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騎士×王/王国


「ダン。君は、この国が好きか?」彼は嬉しそうにダンに微笑むと、初めて会った時と同じ質問をもう一度繰り返した。「僕は嫌いだよ。この国も、人間も。だから壊す。そして造る。自由と友愛の世を」


「『竜人の王国』って奴か。酔狂な夢物語だ」


「そうともいい難い。この竜騎士の大隊をごらんよ。彼らは一人一人が一騎当千の騎士であると同時に、災害を起こすほどの力を持った竜なのだ。そんな存在が一万も居る。国の一つや二つ、どうってことない」


 ダンはそう言うと、辺りを見回す。この部屋に居る騎士、その全てが竜人なのだろう。彼らから息遣いは聞こえないが、深くかぶった兜の奥からは確かに生きた視線を感じる。


 ルシスがどうやったかは分からない。これこそが儀式なのかも知れない。だが、彼らを使って事を起こそうと考えていることは間違いない。

 

 そして、何故か玉座に座ったベル。カロンの言葉から察するに、王であるベルが、そこに居る事が重要なのだろう。これもまた、理由など分からない。

 

 だが、そんな些末なことはどうだっていい。今、大事なのはルシスが竜騎士を手中に収めてしまっていることだ。


「ベルを操って、竜騎士を使って、新しい国を造って……それで、お前はどうするつもりだ?『摂政』にでもなるつもりか?」


 ダンの挑発に、ルシスはやれやれと首を振る。横からも「私の話、ちゃんと聞いていまして?」とカロンが頬を膨らませた。


「白羊が目指すのは、支配からの解放だよ。君は僕を酔狂と言ったが、今の世界こそ狂っている。一部の肥えた豚が己の欲望を満たすが為に、暴力を以て飢えた人間から搾取する、『王国』などという体制を敷いているのがその理由だ」


 ルシスは冷たい微笑むと、ベルの座る玉座の背を軽く叩いた。

 

「僕はずっと不思議に思っているよ。『王』という思い上がりも甚だしい存在を。歴史を造り大義名分を掲げ、その存在を正当化させてはいるが、その実は地面にありもしない線を引き、何の根拠もなく『自分の土地だ』と傲岸不遜に主張する人間だ!僕や君と同じだ!」


 彼に似合わない、叫びのような声。力が入り、微かに震えている。


「だが、彼らの存在自体は理解できる。人間の欲望は尽きることはない。僕が真に嫌いなのは、豚ではなく、飢えた人間の方だ。彼らこそ、『王国』という理不尽な概念を補強しているのだ。王が居なければ国は成り立たないが、民が居なければ国は滅ぶのだ……王都に住む君には分からないかも知れないが、この国の民の多くは一日に銅貨数枚、パンと一杯のスープで腹を満たして暮らしているのが現状だ。格差は大きい。彼らは何故、そのような貧しい生活の原因である王国を肯定し、王の支配に甘んじているのだ?」


「ジジィは名君と言われている。国際貿易で経済を潤し、長く続いた王国内の分裂を安定させた。そうやって出来た平和をジジィや俺達は守っているし、皆、それを望んでいる」ダンはそう言うが、彼は歯牙にもかけずに鼻で笑って否定する。


「君は、本当に民衆がそんなことを考えていると思うか?彼らの多くは王の顔を見たこともないし、名前すら知らないのに。いいか、彼らは国について何も考えてなどいない!その日を生きるので精一杯だから、意志を放棄し、平和や未来といった自らが選択すべきことを幻想の王に託しているに過ぎない……だから今こそ、民衆の目を覚ます必要があるのだ!幻想の平和を見ているだけでは、彼らは未来を見るなど出来ない!民が自分の意志で造り上げる国が必要だ!王ではなく、民の一人一人が君主である国!」


 彼は玉座の前に移動すると、腕を広げ、天井を仰ぐ。


「『竜人の王国』の復活は、その第一段階、既存の秩序を壊す為だ。我々は弱い。だからこの強大な兵力が必要だったのだ」


 彼の話を聞いたダンはほとほと呆れ返る。「結局、お前は自分の理想を押し付けてるだけじゃねぇか。そりゃ、偽善っていうんだぜ?」

 

 彼がそう言った理由は、口でこそルシスは民の為の国を造ろうと言っているのだが、その言葉の端々からは民衆に対する冷笑的な態度が透けて見えたからだ。

 

 それに、カロンの時もそうだったが、彼らの口から語られる理想は自由や平和など抽象的で、実際にはどういった国を造ろうとしているのか、全く見えてこない。


 さらに言えば、彼は王を否定しているが、教団の中心にいる自分自身が、既に王に近しい存在になりつつ在ることに気がついていない。

 

 とどのつまり、ルシスの主張は学校に通う子どもが語る理想主義の域を出ない。無垢だが、空虚だ。


「旧体制側の君には到底受け入れられないだろうね。しかし、これこそ僕の使命なんだ」


 ダンはタバコが吸いたくなって懐を漁る、だが丁度切れてしまったようで、ため息を吐く。


「何度も言わせるな。俺が止める」


「ふふ。どうやって止めるつもりだい?僕が指を振れば、竜騎士が(たちま)ち君の首を刎ねるだろう」


「雑兵なんざ相手にするか」


 ダンはそう言うと地面を強く蹴って宙を跳ねる。空から落ちるライラを捕まえた時と同じ方法。


 隣りにいたカロンも、竜騎士たちも、虚を突かれたようで全く反応できていない。


「王を獲っちまえばこっちの勝ちだ!」


 流れるように剣を抜き、ルシスの脚を狙って剣を突き立てるッ!


 鈍い音が玉座の周りに響く。


 だが、刃が彼の身体を貫くことは無かった。ルシスの脚は、まるで竜のように太くなっており、その表皮は硬い鱗に覆われていたのだ。


「……やっぱりお前、呪われていたんだな……ルシス」


 ダンは鼻を動かし、ルシスに訊ねるが、彼からは全く予想だにしていなかった答えが返ってくる。


「いいや。呪ったんだ。自分自身をね」


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