第10話 思わぬ激闘
「僕のターン、ドロー!」
アルス
マナ0→3
手札3→4
アルスの手札が三枚から四枚に増える。
「やった! 来た! 僕は3マナを使って『火炎少女エリナ』を召喚するよ!」
「はぁ!?」
ちょっと待て。
それは話が違う。
(どんな引きしてんだよコイツ!?)
やばい、動揺し過ぎて吐きそう。
そんな俺を余所に、アルスは『火炎少女エリナ』をバトルゾーンに置いた。
マナ3→0
手札4→3
『火炎少女エリナ』
コスト3/火属性/アタック2/ライフ2
【効果】
①このユニットがバトルゾーンにいるかぎり、自分のバトルゾーンにいる他の火属性ユニットのアタックを+2する。
②このユニットがバトルする時に発動できる。代わりに自分ユニット1体とバトルさせる。
「これで『火炎少女エリナ』の効果が使えるから……僕の『ファイヤーボーイ・ゲキ』と『マグマグスライム』のアタックは2増えて皆アタックが3になるよ!」
『ファイヤーボーイ・ゲキ』
アタック1→アタック3
『マグマグスライム』
アタック1→アタック3
「マジか」
じわり、と俺の手が汗でにじむ。
(大丈夫、大丈夫。まだ死なないから落ち着け俺!)
逸る心を抑え、必死に思考を落ち着かせる。
まだ三ターン目とは思えないような窮地だが、幸いなことに俺の手札には『苦鳴の龍ベルギア』がある。
闇属性にはこんな状況でも入れる保険……ではなく、打破できるカードもある。
諦めるにはまだ早い。
「行っけぇ! 僕は『ファイヤーボーイ・ゲキ』と『マグマグスライム』で攻撃!」
「くっ」
『ファイヤーボーイ・ゲキ』
アタック3
『マグマグスライム』
アタック3
クロハル
ライフ17→11
アルスの総攻撃。
17もあった俺のライフが一気に11まで減る。
「あともう少しで僕の勝ちだね! ターンエンド!」
「それはどうだろうな。俺の、ターン」
クロハル
マナ0→3
俺のターンになり、ようやくマナが三つに増えた。
来てくれ。
頼む。
「ドロー!」
手札4→5
デッキに手を掛け、あるカードを想いながら一枚めくった。
来い、奇跡のカード!
(いやぁー! お前じゃないんだよなぁ!)
よりによって。
俺のドローしたカードは、思っていたのとは違うカード――『ダークシャドウ』だった。
仕方ない。
迫る敗北に心を挟まれつつも、俺は最善の手を打つことにした。
「俺はまず、手札にある『漆黒のダースデーモン』の効果を発動する!」
『漆黒のダースデーモン』
コスト5/闇属性/アタック2/ライフ3
【効果】
『ガード』
①このユニットが手札にあれば1ターンに1度だけ、自分のライフに2ダメージ与えて発動できる。そのターンのエンド時までこのユニットの召喚コストを2減らし、アタックとライフを+2する。
②このユニットがバトルで相手ユニットを破壊した時に発動する。相手のライフに2ダメージ与える。
「俺は自分のライフに2ダメージを与え、こいつを3マナで召喚する!」
「何それ!?」
クロハル
ライフ11→9
マナ3→0
手札5→4
すごい、と初めて見るカードに興奮するアルス。
しかし、今の俺にはその気持ちに答えられるだけの余裕はなかった。
「さらに、この効果でバトルゾーンに出た『漆黒のダースデーモン』は色々とパワーアップする!」
『漆黒のダースデーモン』
アタック2/ライフ3→アタック4/ライフ5
「よくわかんないけどすごい! ……けど『ガード』ってなに?」
「それは後で説明するよ」
どうせすぐにわかることだからな。
赤目の黒い姿をした悪魔ようなユニットを手札からバトルゾーンに出す。
それから、俺は手札をテーブルに置くと、今度はドロップゾーンに手を伸ばした。
「今ので俺のライフは『9』になった。よって、俺はドロップゾーンにいるユニット『暗黒貴族フェルニケ』の効果を発動する!」
「えぇ、そこから!?」
何もかもが初めてなアルスは終始驚きっぱなしだ。
疲れないのかな。
そんなどうでもいいことを思いつつ。
俺はドロップゾーンから、派手な服に身を包んだ白髪の男が描かれたカードをバトルゾーンに出した。
『暗黒貴族フェルニケ』
コスト5/闇属性/アタック2/ライフ4
【効果】
『ガード』
①自分のライフが10以下であれば1ターンに1度だけ発動できる。このユニットをドロップゾーンからノーコスト召喚する。
②このユニットがバトルゾーンに出た時に発動できる。相手ユニット1体を選んで3ダメージ与える。
「俺は今バトルゾーンに出した『暗黒貴族フェルニケ』の効果を発動。こいつはバトルゾーンに出た時に相手ユニット1体に3ダメージを与えることができる。さあ、『火炎少女エリナ』に3ダメージだ!」
『火炎少女エリナ』
ライフ2→0
「うわっ、やられたっ!」
してやられたアルスが悔しそうな表情を浮かべる。
アルスのバトルゾーンから『火炎少女エリナ』が姿を消した。
これで相手の攻撃力も落ちたことだし、一気にライフを削られることはなくなっただろう。
「これで俺はターンエンド。アルスのターンだ」
「う、うん。僕のターン、ドロー!」
アルス
マナ0→4
手札3→4
