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『キング オブ マスターズ』  作者: 大和大和
~スタートカラーズ・セットアップ~
25/70

第25話 バトルの後に残るモノ





 金魚かよ。

 口をパクパクさせたまま固まったメリルの姿。

 それを見た俺はそんなことを考えながら相手の目の前まで手を伸ばして横に振った。 


「おーい、どうしたー?」


 あれ、反応がない。

 少しだけ身を乗り出し、顔を近づけると。


「ウソでしょ……ありえない……」


 なんて言葉をただひたすらに繰り返していた。

 おかしいな。

 今回はガチのデッキだから強いぞ、ってちゃんと言ったし。

 何なら「問題ないわ」とか言ってたじゃないか。


「とりあえず、これで俺はターンエンドだ。お前のターンだぞー」

「っ、わ、私のターンね。……ドロー!」


 メリル

 マナ0→5

 手札5→6


 あ、帰ってきた。


「私は……くっ、5マナを使って、『激流剣士アトロノス』を召喚よ!」


 マナ5→0

 手札6→5


 『激流剣士アトロノス』

 アタック3/ライフ3


 メリルが苦しそうな表情で一枚の青い鎧を来た剣士をバトルゾーンに出す。

 これで正解が出た。

 俺の予想はビンゴだったってわけだ。


「『激流剣士アトロノス』の効果を発動! さあ、『死の皇帝ネメシス』を手札に戻しなさい!」

「はいよ」


 クロハル

 手札1→2


 コスト6の大型ユニットが、俺の手元に転がり込んでくる。

 ううん。

 『死の皇帝ネメシス』のもう一つの効果は破壊された時にしか発動できない。

 対処法としては百点満点だ。

 十年近いキンマスプレイヤーとしての経験は伊達じゃないってことだな。

 惜しむらくは、水属性デッキの弱点である一枚一枚のパワーが低いところか。


「……そうね。これで私はターンエンド」

「はい、じゃあ、俺のターン」


 マナ0→5

 手札2→3


 ドロー。

 カードを一枚引き、マナが五つになっていることを確認。

 そして、俺のバトルゾーンには『スターヴ・ゴースト』と『死皇帝の近衛兵』の二体。

 さて、ボチボチ行くとしますかね。


「まずは1マナを使い、ドロップゾーンから『死皇帝の愛犬』を召喚」


 マナ5→4


 『死皇帝の愛犬』

 アタック1/ライフ1


「そして、『死皇帝の愛犬』の効果を発動。手札を1枚捨て、デッキからコスト3以下の闇属性ユニット……そうだな。『スターヴ・ゴースト』を手札に加える」

「そ、それは!」


 手札2→1→2


「で、最後に自分のライフに2ダメージを与えるが、さらに今手札に加えた『スターヴ・ゴースト』の効果を発動。自分のライフにダメージを受けたことで『スターヴ・ゴースト』をノーコスト召喚。バトルゾーンに出た時の効果で自分のライフに1ダメージだ」


 クロハル

 ライフ11→9

 手札2→1


 『スターヴ・ゴースト』

 アタック1/ライフ1→アタック3/ライフ3


 クロハル

 ライフ9→8


 一気に効果の処理を押し進め、ユニットを展開。

 合計で三ダメージを受けたことにより、残りのライフが『8』になる。

 だが、その結果。

 俺のバトルゾーンは今、こういう風になっていた。


 『スターヴ・ゴースト』

 アタック4/ライフ2


 『死皇帝の近衛兵』

 アタック2/ライフ3

 『ガード』


 『死皇帝の愛犬』

 アタック1/ライフ1


 『スターヴ・ゴースト』

 アタック3/ライフ3


「ウソッ!?」


 嘘みたいだろ。

 ところがどっこい。

 嘘じゃないんだなぁこれが。

 これこそ『キング オブ マスターズ』のテーマは強い、と言われる理由なわけだ。


 他のカードゲームではテーマとなるカードは他のカードと合わせるのが難しく作られている。

 仮に合わせられたとしても、それはその合わせたカード自体が他のデッキに使えるくらい強いカードであることがほとんど。


 しかし、『キング オブ マスターズ』は違う。

 元々、『キング オブ マスターズ』のコンセプトは自由なカードゲームというもの。

 そのためかテーマデッキは、基本的に他のカードとも合わせて使えるように作られている。


 例えばの話。

 俺が使っている『死皇帝デッキ』は『死皇帝』のカードだけではなく、闇属性のカードに対しても効果が使える。


 なので。

 今、俺がやっているように、『死皇帝』のカードが少なくても闇属性のカードを適当に混ぜるだけで十分に機能する。

 してしまうのだ。


「そして俺は今、ドロップゾーンに送った『死の皇帝ネメシス』の効果を発動。コストを2減らし、ドロップゾーンから4マナを使って召喚する。何度でも蘇れ――『死の皇帝ネメシス』」


