第18話 流れを制する力
「僕のターン、ドロー!」
アルス
マナ0→5
手札2→3
めくったカードを手札に加える。
それから、僕は相手のバトルゾーンに目を向けた。
『マリリン・マリネル』
アタック1/ライフ1
『水の妖精アリア』
アタック1/ライフ1
『無名の釣り人』
アタック1/ライフ1
『川流れのハッチ』
アタック1/ライフ1
『ガード』
『流制の水龍フェイ・ターク』
アタック3/ライフ3
(『ガード』を持ってるユニットは一体だけ……)
何もしてこなかった『流制の水龍フェイ・ターク』が少しだけ怖い。
けど、
『炎獣イグニ』
アタック7/ライフ2
『炎の導師マーズ』
アタック5/ライフ3
(僕のユニットの方が、強い! ……よね)
数は負けている。
でも、アタックなら負けていない。
そんな自分のバトルゾーンを見て、僕はグッと手を握り締めた。
(とりあえず……)
「僕は手札から1マナずつ使って、『火の拳マサル』と『ファイヤーボーイ・ゲキ』を召喚!」
マナ5→3
手札3→1
『火の拳マサル』
アタック1/ライフ1
『ファイヤーボーイ・ゲキ』
アタック1/ライフ1
「そして……」
チラリ、と『炎獣イグニ』に目を向ける。
そこには、口から炎をこぼす、たくましい獅子が構えていた。
僕にできるのは、攻撃することだけ。
ならば、
(大丈夫、いける!)
「攻撃だ! まずは『炎の導師マーズ』で『川流れのハッチ』を攻撃!」
僕の指示を受けて、『炎の導師マーズ』が本をページをめくり、右手を『川流れのハッチ』に向かって突き出す。
すると、その手から炎の玉が一直線に飛んで行った。
『炎の導師マーズ』
アタック5/ライフ3→アタック5/ライフ2
『川流れのハッチ』
アタック1/ライフ1→アタック1/ライフ0
「へぇ……」
「これで『ガード』はできない! 今度は『炎獣イグニ』で相手のライフに攻撃! 攻撃する時の効果で僕は『流制の水龍フェイ・ターク』に5ダメージを与える! いっけぇ! ロア・フレイム!」
構えた『炎獣イグニ』が口の中に炎を溢れさせる。
そして、その溢れた炎を吐き出すように爆発させようと――
「その時を待ってたわ!」
「っ!」
突然、メリルさんが大きな声を出す。
いきなりのことに、驚いた僕の体がビクンと跳ねる。
しかし、そんな僕を余所に。
メリルさんは大声で言葉を続けた。
「私は『炎獣イグニ』が効果を発動する時に、『流制の水龍フェイ・ターク』の効果を発動するわ!」
「えっ?」
初めてやられた発動の仕方に、頭が追い付かなくなる。
けれども。
そんな僕の目の前で、『流制の水龍フェイ・ターク』は静かに頭を下げると、急にその体が透明な水の泡に包まれた。
そして、泡が弾けたその瞬間、
『炎獣イグニ』が口の中で燃えていた炎を吐き出すことなく爆発させた。
「なっ!?」
吐き出すことなく爆発させたせいで、『炎獣イグニ』が激しい爆炎の中に飲み込まれてしまう。
「イ、グニ……?」
ゆっくりと、黒い煙が晴れていく。
段々と、『炎獣イグニ』が立っていたバトルゾーンが見えていく。
でも、
「イグニ……?」
煙が弱まり、僕のバトルゾーンがうっすらと見えるようになった。
『炎の導師マーズ』や『火の拳マサル』、『ファイヤーボーイ・ゲキ』が黒い煙を払いながらそれぞれの場所に現れる。
やがて、煙が晴れて、バトルゾーンが明るくなった。
しかし、
「そ、そんな……!」
晴れ渡った僕のバトルゾーン。
そんな何も代り映えのないフィールドから――『炎獣イグニ』の姿だけがすっぽりとなくなっていた。
(ど、どうしてっ!?)
『炎獣イグニ』のいた場所だけが、綺麗さっぱりとガラ空きになっている。
目をあちらこちらと動かして。
そこで僕は、メリルさんのバトルゾーンから『流制の水龍フェイ・ターク』がいなくなっていることに気付いた。
そのことに、メリルさんも気付いたらしい。
メリルさんは、僕を見てフフッと笑った。
「『流制の水龍フェイ・ターク』の効果。それは――『相手のバトルゾーンにいるユニットが効果を発動する時、自分のバトルゾーンにいるこのユニットをデッキの上に置いて発動できる。その効果を無効にして破壊する』よ」
「ま、まさか……」
「そのまさか、ね。悪いけど『炎獣イグニ』は破壊させてもらったわ」
厄介だったから、とメリルさんが言葉を付け足す。
それを聞きながら、僕は力いっぱいに歯を食いしばった。
(まさか、あのカードにそんな効果があったなんて……)
悔しい。
とても、悔しい。
そんな気持ちが溢れた僕は、そこでふとあることを思った。
(クロハル君は……クロハル君ならあのカードの効果も知ってたのかな……?)
