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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
風塵遮視-サンドアウト-
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予選

「うわ、予選となると多いなあ」


数千あるだろうか?モービルが大量に並ぶ光景は圧巻だった。


「にしても…何よこの位置。最後尾じゃない」


「それはリンシェンに文句を言うべきだな」


当のリンシェンは隅っこで泣いていた。抽選なんかはめっぽう弱いらしい。


「ま、まあ後方には後方の利点があるから」


「そうですよー、ここから巻き返せばいいんですー」


ミオとナナがしっかりフォローするが、リンシェンには効果が無いようだ。


「んで、予選は100km先のゴールにいち早く到着すればいいんだよね?

ってかリリス!リンシェンを棒で(つつ)くのやめなさい!」


「そう。モービルだけで突っ走って、妨害なんかで相手を出し抜く勝負よ」


単純なルールである分、スタート位置の有利不利がかなり響く。


一応、後方なら加点されるが敵がうじゃうじゃいる中に突っ込まなければならないのは不利だろう。


「リリス。スタートしたら筒状に展開してモービルを守って」


「わかった」


「あとは…」


「ミオとナナは切り札として残しておきたいから操作に専念かな?」


「はーい、運転は任せてくださーい」


「リンシェンちゃんは妨害兼私たちのサポートでいいかな?」


「ああ。メインは俺とミナとルーでやっとくよ」


そう言うとトウヤ達はモービルの後方に待機した。


「しかしどうする?この数だと狙われたらかなり厳しいんじゃないか?」


ミナが問いかける。


たしかに数十台同時に狙われたら、いくら崩れる石像(ストーンアッシェ)と言えど厳しいだろう。


一気に相手だけ無力化出来れば…


ふとある作戦を思いついた。


もしかしたら…


「ねえ。一つ提案があるんだけど、こんな作戦はどうかな?」





「あいつらは…あそこか」


「リンシェンが最後尾引いてたからね。はるか後方よ」


「くじ運ないねぇ~」


「ま、科学人らしく運より論理でいいんじゃないか?」


ポーラ達の準備は完了していた。


砲撃での妨害のポーラとティア、モービルの防衛のリーシャとセレス、

そして運転兼サポートのファイゼンとアーニャ。


予選の役割は例年通りだった。


今まで通りなら予選は突破出来る。でも今年は何をしてくるかわからないチームがある。


不安要素はそこだろう。


「うーん、何回やってもダメね。例年通りのいい結果が出てこないわ」


(まじな)い師であるアーニャはまじないで勝利を確実にしようとしたが、今年はなぜか出来ない。


「あの新人たちのせいか。それとも他の何かか。原因がはっきりしないわね」


レースの勝敗に条件を絞っている。


それでも勝利のまじないが発動しないのはレースそのものに何かあるのだろうか?


