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『キング オブ マスターズ』  作者: 大和大和
~スタートカラーズ・セットアップ~
18/70

第18話 流れを制する力





「僕のターン、ドロー!」


 アルス

 マナ0→5

 手札2→3


 めくったカードを手札に加える。

 それから、僕は相手のバトルゾーンに目を向けた。


 『マリリン・マリネル』

 アタック1/ライフ1


 『水の妖精アリア』

 アタック1/ライフ1


 『無名の釣り人』

 アタック1/ライフ1


 『川流れのハッチ』

 アタック1/ライフ1

 『ガード』


 『流制の水龍フェイ・ターク』

 アタック3/ライフ3


(『ガード』を持ってるユニットは一体だけ……)


 何もしてこなかった『流制の水龍フェイ・ターク』が少しだけ怖い。

 けど、


 『炎獣イグニ』

 アタック7/ライフ2


 『炎の導師マーズ』

 アタック5/ライフ3


(僕のユニットの方が、強い! ……よね)


 数は負けている。

 でも、アタックなら負けていない。

 そんな自分のバトルゾーンを見て、僕はグッと手を握り締めた。


(とりあえず……)

「僕は手札から1マナずつ使って、『火の拳マサル』と『ファイヤーボーイ・ゲキ』を召喚!」


 マナ5→3

 手札3→1


 『火の拳マサル』

 アタック1/ライフ1


 『ファイヤーボーイ・ゲキ』

 アタック1/ライフ1


「そして……」


 チラリ、と『炎獣イグニ』に目を向ける。

 そこには、口から炎をこぼす、たくましい獅子が構えていた。

 僕にできるのは、攻撃することだけ。

 ならば、


(大丈夫、いける!)

「攻撃だ! まずは『炎の導師マーズ』で『川流れのハッチ』を攻撃!」


 僕の指示を受けて、『炎の導師マーズ』が本をページをめくり、右手を『川流れのハッチ』に向かって突き出す。

 すると、その手から炎の玉が一直線に飛んで行った。


 『炎の導師マーズ』

 アタック5/ライフ3→アタック5/ライフ2


 『川流れのハッチ』

 アタック1/ライフ1→アタック1/ライフ0


「へぇ……」

「これで『ガード』はできない! 今度は『炎獣イグニ』で相手のライフに攻撃! 攻撃する時の効果で僕は『流制の水龍フェイ・ターク』に5ダメージを与える! いっけぇ! ロア・フレイム!」


 構えた『炎獣イグニ』が口の中に炎を溢れさせる。

 そして、その溢れた炎を吐き出すように爆発させようと――







「その時を待ってたわ!」

「っ!」







 突然、メリルさんが大きな声を出す。

 いきなりのことに、驚いた僕の体がビクンと跳ねる。

 しかし、そんな僕を余所に。

 メリルさんは大声で言葉を続けた。


「私は『炎獣イグニ』が効果を発動する時に、『流制の水龍フェイ・ターク』の効果を発動するわ!」

「えっ?」


 初めてやられた発動の仕方に、頭が追い付かなくなる。

 けれども。

 そんな僕の目の前で、『流制の水龍フェイ・ターク』は静かに頭を下げると、急にその体が透明な水の泡に包まれた。

 そして、泡が弾けたその瞬間、




 『炎獣イグニ』が口の中で燃えていた炎を吐き出すことなく爆発させた。




「なっ!?」


 吐き出すことなく爆発させたせいで、『炎獣イグニ』が激しい爆炎の中に飲み込まれてしまう。


「イ、グニ……?」


 ゆっくりと、黒い煙が晴れていく。

 段々と、『炎獣イグニ』が立っていたバトルゾーンが見えていく。

 でも、


「イグニ……?」


 煙が弱まり、僕のバトルゾーンがうっすらと見えるようになった。

 『炎の導師マーズ』や『火の拳マサル』、『ファイヤーボーイ・ゲキ』が黒い煙を払いながらそれぞれの場所に現れる。

 やがて、煙が晴れて、バトルゾーンが明るくなった。

 しかし、


「そ、そんな……!」


 晴れ渡った僕のバトルゾーン。

 そんな何も代り映えのないフィールドから――『炎獣イグニ』の姿だけがすっぽりとなくなっていた。


(ど、どうしてっ!?)


