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『キング オブ マスターズ』  作者: 大和大和
~スタートカラーズ・セットアップ~
12/70

第12話 楽しいバトル日和





 無事に過ぎ去った一晩。

 朝になり、「少し歩いてくる」とアルスに告げた俺は、一人でシトラシティに繰り出していた。


(そういや昨日、レオさんは『何かを賭けたバトルは当たり前』だとか何とか言ってたよな)


 道を歩く人々。

 その間を歩きながら思い返すは、昨日のカードショップでの出来事。


(もしそのことが本当であれば…………いけるか?)


 俺が思いついたこと。

 それは、




 ――物同士を賭けたバトルだ。




 俺には充電の切れたスマホや安物の財布がある。

 ティッシュやハンカチもあり、それでもダメなら自分のデッキでも差し出せばいい。

 取引する材料には困っていない。


(とにかく、何もやらなきゃ始まらねぇ)


 失うモノは何もない。

 いや、デッキはなくなると流石に困るが、それでも、背に腹は変えられない。


(とりあえずバトルだ! 俺は、今日から、戦闘狂(バトルジャンキー)になる!)


 ケースからデッキを取り出す。

 必要なモノは、自力で手に入れる。

 今の俺にはこの世界の常識に賭けるしか道が残されていない。


「…………よし」


 意は決した。

 すでに(さい)は投げられている。

 覚悟を決めた俺は、目の前を行こうとした青年っぽい人に話しかけた。




「おい、バトルしろよ」




 ☆☆☆




「はぁ、疲れた」


 あれから、何人もの相手にバトルを仕掛けた俺は、一息つくために街中の適当なベンチに座っていた。


(意外と良い人が多かったな……)


 問答無用――ではなく、多少訳ありであることを説明しながらバトルした。

 すると、お金を賭けてくれる人が意外にも多かったのである。

 もちろん、多額の金は要求していない。

 いっても千円から三千円くらいの、


(いや、円じゃないんだったな。何だっけ……あっ、ルーツだ、ルーツ)


 円じゃなくてルーツだった。

 俺のバトルした人たちは千ルーツから三千ルーツくらいのお金をくれる優しい人ばかりだった。

 ありがてぇ。

 人情の温かさが染みに染みて泣きそうだ。


(このお金は大事に使おう)