「マジかよ。アーニャのまじないは結構当たるから怖いな」


「今年は去年よりいいスタート位置。それでも出ないのは…」


「ホントに嵐が起こらなきゃいいわね」


「起こってもレース内に留まればなお良しだね」


そんな中でもレースを間もなく始める合図が響き渡る。


「みんな、時間よ。アーニャのまじないが無いから、今までより気合を入れてね」


レース開始を示すシグナルが現れた。赤いランプが光ると同時にカウントダウンが始まった。


ランプが青になり、開始のシグナルが響き渡ると同時に一気に加速した。




「スターーーート!!」


レースが始まると同時に実況の声が響き渡る。


それと同時に歓声も大きくなっていく。


「おっと!?開始早々、最後尾でトラブル発生か!?」


スタート位置後方で複数のモービルがドラブルを起こしていた。


高く飛んだあとバランスを崩し地面に叩きつけられたり、左右へ向かいコースの壁に激突するモービル。


土煙で詳しく見えないが、どれもスタートと同時制御を失ったように見える。


と同時に一台のモービルが土煙から飛び出し、コースを走り抜ける。


「ああっと!一台だけ無事だ!!まさか犯人はこのチームか!?」


猫のようなデザインをしたモービルがコースを駆け抜ける。


「このマシンは!?初参加の“包包娘娘(パオパオニャンニャン)”だ!!」


包包娘娘(パオパオニャンニャン)”、つまりはリンシェン達のチームだった。




「ぐ…ぐぐっ……くっ!」


急な加速に耐え、スピードが安定したところで状況を確認した。


「あの子たち何をやったの!?」


「わからない。映像も撮れてないから何にもわかんないわ」


何かやってくるのはわかっていた。でも何をしてくるかまではわからなかった。


「これ本戦でもやってくるかもしれないわよ」


「予選が終わったら急いで情報をかき集めないといけないわね」


大会側でも検証しているが、どれも制御不能による事故にしか見えない。


この状況下で一台だけ全てを(かわ)し抜け出せたことは、人為的に何かしたと考えるのが普通だ。


「ポーラ!囲まれてるぞ!!」


「リンシェン達は後回し!迎撃に出るわよ!!」


リンシェン達に気を取られたポーラ達は完全に後手に回った。


時速500kmを超えるスピードで走るモービルの周りは暴風に包まれている。


魔道士達はモービルの屋根部分に降り立ち、砲撃を打ち合う。


そこから如何(いか)に守り、モービルの燃料であるエアーを削り合うかが勝負の分かれ目だ。


予選はモービルのスピード勝負。時間にして10分ほどで終わってしまうほど短いが、

モービルはこのスピードを10分も維持出来るか怪しいものである。


少しでも、数kmでもモービルが走るのが理想的である。




リーシャとセレスは魔法でモービルの屋根に立つと砲撃を弾き飛ばす。


後方からのポーラとティアの砲撃で反撃をするが、相手の魔道士に弾かれる。


機体を守る為にエアーを消費しシールドを張るが、そうすると走る為のエアーが不足する。


「ガトリングか、厄介な!」


相手の砲撃は威力が低いが高い連射性能を持つガトリングガン。地味にエアーが削られていく。


「まかせて!」


ティアは二丁の銃を縦に繋げると、一つの大型銃になった。


二丁銃型デバイス“ミラージュ”は、状況に応じて形や性能を変えることが出来る。


引き金を引くと連続で魔力弾を打つ。相手と同じガトリングガンのようだ。


魔力弾は打たれると曲がっていき、相手の銃弾を弾き飛ばす。


そして全て弾き切ると、今度は攻守が逆転する。連射性能はミラージュの方が上だった。


そしてそのタイミングでポーラが砲撃を打ち込むと、相手は徐々に後退していった。


ようやく数台あるモービルのうちの一台を退けた。


敵は一台だけじゃない。それはどのチームも同じで打ち合いはまだ続いていた。


「セレス!リーシャ!まだ平気?」


「くっ!なんとか…なっ!」


「まだいける!」


頼もしい返事だが、いつ状況が一変してもおかしくない。


周りには五台ほど、さらにその外側もいるだろう。


次はどれに攻撃すれば落とせるか、どうすれば走り切れるか、かなり悩ましい。


すると、後方からすごい追い上げで走るモービルが見えた。


猫のようなデザイン。リンシェン達だ。


だが……


「何?あのスピード!?」


先頭集団であるポーラ達はレース後半とは言え、トップクラスのスピードだ。


しかしリンシェン達はそれに追いつけるスピードが出ている。


「あれは…タービュランス!?」


モニターで確認していたアーニャが目を疑った。


ギアの性質上、モービルタイプはタービュランスは起きにくい。


しかしリンシェン達のモービルにはタービュランスと思われる風の気流が生まれていた。


「違う…タービュランスじゃない」


目視で確認したポーラは気流の正体に気付いた。確かにそれが作れる魔道士が二人いる。


「竜巻だ!」


リンシェンの“グラビティインパクト”を横に、そして自分たちを押すように操作。


渦を作ることでモービル全体を押すようにしたのだろう。


「でもそんなんじゃ…」


「衝突しても平気だ。ギアのシールドにもう一枚壁があるだろうな」


「ああ、風打ちの“(そり)”だったか?」


空間の壁を鎧のように纏う“(そり)”なら衝突しても無傷だろう。


「ファイゼン!衝撃に備えて!」


(そり)”の追加効果。纏った状態で突進すると通過の際、衝撃波で多少攻撃できるのだ。


しかしリンシェン達は被害が最も少なくなるように通過した。


通過したことで多少ギアが揺れたが、思ったほど衝撃は少ない。


モービルを操作している人が避けたのか、たまたまなのか。


あまりの光景に攻撃が止んだので、その隙に急いで走り抜けることにした。


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