第13話 デッキの改良と意外なルール
異世界に来て、そこそこの時間が経った。
この世界には俺の知っているファンタジーとかとは違い、ギルドとかがない。
なので、お金は他人とのバトルで入手するしかないのでそうしている。
目と目が合ったら即バトル。
勝ったらお金、ゲットだぜ。
言っておくと、カツアゲとかはしてないからな。
カツアゲ、オヤジ狩り。
ダメ、絶対。
「ねえねえ、クロハル君」
「ん?」
そんなある日のこと。
いつものように入り浸っている『カードオフ』の片隅。
そこでレオさんから貰ったパックを開封していた俺の元にアルスがやってきた。
え、何、強奪したの間違いじゃないかって?
勝てば官軍負ければ賊軍、という言葉があってだな。
「何か良いの出た?」
「いや、微妙……んん?」
パックの中に見覚えのあるカードがあった。
それを束の中から抜き取り、ジッと見つめた俺はそれが何であるかに気付いた。
「マジか! やった!」
「え、なになに!? 僕にも見せてよ!」
まさかコイツが既にパックで発売されていたなんて!
一気に気分の上がった俺はすぐにデッキを取り出すと、素早くデッキの改良を始める。
そんな中、俺の隣に来たアルスは、取り分けたカードの内、一枚のカードを手にした。
「『欲望の対価』……もしかしてクロハル君が当てたのってこれ?」
「あぁ」
『欲望の対価』
コスト1/闇属性/スペル
カードを1枚ドローしてから自分の手札を1枚捨てる。その後、自分のライフに2ダメージ与える。
俺の当てたカードを見て、不思議そうに首を傾げる。
おそらく、こいつの良さがわからないのだろう。
確かに。
一見するとデメリットの大きいカードにしか見えない。
だが、このカードは俺のような闇属性デッキを使う者にとって必須に近いようなカードだ。
というより、当時の頃は『不等価交換』と並んで当たり前のように使われていたカードだった。
「あとはこいつも入れて、っと……よしできた」
これでまた一つ。
俺のデッキは強くなった。
この嬉しさがどうやらアルスにも伝わったらしい。
シャカパチとシャッフルを終えたアルスは、すでにデッキを置いて準備していた。
「ねえ、クロハル君クロハル君。バトルしようよ!」
「バトルか……そうだな。いいよ、やろう」
実は、アルスとのバトルが久しぶりだったりする。
その理由は簡単だ。
俺が主に子供たちや店員のレオさんとバトルしたり、街中で戦闘狂になったりしていたからだ。
当然、一回もやらなかったわけではない。
けれども、めっきりとバトルする回数が減っていたのは確かだった。
「よしじゃあ、行くぞ!」
「うん!」
☆☆☆
バトルは進み、時は総合の四ターン目。
後攻の二ターン目を迎えたアルスがカードをドローし、手札を増やす。
しかし、ダラダラと冷や汗を流しつつバトルゾーンを見下ろしていた。
ちなみに、この世界にもありました。
じゃんけん。
「ね、ねえ、クロハル君……?」
「どうした? 何かあったか?」
何かおかしなことでもやっただろうか。
アルスにならって、俺も自分のバトルゾーンに目を向ける。
『スターヴ・ゴースト』
アタック3/ライフ3
『スターヴ・ゴースト』
アタック3・ライフ3
うん。
おかしなところはないな。
「これ僕どうすればいいの!?」
「さあ? 笑えばいいんじゃないか?」
「笑えないよこんなの!?」
俺のバトルゾーンに並んだ『スターヴ・ゴースト』兄弟を見ながらアルスが叫ぶ。
内訳は、一体は『欲望の対価』の効果を使って召喚し、もう一体は『苦痛の一撃』の効果を使って召喚した。
やはり2ダメージのカードは優秀で困っちゃうな。
「いや、でも、アルスのライフはまだ17じゃん。大丈夫だろ」
「このままじゃあクロハル君のベルギアで一気にやられちゃうんだよっ! 全然だいじょばないよ!」
よくわかってらっしゃる。
今の俺のライフは削りに削ったので14にまで減っている。
手札が良ければもう少しライフを削ることができたのだが、これでも十分早い方だろう。
「うわーん! 『マグマグスライム』と『火の拳マサル』を召喚してターンエンドだよぉ!」
「そっか。じゃあ、俺のターンだな」
カードを一枚ドローする。
それを手札に加え、動こうとした俺はふとあることが気になった。
「ちょっと、デッキの下を見るわ」
「……え?」
勘違いされないよう、一言断ってからデッキに手を掛ける。
そして、それを持ち上げ、一番下にあるカードを確認した俺はデッキを元の場所に戻した。
(『不等価交換』か。……一番下にあったのかよ)
どうりで手札に来なかったわけだ。
と、一人納得していた俺だったが、アルスはひどく驚いた様子で口を開いた。
「デッキの下って見れるの?」
「そうだけど。……あれ、アルスは知らないっけ?」
「僕知らないよ!?」
そうだったのか。
どうやら説明することを忘れていたらしい。
アルスに一言謝った俺は、このことについて説明することにした。
カードゲームにはプレイヤーが見ることのできる場所というのがいくつかある。
それは主に『自分のフィールド』。
『相手のフィールド』。
『自分の墓地』。
『相手の墓地』だ。
無論、相手の場所を見る時は、余計なトラブルが起きないようにしっかりと断る必要がある。
だが、キングオブマスターズにはそこにもう一つ、見える場所が増える。
それが――『自分のデッキの一番下』だ。
これは何故か、というと。
ただ単純に、カードの効果の中に『デッキの一番下』に関係する効果がある。
だから、ルールで見れるようにした、というだけのことだ。
そのことを俺はアルスに説明した。
「ま、今は俺もそんなカードは持ってないけどな」
「そうなんだ!」
すごい、と嬉しそうに話したアルスは早速、デッキを持ち上げてその一番下にあるカードを見た。
「僕の一番下にあったのは『火炎少女エリナ』だったよ!」
「いや、別に言う必要はないんだが……」
「あ、そうなの?」
「そうなんだよ」
いちいち相手に手の内を言いふらすんじゃない。
それでも、新しいことを知ったアルスは、随分と嬉しそうだった。
2022/7/30 色々と修正しました。
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