになる。
だが、扱うことができなければ、展開力のない攻撃力の低いデッキになってしまう、ということでもある。
なのに。
この人はそんなデッキを、
(クソっ! これだからテーマデッキはっ!)
テーマデッキは属性が違っても何か合致するものさえあれば機能する。
それをこの人は十全に理解しているということだ。
まるでスライムのように。
俺の中で今、この人の印象は百八十度、いや、三百六十度も変わった。
この人は、この人は――
(……強いっ!)
ここのバトルスペースは、冷房がガンガンに効いている。
それなのに。
汗が、止まらない。
スッと流れた冷たい汗は、俺の頬を伝って。
――ポタリ、と地面に落ちていった。
2022/7/30 大幅に色々と修正しました。
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