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奇妙な占い  作者: 肇
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秘めたる才能

これは、現代の街の片隅で占い業を営む1人の女性の話。彼女の行う占いは顔相占い。人の顔を見て占うというのです。今日はどんなお客様が来るのでしょう。


「最近この通りには全然人が来ない。変な噂でも広がったんかな〜。風評被害だよ全く!ん、あれは」

彼女は古本屋を見つけた。そこで少し読書をしてサラリーマン達の退社時間を待ってみようとしたのだ。彼女がそこで読んだ本は古本ではなく、まるで誰かが古本と言い自分の本を売ったのかと思わせるくらい新しい本であり、全く見た事のない題名だった。

「ありったけの愛と首吊り」

「何この不気味なタイトルw絶対変な小説だよねこういうのって」

そう思いながら彼女はその本を全て読んだ。

そして彼女は思う、この作者の顔相はどうなっているのだろう、この作者は売れているのだろうか。

作者への興味からか彼女はいつものように道行く人に声をかけたりはせず、その小説のことを考えていた。

すると、彼女のところにひとりの相談者がやってきた。

「あの、すいません。無料で占ってくれるんですよね?」

「え?あ、お客様ですか!はい、そうです!私は無償で占いをしている者です!占いの依頼ですね?」

「はい、お願いします。」

「分かりました、それでは失礼します。」

彼女はいつもの調子で客の顔を覗き込み、全体をしっかりと見た。

「お客様は、何か苦労をされてますね?すごく疲れを顔から感じます。それに、少しストレス?私の推測ですが、何か商売をされてますか?」

「はい、よく分かりますね、流石です。私は、ネットライターとしてネットに自分の書いた小説をあげながら生きていました。しかしある日、自分も本屋なんかで売ってみれば少しは稼げるんじゃないかと思い試しに売ってみたらお店の方から1冊も売れたという報告を聞かないんです。私はそれがすごく辛くて、仕方ないこととは分かっています。しかし、どうにかしたいです。どうすればいいですか?」

「生憎人生相談というものはあまり引き受けない仕事なんですが、そうですね、編集者の方に読んでもらうのはいかがですか?貴方の場合ネットで話題になったから出すことに決めたように思います。そうですよね?」

「あ、はいそうです。ネットでこんなに沢山の人に見て貰えるなら本にしてもと思いました。しかし、今の時代本を読まない人が増えてるのに無名の作家が売れるなんて…」

「卑屈になる必要はありません。ただ編集会社に見てもらえばいいだけなのです。そこからどうするか考えましょう。」

「分かりました、ありがとうございました。」

「あ、ちなみにお名前は?私も貴方のデビュー作ぜひ読みたいので」

「あ、私ので良ければどうぞ」

「ありがとうございます!ふ〜ん、どれどれ…え、茂田筆さん?」

「なぜ僕の名前を?」

「今日貴方の本を読んだんです!ありったけの愛と首吊りを!とっても面白くて気になってたんですあなたのこと!」

「そ、そんな偶然が。まあ、これからもどうぞごひいきにお願いします。」

「はい!頑張ってください!」

そして2人は別の方向へと去っていった。

茂田は彼女に背中を押されたのか思い切って編集会社に行ってみることにした。

対応してくれた編集者の反応はかなりよく、実際かなり期待していた。だが、その日の夕方かかってきた電話では、残念ですが弊社では扱うことが出来ません。と断られた。

やはりそうか、素人が調子に乗って出したって売れやしない。そう思っていた時。

「もしもし!茂田さんですか?すいません!若いヤツのミスで番号間違ってたみたいで茂田さんに使えないなんて失礼なこと言ってしまい大変申し訳ございません!お詫びと言うには失礼ですが、良ければうちの会社であなたの原稿扱わせていただけませんか?」

