貴方の未来、占います。
顔相占い
この世にはたくさんの占いがあります。手相や水晶、タロットなどもありますね。聞くところによると霊を使う占いもあるとの事で。
占いというものは歴史が長く日本でも昔から根強い文化として占いを持っているようです。
これは、現代の街の片隅で占い業を営む1人の女性の話。彼女の行う占いは顔相占い。人の顔を見て占うというのです。今日はどんなお客様が来るのでしょう。
大人というものは退屈だ。ただ仕事をして毎日過ぎていくだけ。金はあるけど使い道がないし、友達もいなければ妻も子供もいない。この年で結婚はきついのは分かっているが婚活なども正直する気になれない。僕の名前は吉田善二。中小企業に務め営業の仕事をしている。慣れてしまった職場で何事もなく1日が終わっていく。それだけの人生だ。なんてつまらないと思うだろう。僕もそう思っていたところだ。
「おーい、そこのお兄さーん!」
誰か呼ばれている。僕もお兄さんなんて呼ばれる時もあったな。
「あなたですよ、こっち見てください!」
「え、僕?僕に何の用ですか?客引きなら間に合ってます」
「客引きじゃなくて、占い、してきませんか?」
「は?占いなんてする訳ないじゃないか!なんで僕がそんなものしなきゃいけないんだ。そんなものお断りだよ!」
「まあまあ、お金は取りませんから、ボランティアですよボランティア」
「うっ、だからってやらないよ!ほら、早く帰らせてくれ!ずっとこんなとこで立ち話するくらいなら家に帰りたいよ!」
駅前通りの片隅に怪しい宗教の布教のように占いと看板を立てて座っていた彼女の見た目は占い師というより探偵であった。帽子を被り道具のようなものを机の上に置き、机越しに座っている。目は水色のカラコンだろうか、水色をしている。髪色は普通だ。
「そう言ってますけど、あなた、今の人生に満足してませんね?楽しくないとか、思ってるんじゃないんですか?」
「失礼な!人のことを勝手にそうやって言わないでくれ!ほっといてくれ!」
「吉田善二さん、36歳独身、アパート暮らしで営業の仕事をしている。」
「え、なんでそれを!」
僕の個人情報だ。なぜ彼女が知っている。あまりの驚きに動けず立ち去るのをやめて質問をなげかけた。
「なんでもお見通しです!だって、占い師ですから!」
「はあ?ふざけたこと言うな!警察を呼ぶぞ!」
「ああ、待って待って警察はダメだよ!まだ何もしてないじゃん!」
「人の個人情報を勝手に探ったんだろ!」
「探ったけど、別に調べたり盗んたわりしてませんよ。」
「じゃあどうやって」
「顔に書いてます」
「え?」
「私、顔相占い師なんです」
「なんだって。まさか、君の占いは、本物?
「そう言ってるじゃないですか、本物です。これでも占ってもらわなくていいんですか?せっかく無料で未来を占おうとしたのに」
「ああ!お願いします!」
「それでは、失礼します」
顔が若く10代かと思われる彼女の顔が僕の前に出てきた。急な事だったからびっくりしたけど彼女は占いをしているようだ。目だけでなく口元や鼻、眉毛までしっかり見ている。
「わかりました!あなた、最近自分の人生に飽き飽きしてますね?」
「な、なんでそれを?」
「顔というのは人間の中の1番のメッセンジャーなんです。だから、顔を見ると色々なことが分かるんですよ。」
「なるほど、で、僕はどうすればいいんですか?」
「つまらない人生に感じるのは自分に対する自信、自己肯定感が低いからです。それが高いと自分に自信が持てるだけでなく、他人にモテたりする、最高ですね。」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「自分を好きになる事です。まずは自分を好きになるために人を好きになるのです。つまり、人に優しく行動しましょう!それだけで人生が変わります!
