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『キング オブ マスターズ』  作者: 大和大和
~スタートカラーズ・セットアップ~
29/70

第29話 ライセンスをゲットしよう?





 窓口からはそこそこ離れた場所。

 その席に座った俺とアルスは暇になった時間をぶらぶらと(もてあそ)んでいた。

 スマホが欲しいな。


「ねえ、クロハル君」

「ん、なんだ?」


 大事なはずの紙を四つ折りにしてポケットに入れたアルスが俺に話しかけてきた。

 俺も暇だったし丁度いいや。

 せっかくだから雑談でもしようじゃないか。

 そういう気持ちで俺はアルスと向き合った。


「あのさ、この前クロハル君がくれた新しいカードなんだけど」

「あー、あぁ。アレか。それがどうかしたのか?」

「ちょっと使い方がわからないんだ……」

「そうか? コストのバランスとかユニットとスペルの比率を調整すれば十分に使えるはずだぞ?」

「うっ、そ、そうなんだよね……」


 アルスが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 やはり、というか何というか。

 一緒に過ごすようになってそれなりに時間は経ったけれども、未だにコイツはバトル以外ができない。

 いや、それは流石に言い過ぎか。

 できないという程ではないとしても、かなり苦手なのは相も変わらずだ。

 だが、最近のアルスは一人でデッキをいじったりし始めている。

 なのでその内にバランス調整くらいはできるようになるとは思う、っていうのが俺の見解だ。


「でもアレを入れるってことは使いたいってことだよな?」

「うん!」

「となるとスペルを全部二枚積みに落としたりしたらどうだ? それかスペルの種類を減らすかだな」

「えー、でも、そうするとアタックができなくなったりしないかな?」

「いや、そうでもないぞ。火属性は盤面を取りやすいから除去札を減らして補助札か展開札に絞ったりしても十分に機能すると思うけど」

「そうかな?」

「そうだろ。第一、俺からすればお前のデッキは攻撃力が高すぎて他がダメになってるように感じるんだが」

「うー」


 うーうー言うのはやめなさい。

 全く。

 だけど、少しづつ強くなっているのは確かだ。

 この前もアルスとバトルをした時には一回その攻撃力で押し切られたことがあった。

 そのバトルではギリギリで俺が勝ちを拾えたけど、次はどうなるか全然わからない。

 むしろ普通に押し負けるかもしれない。

 念の為に言っておくと、俺は強いのかもしれないが無敗ではない。

 メリルとはあの日から何回もバトっているけど普通に負けたりしてる。

 何だったらレオさん相手にも負けたりした。

 なんかさ、周りの人達が皆強くなってるような気がするんだよな。

 特に最近のアルスはかなりすごい。

 デッキ自体の攻撃力も上がっていて、昨日のバトルではレオさんとメリルが轢き殺されてたし。

 近いうちに俺もやられる日が来るんじゃないかと内心でビクビクしながら期待している。

 ……言っておくがマゾじゃないからな。


「うーん」

「どうした?」

「いっぱい待ってるけど全然呼ばれないね」

「だな」


 他にも色々と適当な話を混ぜたりして雑談した。

 けども、全然呼ばれない。

 チラチラとモニターに表示されてる番号を確認しても俺とアルスの番号は全然出てこない。

 ちなみに、モニターというのはテレビのことじゃなくて番号を確認したりするための小型モニターのことだ。

 テレビは一番奥の方と中間の壁のところにくっ付いている。

 そっちには目を向けてないので何を放送しているかは知らん。

 聞かないでくれ。


「あっ!」

「今度はどうしたよ」


 急にアルスが声を上げたので驚きを堪えながら尋ねる。

 するとアルスは細い指をスパッと小型モニターに向けた。


「ほらあれ! 699番ってクロハル君の番号じゃない?」

「えん? ……あ、ホントだ」


 アルスに言われて未だに握り続けていた紙を見る。

 若干、手汗で濡れてる部分もあるけど大丈夫……だよな?

 モニターを見て、紙を見て、モニターを見る。

 そうして俺の番号が確かに映されているのを見た俺はスッとその場に立ち上がった。


「悪い、先に行くわ」

「うん! じゃあね!」

「おうよ」


 小さく手を振られたので、俺も軽く手を挙げておく。

 こうして俺は緊張に心臓をドクドク言わせながら窓口へと向かった。




 ☆☆☆




 マスター協会の三階にある大部屋の奥。

 そこにあった窓口の前に立った俺は恐る恐る声を掛けた。


「あのー、す、スゥ……すいませーん」


 やばい。

 緊張のあまり途中で変に息を吸ってしまった。

 これじゃあ俺が麺を(すす)ってるみたいじゃないか。

 そんな俺の対応をしてくれるのは、眼鏡を掛けた若い男の人だった。


「どうぞ、そちらの椅子にお掛けください」

「アッ、ハイ」


 紙を両手で握り締めながら言われるがままに椅子へと腰を下ろす。

 そうしてから、初めてその人は俺の方を向いた。


「用紙はお持ちですか?」

「アッハイ」


 半ば機械的な返事をして、手に持っていた紙を小さな頷きを繰り返しながら差し出す。

 その様はまるでアイドルの握手会でアイドルに向かって手を出すかのようだ。

 ということは今の俺は緊張に震えるオタクみたいになってるのか。

 ……マジか。


「おや、記入欄が空白ですね」

「あっ、えっと、それは、その、字が上手く書けなくて……」

「あー、なるほどなるほど。そういうことでしたか」


 それなら代筆しますよ、と男の人はカチッとペンを鳴らしながら安請け合いしてくれた。

 マジか。

 メチャクチャ助かる。


「じゃあ、まずはお名前をお願いします」

「えっと、天見……じゃなかった。クロハル、アマミです」

「クロハル・アマミですね……」


 ほうほう、と言いながら氏名欄に俺の名前が書かれた。


「では、住所は?」

「住所……」


 どうしよう。

 流石にこの世界にトウキョウなんて地名はないだろうし、そもそもこの世界に俺の家がない。

 ここは素直に借り暮らしであることを言っておくしかなさそうだ。

 借り暮らしのアマミッティです。


「あの、俺、この街の宿で寝泊りしてて……」

「そうですか……ならばその宿の名前を教えて貰ってもいいですか?」

「えっと、ハウス・へーベルだったかな?」

「あぁ、そこですか。なら、拠点の方も同じでよろしいですか?」

「アッ、ハイ」


 わからないことばかりなので、適当に答えることしかできない。


(字も書けるようにならないとだめか……)


 スラスラと男の人は達筆な字で紙の空白欄を埋めていく。

 それを見ながら、俺はそんなことを思ったのだった。





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