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『キング オブ マスターズ』  作者: 大和大和
~スタートカラーズ・セットアップ~
26/70

第26話 マスターライセンスって何よ





 それは、ある日のことだった。


「そういえばそろそろね」

「ん? 何が?」


 いつもの場所で、唐突に切り出された俺はそう答えて首を傾げる。

 近くにいたアルスもポカンと口を開けて首を傾げるばかり。

 そんな俺たちを見て、メリルは呆れたような溜め息を吐いた。


「何って、ライセンスの更新日よ。こ・う・し・ん・び!」

「……えっ?」


 なにそれ。

 俺知らないんだけど。

 いや、マジで知らないんだけど。

 初めて聞いた単語に困惑した俺は咄嗟に小声でアルスに話し掛けた。


「……アルス、ライセンスって何だ」

「ぼ、僕も知らない……」


 なんでや。

 そう思ってアルスの顔を見てみる。

 うん。

 とてつもなく困った顔をしてらっしゃいますね。

 これはマジで知らないヤツだ。


(仕方がない)


 ないものはないし、わからないものはわからない。

 というわけで、俺たちは大人しく知ってそうな人に聞いてみることにした。


「なあ、メリル。その、ライセンスって何だ?」

「えっ、知らないの?」

「おう」


 そう答えると、アルスも隣でコクンと大きく頷く。

 俺もアルスもわかりません。

 それを知ったメリルは恐ろしく目を見開いた。


「嘘でしょ!? っていうことはあなたたちライセンスを持ってないってこと!?」

「まあ、そうなる……のか?」

「う、うん」


 俺とアルスが互いに顔を合わせて答える。

 その様に。

 メリルは戦々恐々とした目で俺たちのことを交互に見てきた。


「いや、え、でも、えぇ……」

「何だよ。ライセンスとかいうのを持ってなかったら何か問題でもあるのか?」

「あるわよ! 大アリに決まってるじゃない!」


 そう言って、大きく肩を上下させたメリルはポケットから一枚のカードを取り出して見せてきた。

 そこで俺とアルスは、二人揃ってそのカードを覗き込んだ。


「これがそのライセンスなの?」

「そう。これが『マスターライセンス』よ」

「へぇ」


 アルスは色々とメリルに聞いては一人で納得している。

 だが、俺は。


(これって……いや、なるほど。そうなってんのね)


 思いの(ほか)見覚えがあって驚いた。

 そこには名前や性別などが書かれており、その横には顔写真も貼られている。

 いや、貼られているというよりは印刷されている、かな。

 一番似ているのは運転免許証あたりだろうか。

 大雑把に言ってしまおう。

 その『マスターライセンス』なるものは、メチャクチャ簡素に作られた身分証明書みたいなヤツだった。


「で、これがなかったら何が問題なんだ?」

「クロハル……あなた、本っ当に何も知らないのね……」


 なんだか残念そうな目でメリルが俺のことを見てくる。

 しょうがないじゃないか。

 俺は元々この世界の住人じゃないんだから。

 知らないものは、知らん。


「あなた、よく街中で賭け(アンティ)バトルしてるわよね」

賭け(アンティ)バトル?」

「物とかを賭けたバトルのことよ」

「あ、まあ、そうだな」


 いきなり知らん言葉まで使うな。

 頭が良いわけじゃないから混乱してしまう。


「言っておくけどそれ、下手したら警衛団の人にしょっ引かれる可能性あるわよ」

「…………えっ?」


 待った。

 それは一体どういうことだろうか。

 急に背筋が凍えだした俺はメリル、いや、メリル先生にもっとよく話を伺うことにする。

 メリル先生は溜め息を吐きながら教えてくれた。


「そ、それは一体どういうことで……?」

「はぁ……いい? ライセンスを持ってないとちゃんとしたマスターとして認められないの。その状態で賭け(アンティ)バトルをしたら裏の組織とかと繋がってるんじゃないか、って疑われて最悪、恐喝罪なんかで捕まったりすることがあるのよ」

「嘘だっ!?」

「嘘じゃないわよ」


 ついでに、と言わんばかりに「実際に、この間も捕まった人がニュースに映ってたし」と、メリルのありがたいお言葉。

 それを聞いた瞬間、俺の冷や汗は止まることを忘れて流れ落ち始めた。


(俺、もしかしてメチャクチャ危ない綱渡りをしてた……ってコトォ!?)


 なんなら命綱もしていないというオマケ付き。

 これは流石にマズイ。

 知らなかったとはいえ、限りなくブラックに近いグレーなことをしてたとは露ほどにも思っていなかった。

 ふと横を見れば、アルスも驚いたようで俺のことを白黒する目で見ていた。


「ク、クロハル君……」

「し、知らなかった……」


 ……これは、ライセンスとやらのゲットを先にやらなくてはいけないな。

 じゃないと社会的に死ぬかもしれん。

 そう考えた俺は、ジッとメリルのことを見つめる。

 頼む。

 頼れるのはお前しかいないんだ。

 助けてくれ。

 という感じでただひたすらに目線を送り続ける。

 すると、メリルはそんな俺の熱い視線を受けてガックシと肩を落とした。


「しょうがないわね。マスターズ協会まで案内してあげるわ」

「いいのか!?」

「どうせ更新しないといけないから。ついでよ、ついで」

「ありがとう! メリルさん!」

「アルスも知らなかったのね……」


 やれやれ、と大きく溜め息を吐くメリル。

 もうアイツの幸せはとっくのとうになくなっているんじゃなかろうか。

 とまあ、こうして俺たちはメリルの案内の下に『マスターズ協会』とかいう場所に向かうこととなった。




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