「散々話付き合わせてそれだけ?なんだよ、先にそうやって言えばいいのに。もう行くよ。」
「忘れないでください!親切ですよ!」
何が親切だよ、くだらねえな全く。とりあえず帰ろう。そう思って電車に乗った。退社時間から結構経って電車に乗ったから席はちらほら空いてる。椅子についてスマホを見ていると
「すいません、席を譲ってくれませんか?」
重そうな荷物を持っているおばあさんが優しかけてきた。
「悪いけど、僕も疲れてるんですいません。」
「そうですか、譲ってくれませんか。人に優しく出来ない人に、生きる権利はない!」
「えっ?」
荷物から刃物を出したおばあさんが僕を刺した。嘘だ、優しくしなかった報いがこんなになるなんて。自分の人生、何だったんだ。
目が覚めた。ベットの上だ。全て夢だったのか?夢ならいいんだけど。
また電車に乗り、スマホをいじっていた。
「すいません、席を譲ってくれませんか?」
「え?ああ、どうぞ!」
「あら、ありがとうね。これお礼ね。」
渡されたのは小さめの紙袋。中にはお菓子が沢山入っていた。子供じゃないんだから。
「あ、ありがとうございます。」
でも、いいことしたら本当にいい事あるんだな、なんか得した感じだ。
そうして僕は会社に行き、会社でもできる限りの親切を尽くした。
人に親切にするのって最高だ。自分も気持ちよくなれる。場合によっては相手からお礼も返ってくる。あの人に感謝しないとな。
「おにーさーん!」
「あ、この前の!やっぱりあれは夢ではなかったんだね!」
「え?なんのことですか?どこかで会いましたっけ?」
「え?あ、なんでもないです。それより、占って欲しいです。」
「もちろん!お代は頂きません。占って欲しい人を占うのが私の仕事なので。ふむ、あなた、最近人に優しくしてますね?顔に自信と満足感が出てます」
「やっぱりわかるんですね!僕人に優しくすることの大切さがわかりました!」
「でも、あんまり優しすぎるのも良くないですよ。出来ないことはキッパリ断るのも大切です。そのうち、痛い目をみますよ?」
「な、何を言ってるんだいちいち!僕は僕の生きたいように生きるんだ!」
家に帰る電車の中でも人に席を譲り、物を落とした人がいれば拾ってあげたり、親切な行動を徹した。やっぱり親切なのはいい事だ。
次の日会社に行く時、大学時代の友達から電話がきた。
「善二!金貸してくれ!昨日メールで話した通りだ!頼む!」
「え?急に無理だよそんなの!俺だって給料前できついんだよ!」
「昨日メールで話したらいいって言ったじゃん!なんなんだよ!」
「は?そんなこと言ってない!あ、電車来たから切るぞ!」
なんなんだ全く。勝手なこと言いやがって。
電車では席に座らず老人を見つけたので譲ってあげた。しかしその返答は
「わしは座りたくなんてない!人が座ったとこに自分も座ってたまるか!汚らしい!」
「え?あ、すいません。」
なんなんだよ、優しさで言ってるのに。
その日は何故か会社に行っても空回りばかりで上手くいかない日だった。そして退社して家に帰る。
「なんでだろ、親切にしてたのに誰も何も喜んでくれない。なんかダメなことしたかなあ。」
家に帰りご飯を食べていると、チャイムが鳴った。人が来たようだ。
「誰だろうこんな時間に、はい!」
「金融会社の者です。吉田善二さんですか?」
「え?はい、そうですけど」
「貴方、飯田阿久戸さんってご存知?」
「それは、僕の古い友人ですけど」
「あの人ね、貴方を借金の保証人としてる。金額は100万円。1年あげるからちゃんと返してね。もちろん利子とかつくけど、この書類読んでね。」
「え、借金?ちょ、なんで僕が?ちょっと確認させてください!」
「飯田さんね、逃亡しちゃったよ。だから、貴方のとこに来たの。」
「嘘だ…なんで僕が、こんな人生…。夢だよね?この前みたいに刺してしまえば目覚めるよね?」
台所に行き包丁を取りだし、武士の切腹のように腹に刺して目を瞑った。
「吉田さん、吉田さん!吉田善二さん!」
借金取りと隣人の声が部屋に響いてる。
「親切にすること、大切ですよね。でも、お人好しやお節介は人の為にならないどころか自分の首を絞めてしまうんですね。気をつけてくださいね。うふふふふ。」