 マナ4→0


 『死の皇帝ネメシス』

 アタック3/ライフ5


 ドロップゾーンから、再び色白イケメンが姿を現わす。


「『死の皇帝ネメシス』の効果を発動。自分のユニットがバトルゾーンに出たことで、相手のユニット1体を破壊できる。ってわけで、『激流剣士アトロノス』を破壊だ」

「ちょっ」

「そして、アタックフェイズ。俺は手負いの『スターヴ・ゴースト』と『死皇帝の近衛兵』でメリルに攻撃」

「くっ……!」


 『スターヴ・ゴースト』

 アタック4


 『死皇帝の近衛兵』

 アタック2


 メリル

 ライフ19→13


 ようやく、まともな攻撃ができる。

 邪魔なユニットはどかし、攻撃ができるユニットで総攻撃。

 これにより、残りのライフが『19』から『13』へ。

 大きくライフを削られたメリルが苦しそうに呻いた。


「これで俺はターンエンドだ」

「私の……ターン! ドロー!」


 メリル

 マナ0→6

 手札5→6


 まだ少し、メリルの表情は苦いまま。

 それでも、カードをドローしたのは『キング オブ マスターズ』のマスターとして。

 いや、カードゲーマ―としての意地だろう。


「私は……くっ、私は6マナを使って、手札から『流制の水龍フェイ・ターク』を召喚! バトルゾーンに出た時の効果で1枚ドロー。これでターンエンドよ!」


 マナ6→0

 手札6→5


 『流制の水龍フェイ・ターク』

 アタック3/ライフ3


 手札5→6


(そりゃあそうなるよな……)

「俺のターン、ドロー」


 こればかりは仕方ない。

 メリルが使っているのは弱いユニットを一気に展開し、速攻で決める型の水属性デッキ。

 それに対し、俺が使っているのは強いユニットを出し、相手を妨害することに特化した闇属性デッキ。

 弱いユニットでは強いユニットに勝てない。


 おまけに、速攻で決めるタイプのデッキは決められなければジリジリと押されて負けてしまうことが多い。

 今回のバトルもその例に埋もれない形でのバトルになったわけだ。


「メインフェイズをパス。そのままユニットで総攻撃だ」


 俺のユニットの合計のアタックは『13』。

 メリルの残りのライフは『13』。

 『流制の水龍フェイ・ターク』は効果は止めれても攻撃を止めることはできない。


 そのまま、俺の放った攻撃は残っていたメリルのライフを一息に吹き飛ばした。


 『スターヴ・ゴースト』

 アタック4


 『死皇帝の近衛兵』

 アタック2


 『スターヴ・ゴースト』

 アタック3


 『死皇帝の愛犬』

 アタック1


 『死の皇帝ネメシス』

 アタック3


 メリル

 ライフ13→0




 ☆☆☆




「あーん、もう、負けたぁー!」


 ライフが0になり、敗北を(きっ)したメリルが声を上げた。

 持っていた手札をテーブルにばら撒き、椅子にもたれ掛かりながら天井を見上げる。

 その姿を見ながら、俺はフッと小さく重い息を吐いた。


「まぁ……今回は俺の勝ちということで。『絆の力』を引けなくて残念だったな」

「本当よ! もう!」


 あそこで引けてたら勝てたのに。

 そう吐き捨てたメリルは本当に悔しそうに顔をしかめていた。

 わかる。

 わかるぞ、その気持ち。

 けど、


(あんなにヤバイ、と思ったのは久しぶりだったな)


 思い返すは三ターン目の場面。

 ユニットは既に五体並んでおり、『絆の力』を二枚発動されればその時点で俺の負けだった。

 この世界に来てから色々とバトルはしてきたが、心臓が止まるかのようなこの緊張感は本当に久しぶりだ。

 アルスのデッキを取り戻すためにバトルしたあの日以来だろうか。

 その証拠に、バトルが終わったというのに俺の心臓がバクバクと動いているのがわかる。

 改めて。

 メリルとバトルすることができて良かった。

 俺はそう思った。


「メリル、ありがとな」

「……何よ。嫌味?」

「いや、違うって。普通に楽しいバトルだったから」

「そう」


 負けたからか、口もへそも曲がっているらしい。

 だが、「またバトルしようぜ」と俺の正直な気持ちを伝えてみた。

 すると、どうだろうか。

 「いいわよ」、と。

 ヘの字に曲がっていたメリルの口角が少しだけ。

 俺の目の端でニュッと持ち上がるように動いたのが見えた。




2022/7/30 大幅に色々と修正しました。


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[一言] 『死皇帝の愛犬』と『スターヴ・ゴースト』壊れすぎ、まとめ限制しろW
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