 『炎獣イグニ』のいた場所だけが、綺麗さっぱりとガラ空きになっている。

 目をあちらこちらと動かして。

 そこで僕は、メリルさんのバトルゾーンから『流制の水龍フェイ・ターク』がいなくなっていることに気付いた。


 そのことに、メリルさんも気付いたらしい。

 メリルさんは、僕を見てフフッと笑った。




「『流制の水龍フェイ・ターク』の効果。それは――『相手のバトルゾーンにいるユニットが効果を発動する時、自分のバトルゾーンにいるこのユニットをデッキの上に置いて発動できる。その効果を無効にして破壊する』よ」

「ま、まさか……」

「そのまさか、ね。悪いけど『炎獣イグニ』は破壊させてもらったわ」


 厄介だったから、とメリルさんが言葉を付け足す。

 それを聞きながら、僕は力いっぱいに歯を食いしばった。


(まさか、あのカードにそんな効果があったなんて……)


 悔しい。

 とても、悔しい。

 そんな気持ちが溢れた僕は、そこでふとあることを思った。


(クロハル君は……クロハル君ならあのカードの効果も知ってたのかな……?)


 今は外で頑張っているクロハル君。

 『キング オブ マスターズ』が強いだけじゃなく、色々なカードまでも知っている僕の友達。

 そんなクロハル君ならば、あのカードのことも知っていたのだろうか。

 そう考えた僕は、ゆっくりと下に向けていた顔を上げて、メリルさんを見た。


(本当に、強い……強いよ……)


 クロハル君は、とても強いマスターだ。

 そして、今、僕と戦っているメリルさんは、本当は、クロハル君とバトルをしようとしていた。

 その意味を、少しだけ。

 今になって、ようやく僕もわかったような気がした。


(こんな……こんなに頑張ったのに……)


 強いユニットを出して。


 いっぱい攻撃して。 


 あんまり使ったことのないスペルカードも使って。


 僕のエースである『炎獣イグニ』さえも出した。


 僕は、全力で僕にできることをやった。


 これ以上、何もできないんじゃないか、と思うくらいにやった。


 でも。


 でも、そんな僕の実力は。




 ――今バトルをしているメリルさんに対して、まるっきり通用しなかった。




「ねぇ、もう終わりなの?」

「っ!」


 ハッ、とメリルさんのその声で我に返る。

 そして、今の状況を何とか思い出した。


(そうだ、攻撃しないと……)

