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『キング オブ マスターズ』  作者: 大和大和
~スタートカラーズ・セットアップ~
20/70

第20話 勘違いと出会いの盛り合わせ





 ハムハムカツカツ、と。

 手に持ったサンドイッチを食べながら歩き慣れた道を行く。

 懐も温かく、十分な資産を確保した俺は、気分良く『カードオフへ』と向かっていた。


「あいつ今、何してっかな」


 俺の右手にはもうすぐに食べ終わるサンドイッチ。

 で、俺の左手には袋に入ったサンドイッチ。

 この袋に入っているヤツはどうせ飲まず食わずでバトルしているだろうと思っているアルスの分だ。

 本当は別のモノを買おうとしたのだが、


「凄くバトルが強いじゃない! さっすがクロハル君だねぇ」

「えっ? あ、いや、別にそこまででは……」

「しょうがないねぇ! あたしからのサービスだよ!」

「あ、え? あ、はぁ、ありがとうございます」


 という感じでパン屋のおばちゃんからサンドイッチを渡されてしまった。

 なので、せっかくだからとアルスの分も買ったのだ。

 あいつは意外と小食なのでサンドイッチ一個でもお腹がいっぱいになるらしい。

 二、三個食べても腹がいっぱいにならない俺って、もしかして、おかしかったりするのだろうか。


「さーて、今日はどうすっかなぁ」


 パックを開けてデッキ作りをするか。

 それとも、いつものようにバトルに明け暮れるか。


(まあ、もう答えは決まってんだけどな)


 いつもの俺らの遊び場である『カードオフ』。

 その自動ドアが開き、涼しい風が俺を包んで抜けていく。

 今日はもう十分にバトルした。

 だから今回はパックを大量に開けてデッキ作りを――


「僕は『火炎のメーラ』で攻撃!」

「させないわ! 私は『川流れのハッチ』でガード!」







「………………はっ?」







 一瞬、俺の頭は停止した。

 けども、すぐに再起動を果たした俺の頭脳は、凄まじい回転をもって状況を分析した。


(アルスが……女とバトルしてる……だと……?)


 赤色の髪の毛をした男の子は間違いなくアルスのヤツだろう。

 だが、水色の髪をポニーテールにした女の子は知らない。

 つまり、


(はっ? えっ、はっ? 彼女? はっ? えっ? はっ? 彼女!? はぁ!? えっ、俺を差し置いて? 彼女のいない俺を差し置いて!? はぁ!? はっ? えっ? はぁ!?)


