第23話 感傷と制限カードに浸りつつ
「私のターン、ドロー!」
メリル
マナ0→3
手札4→5
俺のバトルゾーンを見ながらカードをドロー。
だが、そのカードを見たメリルは露骨に顔を歪めた。
「くっ……私は2マナを使って、手札から『無名の釣り人』を召喚! 効果でドロップゾーンから『スライム』をノーコスト召喚するわ!」
マナ3→1
手札5→4
『無名の釣り人』
アタック1/ライフ1
『スライム』
アタック1/ライフ1
「無難だな」
「うっさい」
相手のバトルゾーンが一気に四体のユニットで埋まる。
「そして、私は……そうね。手札からスペル『繋がる絆』の効果を発動するわ!」
「おぉ」
いいカードを持ってるじゃないか。
そう感心する俺を余所に、メリルはサクサクと効果の処理を進めていく。
「このスペルカードのコストは3だけど自分のバトルゾーンにコスト3以下のユニットが3体以上いれば、コストを2減らして発動できる! 私は残った1マナを使って『繋がる絆』を発動! デッキからカードを2枚ドローするわ!」
マナ1→0
手札4→3→5
相手の手札が二枚も増える。
それを見て、俺の心臓が嫌な音を立てて跳ね上がった。
あのカードがあれば、この時点で俺の負けが確定する。
来ているか。
それとも。
来ていないか。
さあ、どうだ。
どうなんだ。
「ぐっ…………私はこれでターンエンドよ」
(よし!)
心の中でガッツポーズ。
なるほどなるほど。
今の反応でわかったぞ。
正直、『絆の力』を二枚握られていたら負けだったが、この感じだと持ってても一枚だな。
あとは、何かユニットを出そうとして我慢した感じもする。
水属性だから『激流剣士アトロノス』か。
それとも、『水聖霊ディーネハイト』か。
……メリルのことだから『水聖霊ディーネハイト』だったら出してきそうな感じはする。
となれば、出そうとしたのは『激流剣士アトロノス』っぽいな。
まあ、どっちも出されたくないカードだ。
不運と踊っちまったメリルに心の中で手を合わせる。
おかげで無事に俺のターンが回ってきた。
「俺のターン、ドロー」
クロハル
マナ0→3
手札3→4
三ターン目を迎え、マナも三つに増える。
ここまで来れば、あとは問題ない。
俺は、一枚のカードに指を掛けた。
「まあ、これしかないわな。俺は2マナを使い、手札からスペル『苦痛の一撃』を発動。効果でバトルゾーンにいる相手のユニット1体に3ダメージを与える」
「そんな!?」
相手の『水精ミリー』に『苦痛の一撃』を打ち込む。
本音を言えば、全体に2ダメージを入れることができる『闇の放出』の方が欲しかった。
だから、マリガンの時にデッキに送ったんだけど、すぐに返って来ちゃったのよねコイツ。
おかげで助かったけどな。
マナ3→0
手札4→3
『水精ミリー』
ライフ1→ライフ0
「あとは自分のライフに2ダメージ与えて、っと」
クロハル
ライフ15→13
相手のバトルゾーンに残ったのは、『スライム』二体と『無名の釣り人』の三体。
それに対し、俺のバトルゾーンに残ったのが『スターヴ・ゴースト』と『死皇帝の使い魔』。
数は相手の方が上だが、質ならば俺のユニットの方が上だ。
さすが『スターヴ・ゴースト』。
アプリでやってた頃に制限カード指定されただけはあるわ。
やっぱ『スターヴ・ゴースト』しか勝たん。
ここだけの話だけど、『制限カード』というのは『レギュレーション』の一つで、これに指定されたカードはデッキに一枚しか入れることができない。
要するに、たくさんあると強すぎるから一枚だけ使ってね、ということだ。
なんて話は置いといて。
「俺は『死皇帝の使い魔』で『スライム』に攻撃し、『スターヴ・ゴースト』で『無名の釣り人』に攻撃」
『死皇帝の使い魔』
アタック1/ライフ1→アタック1/ライフ0
『スライム』
アタック1/ライフ1→アタック1/ライフ0
『スターヴ・ゴースト』
アタック4/ライフ4→アタック4/ライフ3
『無名の釣り人』
アタック1/ライフ1→アタック1/ライフ0
「くっ」
「これでターンエンドだ」
『死皇帝の使い魔』と『スライム』が相打ちになり、フィールドから退場。
残された『スターヴ・ゴースト』の一撃が『無名の釣り人』を吹っ飛ばして、メリルのバトルゾーンが『スライム』一匹の独壇場になる。