今は外で頑張っているクロハル君。
『キング オブ マスターズ』が強いだけじゃなく、色々なカードまでも知っている僕の友達。
そんなクロハル君ならば、あのカードのことも知っていたのだろうか。
そう考えた僕は、ゆっくりと下に向けていた顔を上げて、メリルさんを見た。
(本当に、強い……強いよ……)
クロハル君は、とても強いマスターだ。
そして、今、僕と戦っているメリルさんは、本当は、クロハル君とバトルをしようとしていた。
その意味を、少しだけ。
今になって、ようやく僕もわかったような気がした。
(こんな……こんなに頑張ったのに……)
強いユニットを出して。
いっぱい攻撃して。
あんまり使ったことのないスペルカードも使って。
僕のエースである『炎獣イグニ』さえも出した。
僕は、全力で僕にできることをやった。
これ以上、何もできないんじゃないか、と思うくらいにやった。
でも。
でも、そんな僕の実力は。
――今バトルをしているメリルさんに対して、まるっきり通用しなかった。
「ねぇ、もう終わりなの?」
「っ!」
ハッ、とメリルさんのその声で我に返る。
そして、今の状況を何とか思い出した。
(そうだ、攻撃しないと……)
「ぼ、僕は『ファイヤーボーイ・ゲキ』で『マリリン・マリネル』に攻撃!」
「くっ!」
『ファイヤーボーイ・ゲキ』
アタック1/ライフ1→アタック1/ライフ0
『マリリン・マリネル』
アタック1/ライフ1→アタック1/ライフ0
『ファイヤーボーイ・ゲキ』が『マリリン・マリネル』に攻撃し、ドロップゾーンへと送られる。
『火の拳マサル』は召喚したばかりで、攻撃することはできない。
僕はターンを終わらせることしか、できなかった。
「僕は……これで、ターンエンドだよ」
「そう、じゃあ私のターンね。ドロー!」
メリル
マナ0→6
手札6→7
マナが『6』になり、手札も一枚増える。
そこでメリルさんは、フッと息を吐いた。
「私は2マナを使って、手札から『無名の釣り人』を召喚!」
マナ6→4
手札7→6
『無名の釣り人』
アタック1/ライフ1
「さらに『無名の釣り人』の効果でドロップゾーンから『川流れのハッチ』をノーコスト召喚!」
『川流れのハッチ』
アタック1/ライフ1
『ガード』
「そして、コストを4減らして手札から2マナで『流制の水龍フェイ・ターク』を召喚するわ!」
マナ4→2
手札6→5
『流制の水龍フェイ・ターク』
アタック3/ライフ3
手札5→6
『流制の水龍フェイ・ターク』が召喚され、メリルさんがカードを1枚ドローする。
そんな相手の動きを見て、じっとりと、僕の頬に汗が流れた。
メリルさんのバトルゾーンには再び、五体のユニットが並んでしまった。
『水の妖精アリア』
アタック1/ライフ1
『無名の釣り人』
アタック1/ライフ1
『無名の釣り人』
アタック1/ライフ1
『川流れのハッチ』
アタック1/ライフ1
『ガード』
『流制の水龍フェイ・ターク』
アタック3/ライフ3
(だ、だけど、まだ僕のライフは16だから……)
まだ大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせる。
しかし。
やはり、メリルさんはそこで手を止めることはなかった。
「ここで私は手札からスペル『絆の力』を発動!」
メリルさんのスペルゾーンに一枚のカードが置かれ、光を放つ。
手札6→5
「このカードは自分のバトルゾーンにコスト3以下のユニットが3体以上いればノーコストで発動できる!」
「えっ?」
「カードを1枚ドローする。そして、このターン、私の全てのユニットはバトルゾーンにいるユニットの数だけアタックを+できるわ!」
「えっ!?」
そう言い終わると同時に、メリルさんのバトルゾーンにいたユニットたちが急に光に包まれた。
手札5→6
『水の妖精アリア』
アタック1→アタック6
『無名の釣り人』
アタック1→アタック6
『無名の釣り人』
アタック1→アタック6
『川流れのハッチ』
アタック1→アタック6
『流制の水龍フェイ・ターク』
アタック3→アタック8
「あ、アタック6!?」
『炎の導師マーズ』よりも高い数字だ。
あまりのアタックの高さに、背中がヒヤリと冷たくなる。
(い、一回だけなら攻撃されても耐えられる! けど……)
少しだけ。
相手の『流制の水龍フェイ・ターク』を見て、うっ、と声が出なくなる。
あのユニットがいるかぎり、僕のユニットは効果を使うことができない。
次に僕のターンが来ても、何かできるのだろうか。
そうやって、必死に考えようとした――その時だった。
「私は手札からもう一枚『絆の力』を発動するわ!」
「げっ!?」
メリルさんの手からもう一枚のスペルカードが発動される。
バトルゾーンにいたユニットたちをさらに強い光が包んだ。
手札6→5→6
『水の妖精アリア』
アタック6→アタック11
『無名の釣り人』
アタック6→アタック11
『無名の釣り人』
アタック6→アタック11
『川流れのハッチ』
アタック6→アタック11
『流制の水龍フェイ・ターク』
アタック8→アタック13
「あ……あ……」
見たこともないような数字に、僕の体が震える。
キッ、と睨むように僕を見たメリルさんは、鋭く右手を振るった。
「これでトドメよ! 私は『水の妖精アリア』と『無名の釣り人』で攻撃! 喰らいなさい! ダブルスプラッシュ!」
「……っ!」
水が舞い上がり、激しい流れが相手の『水の妖精アリア』と『無名の釣り人』から放たれる。
その激流は、僕のバトルゾーンにいたユニットたちを押し流すと、そのまま僕のところに向かって来る。
その直前に。
僕の目にメリルさんのある数字が映った。
大水の激流が、僕の体を包むように飲み込む。
重い衝撃が打ち付けられて、その激しさに思わず息ができなくなる。
そんな僕の目に焼き付いた最後の数字。
それは、
――『20』という数字だった。
『水の妖精アリア』
アタック11
『無名の釣り人』
アタック11
アルス
ライフ20→0
2022/7/30 大幅に色々と修正しました。
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