「それって、僕は本当に作家デビューってことですか?」

「何言ってるんですか、とっくに茂田さんは立派な作家です!これからは、編集者と一緒に面白い物語を沢山書いてください!」

「はい、頑張ります!」

彼はそこからうなぎ登りで知名度と人気度をあげていった。ある人は選んだ会社が良かったと言うが、ある人は内容が素晴らしいと素直に褒める人もいた。

半年後、彼は本屋賞ないし新人賞を取るほどまで人気な作家となったのだ。


「あ、茂田さーん!」

「ああ、あの時の!」

「茂田さん、すっかり人気になっちゃって!私全部読んでますよ!」

「本当?それは嬉しいよ。でも、僕がここまでいけたのはあの時君が背中を押してくれたからだよ。本当にありがとう」

「わたしはただ、才能があるのにそれを世間に見せないのはもったいないと感じただけです」

「才能だなんて、僕は運が良かったんだよ。」

「いいえ、茂田さんの実力です!これは誇るべきですよ!」

「そんなに褒められるとなんか照れるな、ありがとう本当に」

「いえいえ、しばらく見ないうちに格好も顔も明るくなりましたね。改めて今顔相を見てたら私ある忠告をしなきゃいけないことに気づいてしまいました」

「なに?君の占いはすごく当たるから絶対に信じるよ!」

「そんなに言われたら言い難いです…まあても、茂田さんのためです。貴方、すごく有名になって今では編集者の方とも色々と意見し合いながら書いてるんでしょ?」

「あ、うん。そうだよ。僕が書いたものを校閲してもらって、編集者が読んでいいと思ったら世に出している。」

「それならいいんです。これからも面白い本を沢山出してください。でも、どんな時にも作家としての誇り、魂は売ってはいけませんよ」

「え、どういうこと?」

「今日はもう話は終わりです。バイバーイ」

「あ、ちょっと!行っちゃったよ。」

そうして茂田は家に帰りまた執筆に入った。


ある日のこと、編集者からの電話だ。

「はい、こちら茂田です。どちら様ですか?」

「編集者の鈴木です。実は新しい物語を作ってとある有名な雑誌に載せたいのと編集長の意見です。どうします?」

「え、編集長さんが僕に?それはとても嬉しいです!やります!で、どんな内容ですか?」

「その内容なんですが、今のミステリー小説をやめて異世界ファンタジーを書いて欲しいと言ってるんです。」

「は?僕はそんなもの絶対に書きません!僕が好きなのはミステリー小説を書くことだ!そんな異世界モノなんて書いてられるか!」

「え、茂田さん?そんなの困りますよ!ちょっと、編集長!茂田さんとお話願えますか?」

「茂田くん、気に入らんかね?こんな素晴らしいタイミング。君のように才能がある人間は何を書いても大丈夫だから、安心して書くだけでいいんだよ」

「僕は約束したんだ!僕は僕の書きたいものを書き続けるって!」

「子供のように喚くな!大人の作家なら黙って読者や編集者の言うことを聞いて試しにやってみるでいいんだよ!ちょっと売れたからって大御所のような態度を取って、勘違いも甚だしい!君のように腕のある人間なんてこの世に何人もいるんだ。その腕とペン1本で駆け上がってきた君にその腕がないならもう君に興味は無い。君が1人この会社から契約を切られたってうちの会社の者は誰も困りはしないんだよ!分かったらさっさと書くんだ!プチッ」

「え、ちょっと!電話切りやがった…腕のある人間なんてこの世に何人もいるんだ…か。腕のある人間、僕は今までこの腕で、このペンで小説を書いたんじゃない。そうだ、頭という名の僕の妄想の楽園、僕の真っ白な模造紙、キャンバス、ノート、それに書いたものをただ文字に起こしてただけだ。小説は、腕で書くものなんかじゃない!」


あの電話から1ヶ月後、編集者の元には原稿が届かないどころか電話ひとつすらない。心配になった編集者は茂田の家を訪ねた。すると、茂田の家の前に立った時何か中から声が聞こえてくるのだ。

「茂田さん、茂田さん!失礼しますよ!」

中に入ってみるとそこには、両腕を自らの手で断ち傷のところには我流の止血方法で止めた見た目の悪い傷口を隠すかのように包帯で何重にも巻きつけていた。

「茂田さん、その腕は…?」

「いつか言ったはずだよね?僕は小説を書く時頭と心で書くって。だから僕は君たちに否定された腕を捨てて自らの方法で小説を書くんだよ。主人公は今でも…」

「茂田さん…」


「いやー、茂田さんの本本当に面白かったですよ。しかし、今度出す本は小説じゃなくて自伝になってしまいそうですね。それはそれで自分の魂を売ることなく捨ててしまったようにも見えますけどね。ウフフフフ」

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