今、俺のライフが『13』だから中々に良い削れ方にはなった。
あと少しで相手にリーサルを決められる。
もうちょっと分かりやすく言えば、王手を掛けることができる。
そんなことを思いつつ相手の方を見れば、メリルがデッキに指を乗せたところだった。
「私のターン……ドロー!」
メリル
マナ0→4
手札5→6
メリルがそっと目を閉じると、強く静かにカードを引いた。
あれ。
それってもしかして巷で有名な運命のドローってヤツじゃ、
「やった! 来た!」
おいバカやめろ。
「私は2マナを使って、手札から『無名の釣り人』を召喚!」
マナ4→2
手札6→5
『無名の釣り人』
アタック1/ライフ1
「そして、『無名の釣り人』の効果でドロップゾーンからもう一体の『無名の釣り人』をノーコスト召喚!」
『無名の釣り人』
アタック1/ライフ1
「さらに! 私は今ノーコスト召喚した『無名の釣り人』の効果でドロップゾーンから『スライム』をノーコスト召喚よ!」
『スライム』
アタック1/ライフ1
「うっわぁ……」
壁とやってろ、と言いたくなるような見事なプレイングです。
ありがとうございます。
ふざけんな。
「そして! 私は手札から『流制の水龍フェイ・ターク』の効果を発動!」
「げっ」
まずい。
メリルが華麗にカードをひるがえし、『流制の水龍フェイ・ターク』の絵を見せてくる。
そのユニットの効果を知っている俺は、戦慄した。
戦慄せざるを得なかった。
「私のバトルゾーンにはユニットが4体……よって! 『流制の水龍フェイ・ターク』のコストを4減らし、2マナを使って召喚よ!」
マナ2→0
手札5→4
『流制の水龍フェイ・ターク』
コスト6/水属性/アタック3/ライフ3
【効果】
①このユニットは自分のバトルゾーンにいるユニット1体につき、召喚コストを-1して召喚できる。
②このユニットがバトルゾーンに出た時に発動する。カードを1枚ドローする。
③相手のバトルゾーンにいるユニットが効果を発動する時、自分のバトルゾーンにいるこのユニットをデッキの上に置いて発動できる。その効果を無効にして破壊する。
手札4→5
(『無名の釣り人』の2マナと『流制の水龍フェイ・ターク』の2マナできっちり4マナ、か……キツイなこりゃ)
とは思いながらも、俺は少しだけ感傷に浸った。
『流制の水龍フェイ・ターク』――それは、水属性のエースユニットにして相手のユニットを無力化できるものすごく強力な効果を持ったユニットだ。
俺たちキンマスプレイヤーからはマルフェイだの、フェイフェイだの、フェイ龍だのと呼ばれていた。
また、スターターデッキである『大水の激流』に入っていたウルトラレアのカードだったりもする。
『苦鳴の龍ベルギア』が闇属性の顔ならば。
『炎獣イグニ』が火属性の顔で。
水属性の顔は、この『流制の水龍フェイ・ターク』だった。
(コイツさぁ、本っ当に強いんだよなぁ)
一見すると召喚が難しいようにも見えるが、このように水属性のユニットはとにかく並べやすい。
おかげで、自身のコストを減らす効果で基本的には四から五ターン目。
早ければ三ターン目には飛んでくるという頭のおかしい性能でかなり苦しめられたことは未だに覚えている。
対処法はユニットを並べさせないようにするか。
スペルカードで処理するか。
それとも、圧倒的なパワーで殴り殺すかの三つだけ。
あ。
あとは大量に効果を発動して無理矢理突破する、というのもあったな。
かなり強い効果と、圧倒的な召喚のしやすさ。
それが転じて、俺がキンマスをやっていた時には『スターヴ・ゴースト』と同じく制限カードに指定されていた。
まあ、そんな話はさておいて。
「さあ、あなたにこのフィールドが突破できるかしら? 私はこれでターンエンドよ!」
「どうだろうな。俺にもわからんよ」
「何よそれ」
メリルはさっきの苦しそうな表情とは打って変わって随分と嬉しそうにしている。
あれは勝利を確信してる顔だな。
多分だけど。
などということを考えながら、俺はデッキの上にそっと手を乗せた。
2022/7/30 大幅に色々と修正しました。
2022/8/21 『苦痛の一撃』の効果でクロハル君が過剰に自傷していたので自重してもらいました。
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