 貰ったお金はすでに財布の中に入れてある。

 そう決心した俺は、暖かい陽射しに手をかざしながらアルスのいる宿へと帰った。




 ☆☆☆




 借りた分はしっかり返す。

 遠慮するアルスに自分の分の宿代を押し付けた俺は早速、昨日のカードショップ――『カードオフ』へと来ていた。


「こんにちは」

「こんにちはー!」

「お、いらっしゃい」


 今日も元気に子供たちが賑わっている。

 レオさんの『か~どおふ』と書かれたエプロンも似合ってる。

 店内に入り、いつもの場所にいたレオさんに挨拶した俺はぐるっと周囲を見回した。


「凄いですね。子供たちがたくさんいますよ」

「そりゃあね。この街のカードショップはここしかないからね」

「なるほど……」


 そりゃあそうなるよ。

 相変わらずテーブルはほぼ満席。

 お客である子供たちは皆が皆、楽しそうにバトルに勤しんでいる。

 ちなみに、アルスは挨拶を終わらせた途端に手の空いた子供たちにバトルを挑みに行った。

 早すぎなんだよなぁ。


「アルス君は元気だね。ほら、もうバトルを始めてるよ」

「みたいですね」


 「バトルスタート!」なんて声がこっちまで聞こえて来た。

 心の底から楽しんでいるようで何よりだ。


「じゃあ俺も誰かとバトルしてきますよ」

「そうかい。それは楽しみだ。今日も面白いバトルをよろしくね?」

「まあ、善処します。はい」


 あまり過度な期待はしないで欲しい。

 なんたって今の俺は『ベルギアワンキル』しかないのだ。

 それ以外は大したことができないし、したくてもできない。

 もう少しカードが増えれば話は別なんだけどな。

 なんてことを思いつつ、俺は丁度バトルが終わったらしい子供たちの所に向かった。


「おい、バトルしろよ」

「えっ? あ、レオ兄ちゃんとバトルしてた人だ! いいよ! やろうぜ!」


 チョロい。

 勝負を引き受けた少年が急いでデッキをまとめている。

 俺はさっきまでバトルしていたもう一人の少年に軽く謝って席を空けてもらう。


「どうだ、準備はできたか?」

「できたぜ! 早くやろう!」


 椅子に座り、念の為にデッキを小分けにしてからシャッフルをする。

 こうするとよくデッキのカードが混ざる、と聞いたことがある。

 流石に子供たち相手に『ベルギアワンキル』を決めるのは、まずいだろう。

 さて、ワンキルなしでどう戦おうか。

 手札を交換した俺は、先行を少年に譲ることにした。


「そっちから来な」

「わかった! 負け―ねからな!」


 こうして、周りに集まった小さな観衆の中で、俺と少年のバトルは始まった。




 ☆☆☆




 ちょうど、六ターン目。

 つまり、後攻である俺の三ターン目が終わった。

 状況はそれぞれ次のようになっていた。


 少年

 ライフ15

 2マナ

 手札4枚

 バトルゾーン――『マグマグスライム』『マグマグスライム』

 スペルゾーン――カードなし

 ドロップゾーン1枚


 俺

 ライフ15

 0マナ

 手札2枚

 バトルゾーン――『ダークシャドウ』『ブラックヴォルフ』

 スペルゾーン――カードなし

 ドロップゾーン5枚


(思ったより拮抗してんな)


 というより、相手の出してくるカードが弱い。

 と、言ってしまうべきか。

 さっきから召喚されるカードはコスト1のユニットばかり。

 もしかしたら、この少年もまだ始めたばかりなのかもしれない。

 だが、次は少年のターンだ。

 何か驚くようなことをしてくるかもしれない。

 俺は期待に胸を膨らませた。


「俺のターン、ドロー!」


 少年

 マナ2→4

 手札4→5


 デッキからカードを一枚引く。

 手札が五枚に増え、マナも4マナになった少年は、手札から二枚のカードをつかみ取った。


「俺は2マナずつ使って『火炎のメーラ』を二体召喚だ!」

「なるほど」


 少年のバトルゾーンに、髪が炎になっている女性の描かれたカードが二枚も並ぶ。

 これによって、少年のバトルゾーンはユニットが四体になった。


 マナ4→0

 手札5→3


 『火炎のメーラ』

 コスト2/火属性/アタック1/ライフ1

 『速攻』


(低コストのユニットだけど……流石に並べられると圧があるな)


 やはり、ゲームでも現実でもモノを言うのは数ということか。


「よし、俺は『マグマグスライム』たちと二体の『火炎のメーラ』でクロハル兄ちゃんに攻撃だ!」

「やるじゃない」


 『マグマグスライム』

 アタック1


 『マグマグスライム』

 アタック1


 『火炎のメーラ』

 アタック1


 『火炎のメーラ』

 アタック1


 クロハル

 ライフ15→11


 少年の総攻撃を受け、俺のライフが11になる。

 一気に四ダメージも与えてきた。

 あと1ダメージで、闇属性の本領を発揮できる。

 そのことは少年も理解できているのか、いささか顔が強張(こわば)っているように見えた。


「ターン、エンド!」

「はい、俺のターン。ドロー」


 クロハル

 マナ0→4

 手札2→3


 マナが四つに増え、ドローしたことで手札も3枚に増える。

 そして、俺はマナを三つ使い、手札から一枚のカードをスペルゾーンに出した。


「すまんな。俺は3マナを使い、スペル『闇の放出』を発動だ」


 マナ4→1

 手札3→2


 『闇の放出』

 コスト3/闇属性

 全てのユニットに2ダメージ与える。

 自分のライフに1ダメージ与える。


「え、な、なんだそれ!?」

「全てのユニットに2ダメージ。ってわけで、相手のユニットも俺のユニットも全部さよならだ」

「そんなぁ!?」


 『マグマグスライム』

 ライフ1→0


 『マグマグスライム』

 ライフ1→0


 『火炎のメーラ』

 ライフ1→0


 『火炎のメーラ』

 ライフ1→0


 『ダークシャドウ』

 ライフ1→0


 『ブラックヴォルフ』

 ライフ1→0


 クロハル

 ライフ11→10


 少年がカードの効果に頭を抱える。

 これで俺のライフは10になったが、お互いのバトルゾーンはガラ空き。


(これは、まあ、俺の勝ちかな)


 ピンチになった闇属性は強い。

 それを実行すべく、俺は展開を続けることにした。


 結局、俺はそのバトルでも勝利を決めたのだった。




2022/7/30 少しだけ修正しました。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] カードショップてモプ少年のバトルはなにも特別なところはない、もしただの「現地人のレベル」説明したいなら、このバトルは前の「金かせ」に移るの方がいい。
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