少し気落ちしたらしいアルスがカードを引く。
そして、手札から一枚のカードをバトルゾーンに出した。
「僕は4マナを使って『瞬撃のバルサ』を召喚!」
マナ4→0
手札4→3
『瞬撃のバルサ』
アタック2/ライフ2
『速攻』
「そして、『ファイヤーボーイ・ゲキ』と『マグマグスライム』と『瞬撃のバルサ』でクロハル君に攻撃するよ!」
見たことがないカードが出てもなお、攻撃してくるとは。
中々に肝が座っている。
そんなアルスに向かって、俺は言い放った。
「そうか。ならば俺は――『ガード』を宣言する!」
「が、ガード?」
「あぁ」
俺は『漆黒のダースデーモン』のカードに指を乗せると、それをスッと流れるように横向きにした。
「『ガード』を持ったユニットはこうやって横向きにすることで、相手の攻撃を一回だけ代わりに受けてくれるんだ」
「へぇ、そうなんだ! じゃあ、もうクロハル君は『ガード』が使えないってこと?」
「いや、俺のバトルゾーンには『ガード』を持ったユニットが二体いるから二回受けれるぞ」
「えぇえっ!?」
ちょっと難しかっただろうか。
俺はアルスに『ガード』の流れについて、もう少しだけ説明することにした。
「まず、俺は『瞬撃のバルサ』の攻撃を『漆黒のダースデーモン』で『ガード』する。そうすると、俺がダメージを受ける代わりに『漆黒のダースデーモン』がアルスの『瞬撃のバルサ』とバトルしてくれる、というわけだ」
「そうなんだ」
「バトルはさっき教えたよな?」
「うん、ばっちり覚えてるよ! えっと、『瞬撃のバルサ』のライフが2で、『漆黒のダースデーモン』のアタックが2だっけ?」
「効果を使って召喚したから今は4だな」
「4か! だったら……あっ、バルサの負けだ」
残念だったな。
バトルに負け、ライフのなくなった『瞬撃のバルサ』をドロップゾーンに送らせる。
ついでに、『漆黒のダースデーモン』の効果を使い、アルスのライフに2ダメージを与えた。
『瞬撃のバルサ』
アタック2/ライフ2→アタック2/ライフ0
『漆黒のダースデーモン』
アタック4/ライフ5→アタック4/ライフ3
アルス
ライフ20→18
「さて、次は『暗黒貴族フェルニケ』のガードだな。ガードするのは『マグマグスライム』の攻撃だ」
「うっ」
『漆黒のダースデーモン』のガードを終えた俺は、その隣にあった『暗黒貴族フェルニケ』に触れる。
そして、それをスッと滑るように横向きにした。
『マグマグスライム』
アタック1/ライフ1→アタック3/ライフ0
『暗黒貴族フェルニケ』
アタック2/ライフ4→アタック2/ライフ1
「『マグマグスライム』はバトルする時にアタックが2増える。けど、少し届かなかったな」
「ああー! 僕の『マグマグスライム』がー!」
バトルに負け、ライフが0になった『マグマグスライム』も後を追うようにドロップゾーンへと送られた。
その結果、残ったのは『ファイヤーボーイ・ゲキ』だけ。
その攻撃によって、俺のライフは9から8になった。
「他にも何かあるか?」
「ううん、攻撃しちゃったからこれでターンエンドだよ」
「なら、俺のターン、ドロッ」
クロハル
マナ0→4
手札4→5
横向きになったカードは、自分のターンの始めに縦向きに戻す。
これでようやく俺のマナも4になった。
残りのライフも10以下。
反撃するには十分だ。
いや、十分すぎる。
「俺は『苦鳴の龍ベルギア』の効果を使い、3マナを使って『苦鳴の龍ベルギア』を召喚する!」
「うわわっ」
マナ4→1
手札5→4
『苦鳴の龍ベルギア』
コスト6/闇属性/アタック4/ライフ4
【効果】
①このユニットは自分のライフが10以下であれば召喚コストを3減らして召喚できる。
②このユニットがバトルゾーンに出た時、または、自分のライフにダメージを受けた時に発動できる。相手のライフと全ての相手ユニットに3ダメージ与える。
『ファイヤーボーイ・ゲキ』
ライフ1→0
アルス
ライフ18→15
俺のエースである『苦鳴の龍ベルギア』がバトルゾーンに登場し、残っていた『ファイヤーボーイ・ゲキ』を効果で消し飛ばす。
ライフが18から15に減ったアルスは、苦しそうな表情を浮かべた。
「それからアタックフェイズ。俺は『漆黒のダースデーモン』と『暗黒貴族フェルニケ』で相手に攻撃する」
「うえっ!?」
『漆黒のダースデーモン』
アタック4
『暗黒貴族フェルニケ』
アタック2
アルス
ライフ15→9
俺のユニットの総攻撃。
アルスのライフは15から9に。
バトルが始まってから四回目の後攻である八ターン目。
ついに俺とアルスのライフの差が縮まった。
(やっと追い付いた……)
正直、そのままの勢いで轢き殺されるかと思っていた。
というよりも異常だったのはアルスの引きだ。
あれをやられた時はちょっとばかり俺の頭が狂い掛けたぞ。
ようやく胸を撫で下ろし、一山超えたと安堵した俺はターンを終了させた。
2022/7/30 大幅に色々と修正しました。
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