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愛像  作者: イキシチニ
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鍵の音

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

またこの挨拶である。何年、何百年経っても変わらないであろう日常挨拶だ。夫は悪い人ではない、私と娘を愛してくれているし稼ぎも同年代の人と比べて格段と高い。だが、私には退屈なのである。いつも同じ挨拶、変わらない毎日。まるで毎日同じ行動をするようにプログラムされているようだ。

「ママー準備できた」

「じゃあ出発しましょうか」

これも同じだ。娘を幼稚園に送り、家に帰り家事をして、娘を迎えに行き帰ってきた夫と一緒に3人で食事をする。風呂に入って寝る。3年は同じ生活を繰り返している。娘が産まれた時私は、これから起こるであろう輝かしい日々が目前に広がっていくのを感じた。しかし、娘の成長と共にその景色が萎んで行くのを感じている。

「チョコは持った?」

「うん」

娘の荷物を持ち、外に出て鍵をかけた。これもいつもと同じ動作、毎日変わらない音色がする。

「ゆうたくん喜んでくれるといいね」

「うん!」

今日はバレンタイン。娘のみゆが同じ幼稚園のゆうたくんにチョコを渡すらしい。やはり女の子はませている。バレンタインをいつから気にしなくなっただろう。最後に渡したのは、、、。まあいい。どうせ夫も覚えていないだろう。

私と夫の出会いは、大学のサークルである。当時、大学内でも優秀だった夫に惹かれ、この人だったらいい人生が送れると思って交際を始めた。当時は何かと遊びに連れて行ってくれた夫も今では仕事だのなんだので、構ってくれない。挙げ句の果ては、私よりも娘を優先する始末である。こんなはずじゃなかった。

「お母さん、今日はお父さんが迎えに来るんだよね」

「ええ、そうよ。今日からホットヨガを始めるの」

「夜ご飯は?」

「作り置きしておくから、お父さんと温めて食べて」

「お母さんは?」

「ママ友会で食事があるらしいいの」

「ふーん、わかった」

ホットヨガを始めることにした。幼稚園のママ友が誘ってくれたのである。今までホットヨガをやっている人なんて、ブルジョアだと思っていたが、私がそうなるとは驚きだ。写真を見せてもらった限り、なかなか刺激的な服装をしている。少し同じ服装をするのは恥ずかしい、あの服装を自分がするのは想像がつかない。

「おはようございます」

幼稚園の先生とはすごいと思う。子供達と毎日戯れているとは、どう言う神経なんだろう。私は耐えられない、比較的大人しい自分の娘ですらやかましかったり、耐えられない苦痛を感じる。

「今日はお父さんが迎えに来られるんですよね」

「ええ、顔見たことってありましたっけ?」

「はい、運動会で一度」

「ママ、もう行くね」

「ええ、いってらっしゃい」

「ゆうたくん、今一人で絵本読んでるよ」

「先生、別に聞いてないもん」

娘が恥ずかしがりながら、駆けて行った。さすが先生だ。

「では、私はこれで」

「お母さん今日も一日お預かりします」

「はい」

家に着いてから、今日の夜ご飯を作ってみた。温めて食べられるように今日はカレーだ。来週はシチュにしよう。昔は手の込んだものを作り、夫に食べてもらい、ただ美味しいと言う一言のために頑張っていた時代があった。たった2、3年なはずなのに、すごく昔に感じる。掃除をして、洗濯をしテレビを見て、お風呂を沸かした。いつものルーティンだ。しかし、今日はいつもと違う。初めてのホットヨガ。意外と自分が楽しみにしていることに気づく。時間になり、荷物を持ち外に出て鍵をかけた。閉まる鍵の音はいつもと違う音色がした。

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