「ぼ、僕は『ファイヤーボーイ・ゲキ』で『マリリン・マリネル』に攻撃!」

「くっ!」


 『ファイヤーボーイ・ゲキ』

 アタック1/ライフ1→アタック1/ライフ0


 『マリリン・マリネル』

 アタック1/ライフ1→アタック1/ライフ0


 『ファイヤーボーイ・ゲキ』が『マリリン・マリネル』に攻撃し、ドロップゾーンへと送られる。

 『火の拳マサル』は召喚したばかりで、攻撃することはできない。

 僕はターンを終わらせることしか、できなかった。


「僕は……これで、ターンエンドだよ」

「そう、じゃあ私のターンね。ドロー!」


 メリル

 マナ0→6

 手札6→7


 マナが『6』になり、手札も一枚増える。

 そこでメリルさんは、フッと息を吐いた。


「私は2マナを使って、手札から『無名の釣り人』を召喚!」


 マナ6→4

 手札7→6


 『無名の釣り人』

 アタック1/ライフ1


「さらに『無名の釣り人』の効果でドロップゾーンから『川流れのハッチ』をノーコスト召喚!」


 『川流れのハッチ』

 アタック1/ライフ1

 『ガード』


「そして、コストを4減らして手札から2マナで『流制の水龍フェイ・ターク』を召喚するわ!」


 マナ4→2

 手札6→5


 『流制の水龍フェイ・ターク』

 アタック3/ライフ3


 手札5→6


 『流制の水龍フェイ・ターク』が召喚され、メリルさんがカードを1枚ドローする。

 そんな相手の動きを見て、じっとりと、僕の頬に汗が流れた。

 メリルさんのバトルゾーンには再び、五体のユニットが並んでしまった。


 『水の妖精アリア』

 アタック1/ライフ1


 『無名の釣り人』

 アタック1/ライフ1


 『無名の釣り人』

 アタック1/ライフ1


 『川流れのハッチ』

 アタック1/ライフ1

 『ガード』


 『流制の水龍フェイ・ターク』

 アタック3/ライフ3


(だ、だけど、まだ僕のライフは16だから……)


 まだ大丈夫だ。

 そう自分に言い聞かせる。

 しかし。

 やはり、メリルさんはそこで手を止めることはなかった。


「ここで私は手札からスペル『絆の力』を発動!」


 メリルさんのスペルゾーンに一枚のカードが置かれ、光を放つ。


 手札6→5


「このカードは自分のバトルゾーンにコスト3以下のユニットが3体以上いればノーコストで発動できる!」

「えっ?」

「カードを1枚ドローする。そして、このターン、私の全てのユニットはバトルゾーンにいるユニットの数だけアタックを+できるわ!」

「えっ!?」


 そう言い終わると同時に、メリルさんのバトルゾーンにいたユニットたちが急に光に包まれた。


 手札5→6


 『水の妖精アリア』

 アタック1→アタック6


 『無名の釣り人』

 アタック1→アタック6


 『無名の釣り人』

 アタック1→アタック6


 『川流れのハッチ』

 アタック1→アタック6


 『流制の水龍フェイ・ターク』

 アタック3→アタック8


「あ、アタック6!?」


 『炎の導師マーズ』よりも高い数字だ。

 あまりのアタックの高さに、背中がヒヤリと冷たくなる。


(い、一回だけなら攻撃されても耐えられる! けど……)


 少しだけ。

 相手の『流制の水龍フェイ・ターク』を見て、うっ、と声が出なくなる。

 あのユニットがいるかぎり、僕のユニットは効果を使うことができない。

 次に僕のターンが来ても、何かできるのだろうか。

 そうやって、必死に考えようとした――その時だった。


「私は手札からもう一枚『絆の力』を発動するわ!」

「げっ!?」


 メリルさんの手からもう一枚のスペルカードが発動される。

 バトルゾーンにいたユニットたちをさらに強い光が包んだ。


 手札6→5→6


 『水の妖精アリア』

 アタック6→アタック11


 『無名の釣り人』

 アタック6→アタック11


 『無名の釣り人』

 アタック6→アタック11


 『川流れのハッチ』

 アタック6→アタック11


 『流制の水龍フェイ・ターク』

 アタック8→アタック13


「あ……あ……」


 見たこともないような数字に、僕の体が震える。

 キッ、と睨むように僕を見たメリルさんは、鋭く右手を振るった。


「これでトドメよ! 私は『水の妖精アリア』と『無名の釣り人』で攻撃! 喰らいなさい! ダブルスプラッシュ!」

「……っ!」


 水が舞い上がり、激しい流れが相手の『水の妖精アリア』と『無名の釣り人』から放たれる。

 その激流は、僕のバトルゾーンにいたユニットたちを押し流すと、そのまま僕のところに向かって来る。

 その直前に。

 僕の目にメリルさんのある数字が映った。

 大水の激流が、僕の体を包むように飲み込む。

 重い衝撃が打ち付けられて、その激しさに思わず息ができなくなる。

 そんな僕の目に焼き付いた最後の数字。

 それは、




 ――『20』という数字だった。




 『水の妖精アリア』

 アタック11


 『無名の釣り人』

 アタック11


 アルス

 ライフ20→0





2022/7/30 大幅に色々と修正しました。


評価や感想、誤字脱字や要望などありましたらよろしくお願いします!

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