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お手伝いロボットを買う話  作者: さまっち
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第5話 セルフのお手伝い

「とりあえずこのでかい箱を片付けてしまおう。セルフは反対側を持ってくれるか」

「かしこまりました」

 父が棺桶のような箱の端に手をかけて、セルフが反対側に回るのを待ち、二人はよいしょと箱を持ち上げた。

「このまま庭まで持っていくぞ。後日、粗大ごみとして出せばいいだろう」

「かしこまりました」

 父たちが居間をゆっくり移動して出ていくのを、僕と母はセルフが気になり後ろからついていく。

 廊下を歩き、玄関まで来て僕らは靴を履き、広い庭の出口付近まで箱を運んでから下におろした。


「この辺に運んでおけば大丈夫だろう。ありがとうセルフ」

「どういたしまして」

 僕たちが居間に戻ると、母が嬉しそうにセルフに告げる。

「それじゃ早速お掃除をお願いしようかしら」

「かしこまりました。お掃除は得意です。掃除機がけでも、雑巾がけでも、何なりとお申し付けください」

「それじゃ掃除機を取って来るわね」

 母が掃除機を取りに行こうとする前に、セルフが呼び止めて告げた。


「お待ちください。奥様。セルフが自分で取りに行きます。場所を教えてください」

 それを聞いた母が薄く微笑んで、上機嫌に告げる。

「働きものね。いいわ、こっちよセルフ。ついてきて頂戴」

 セルフが母の後について歩き、さらにその後を僕と父が続いて掃除機が収納されている、ふすまの前まで来て母が言った。

「ここよ。開けてみてセルフ」

「かしこまりました」

 セルフが器用にふすまを開けて中から掃除機を取り出して手に持った。


「掃除機の使い方は分かる?」

 母の言葉にセルフはもちろんといった感じで答える。

「分かります。このスイッチをオンにすれば、よろしいのですね」

「そうよ。それじゃあこの居間からお掃除を始めてもらえるかしら。ここが終ったらまた別の部屋に案内するわ。ちなみにコンセントはあそこね」

「かしこまりました」

 セルフが掃除機の電源プラグをコンセントに差し込むと電源を入れ、さっそく居間のカーペットに掃除機をかけ始めた。

 その姿を父は感心して眺め、母は我が子に向けるような眼差しで見守り、そして僕は興味津々の目で見ていた。


 三者三様に何か思いがあるようで皆セルフから視線を外さず行動を観察している。

 僕は本当にセルフはきちんと掃除をこなすことができるのか、と厳しめの目でチェックする。

 同じ場所に何度も掃除機をかけるんじゃないかとか、逆に掃除機をかけ忘れるところがあるんじゃないかとか、色々考えていたけれどセルフの掃除機がけは見たところ完璧だった。

 部屋の隅なんて壁にあまり叩きつけないよう丁寧に掃除機を扱い、綺麗にほこりを吸い上げているように見えた。

 正直、僕がするより格段に上手で、さすがはお手伝いロボットと思えた。


「素晴らしいわね」

 セルフの掃除っぷりを母が褒めたたえる間にも掃除は黙々と進み、居間の掃除機がけが終わるまで何かのショーを見せられているような気持ちで僕はセルフを眺め続けた。

「奥様。居間の掃除機がけが終りました」

「そうみたいね。それじゃ次の部屋に行きましょうか」

「かしこまりました」

 母がセルフを伴い居間から出ていくのを眺めながら、僕はどうしようと考える。

 セルフを見についていくか、セルフはこれから毎日見れるので自室に戻って読書をするか。

 僕は居間に残っていた父をちらりと見ると、父も何をしようか迷うのか腕を組んで考え込んでいた。


「お父さんはもうセルフを見に行かないの?」

「仕事ぶりはさっきしっかり見せてもらったからな。後は任せても大丈夫だろう。聡の方こそセルフを見に行かなくていいのか? セルフから学べることは沢山あると思うぞ」

「お掃除の仕方とか?」

「そんなとこだ。もちろん他にも沢山あるだろうけどな」

 そういって父は、がはは、と歯を見せて豪快に笑う。

「とりあえず俺は昼飯が出来る頃まで散歩に行ってくるよ。最近運動不足だからな」

 壁掛け時計に目を向けると時刻は既に11時を回っており、昼食時まで1時間もない。

 母はセルフの相手をしているけれど、昼ご飯のことを忘れてるんじゃ、と疑問が浮かぶ。


 とりあえず居間を出ていく父を「行ってらっしゃい」と見送り、僕も居間を出て母を探す。

 隣の部屋から掃除機の音が聞こえるのでそちらの部屋に入ると案の定セルフが掃除をしていて母がそれを見守っている。

「お母さん。お昼ご飯の準備忘れてたりしないよね。もう11時を過ぎてるけど」

 僕が思ったままの疑問を口に出して母に問いかけると、母は薄く微笑みながら言う。

「大丈夫よ。材料はもうそろっているし、あまり手のかからないものを作るから」

「そうなんだ」

 僕が一人で納得していると、セルフが掃除機の動きを止めて、片手を挙手して告げた。


「セルフは料理を作ることもできます。もしよろしければセルフがお作りしましょうか」

 それを聞いた母はニッコリと微笑んで、うーん、と少し考えてから告げる。

「今日は私が作るわ。さすがのセルフも掃除と料理を同時にこなすことは出来ないでしょう? 体は一つしかないんだから。今日はこのまま掃除に専念してちょうだい。セルフが掃除機がけをしている間に、ちゃちゃっと作ってしまうわ」

「かしこまりました」

 セルフが再び手を動かし始めて掃除を再開するのを横目で見ながら、そういえば売り場でキャベツの千切りをしていたなと思い出す。

 正直、セルフが料理を作るところは非常に興味が湧くけれど、昼ご飯は母が作るみたいなので、少し残念だ。


「見たかったな。セルフが料理作るところ」

 僕は思わず心の声を漏らし自分の考えを小さく口にすると、母に聞かれて返事が来る。

「セルフの料理はまたの機会にお預けね」

「うん」

 それからしばらくは黙ってセルフの仕事ぶりを観察して過ごし、掃除機がけが終わると母がセルフに感謝の言葉を告げる。

「素晴らしいわセルフ。ありがとうね」

「どういたしまして」

「それじゃ次の部屋に案内しましょう、と言いたいんだけど私そろそろお昼ご飯の準備をしなきゃいけないから、代わりに聡がセルフを案内してくれないかしら」

「え、僕?」


 突然の指名に僕は驚いたが、案内するだけならと思い「別にいいよ」と承諾する。

「案内したらセルフに指示を出して、それからもしセルフが困るようなことがあれば助けてあげてほしいの」

「指示って部屋に掃除機かけてもらうだけでいいんだよね」

「そうよ」

「セルフが困ることってどんなことなの」

「それはわからないわ。セルフが万能っていっても何か出来ないことがあるかもしれないから近くで見ててあげてほしいの」

 僕は自分がすべきことを忘れないよう頭の中で、別の部屋に連れていく、掃除機をかけるように頼む、近くに待機して困ったことがあれば助ける、と呟いた。

「うん。わかった。何とかできそうだよ僕」

「そう。それじゃお願いするわね」

 そういって母は部屋を出て台所に向かい、歩き去った。

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