 天見黒春は激怒した。

 あの邪地暴虐なアルスを許してはおけないと。

 いつの間に彼女なんか作ったんだあいつ。

 許してはおけん。

 絶対に許ざん。

 絶対ニダ。


「あっ、クロハル君だ! おかえり!」

「えっ!?」


 ズンズンズン、と肩を怒らせ、無表情を貫いて歩く俺にアルスが反応する。

 それに釣られて、バトルしていた女の子も俺を見てきた。

 だが、今の俺の目にはアルスしか映っていない。

 そんな俺は、ズズン、とアルスの横に立ち、ダン、とテーブルに空いていた手を叩き付ける。


「え、あ、く、クロハル君? な、なんか怖いよ……?」


 アルスが何か言っているがよく聞こえない。

 よぉく聞こえないなぁ。

 もしかしたら、彼女マウントを取ってきたのかもしれない。

 やっぱり許ざん。

 ウェスタンのガンマンのように腰のケースから素早くデッキを取り出す。

 そしてそれを、俺はアルスの面前に突き付けた。


「おい、バトルしろよ」

「えっ、あ、クロハル君!?」

「カードは拾った」

「えぇ!?」




 ☆☆☆




 誤解でした。


「悪い、アルス。マジですまんかった」

「あ、いや、うん。本当に色々とびっくりしたよ、うん」


 あれから、色々と説明をして貰い、対戦していた女の子が彼女ではないことが分かった俺は謝罪していた。

 土下座ではないが、テーブルに頭を付けて深く謝る。

 それをアルスは半分笑い、半分困りながら受け止める。

 さて。

 謝罪が終わり、頭を上げた俺は、その横で物凄く微妙そうな顔をした女の子を見た。


「で、そっちは……」

「そういえば、自己紹介がまだだったわね。……私はメリル・サーシュトリアよ。あなたがクロハルなのよね?」

「そうだけど。……俺に何か用か?」

「もちろん」


 そう答えた女の子――メリルがスッと静かに立ち上がる。

 すると、その手に持っていたデッキを俺に向かって突き出した。


「あなたにバトルを申し込むわ!」


 なるほど。

 そういうことだったのか。

 相手の思惑を理解した俺は、同じように立ち上がるとデッキを――テーブルに置いて手を合わせた。


「すまん! 今日はもう疲れたから明日にしてくれ!」

「え? あ、そう……なら仕方ないわね」


 あれ。

 つり目で結構怖そうな感じだったけど、全然そうじゃなかった。

 むしろ、意外と素直な人だった。

 やっぱ人間は見た目じゃないよな。

 そう思っていると、アルスが不思議そうに首を傾げた。


「あれ、じゃあ今日は……」

「まあ、パックを開けたり、デッキを改良したりするかな」

「そっか。じゃあ、僕のデッキも見てよ!」

「おう、いいぞ」


 そう言い残し、テーブルに置いたデッキをケースにしまう。

 そんな俺たちの会話に、メリルも入ってきた。


「楽しそうね。せっかくだから私も混ぜてもらえないかしら」

「えっ、なに、お前も始めたばかりなの?」

「ちっがうわよ! 私もパックを開けてデッキを改良するって言ってるの!」

「なんだ。そういうことか」


 ややこしいったらありゃあしない。

 とか何とか考えていたら、不意にアルスが俺の脇腹をつついてきた。

 やめろ。

 俺は意外と脇腹が弱いんだ。

 次やったら許さんぞ。


「ねえ、クロハル君クロハル君」

「どうした」


 妙に小声だな。

 せっかくだから雰囲気に合わせて俺も小声で話す。


「メリルさんってすっごく強いんだよ」

「へぇ、そうなのか?」

「うん。ちっちゃい時から『キング オブ マスターズ』をやってたんだって」

「ほぉ……」


 なるほどなるほど。

 それは確かにすごいな。

 俺は確か今は十六歳だから、『キング オブ マスターズ』を始めたのは三年前くらい。

 つまりは俺のキャリアは三年というわけだ。

 対するメリルはちっちゃい時、というと、五歳とか六歳ぐらいだろうか。

 そう考えると、彼女は中々に経験が豊富ということになるな。


(これは……明日がちょいと楽しみになってきたな)


 今までバトルをする相手は子供たちやアルスばかりだった。

 しかも、それなりの実力を持っているヤツとなれば、アルスや店員のレオさんくらいしかいない。

 ぶっちゃけてしまうと、実は少しだけ相手に対する飽きというものを感じていた。

 だからこそ、戦ったことのない相手とバトルできるのは、俺としても結構嬉しいことだった。


「よし、じゃあ行くぞアルス!」

「うん!」

「……本当に仲良いわね。あなたたち」


 メリルが何か言っていた気がしたが、別にそんなことはなかったんだぜ。

 そうやって、ワイワイとはしゃぎながらカウンターに向かう。


「おっ、いらっしゃい。何か買うかい?」

「今日は一箱ください」

「わかった。ちょっと待っててね」


 さあ、楽しい楽しいパック開封の時間だ。

 こうして、今日という日も無事に過ぎていく。




 そういやアルスの目がちょこっと赤くなってたけど、何かあったのだろうか。

 パックを開けながら、俺は訝しんだ。





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