トリック
「え!?ちょ!?まっ!?」
勢いよく空中に振り上げられた。
「足を下にしないと降りれないわよ!」
手を引っ張られているので自然と上体が下を向く。
思わず駆で足を下にし着地の体制をとる。
「ほら!また駆を使ってる!」
気合を入れてバニッシュから飛ぶ練習をしているが、ルーが相手だと非常にやり辛い。
思わずタービュランスから抜けてしまった。
「ルー、待って!全然出来る気がしないんだけど大丈夫?」
「なに?あたしのせいなの?」
頬を膨らましながら反論する。
「ルーのせいだと思うぞー」
離れたところからミナが指摘する。向こうは上手く飛べているようだ。
「トウヤが下手くそなのよ!」
「おみゃあ人に教えたことあるにょか?」
リンシェンが冷めた目で詰め寄る。
「は…初めてよ。悪い?」
それを聞くとリンシェンは大きく溜息をついた。
「おみゃあが手を引っ張るから足から降りれないにゃ。教えるときは肩を組むにゃ!」
そういえばミナとリリスは肩を組み、体を支えあっていた。
「そうだったのか。じゃあルー!」
そう言うとトウヤはルーの肩を組んだ。
「え?ひっ!?」
いきなり抱き寄せられるようにされ、思わず固まってしまう。
「トー…ヤ…」
低くドスの利いた声のミナが背後に迫ってきた。
「ひぃ!?なに!?なに!?」
トウヤの肩を力強く掴み、ルーと引き離したのはリリスだった。
「なんか…ムカつく…」
何かイケないことをしてしまったようだ。
「ならリンシェンならいいか?」
「おいらは無理にゃ。身長差がありすぎるにゃ」
20cm近く差があるので肩は組みづらいだろう。
「じゃ、じゃあルーしかいないのか?」
「じゃあわたしがお相手しましょーか?」
名乗りを上げたのはミイナだったが、ミイナも身長は高い方だ。
「ミイナも肩を組みづらいんじゃ…」
「大丈夫でーす!」
そう言うと身体全体が魔力光を放ち、身長がみるみる縮んでトウヤと同じくらいになった。
「わたしは人形なのでー、大きさを自由自在に錬成し直せるんですよー」
こういうのは便利だなと感じてしまう。
「でも、そんなに身体を変えて大丈夫なのか?」
「はいー!練習の間だけなんで大丈夫でーす!」
チラッとミナ達を確認したが、怖そうな感じは無い。大丈夫って意味だろう。
「じゃ、じゃあお願いするよ」
「じゃあリンシェンさん、タービュランスをお願い出来ますか?」
「んーにゃあにゃあ、初めに台の方で練習した方がいいんじゃにゃいか?」
「……」
「?おーいクルルー、どうかしたにゃ?」
「え!?ああ!そうね。ある程度、台で慣れてからでも大丈夫そうね」
「にゃらおいら少しカスタムしたいにゃ」
「わかりましたー。わたしはトウヤさんと一緒に練習しますねー」
「ああ、よろしく」
そう言うとトウヤとミイナは互いに肩を組み走り始めた。
「にゃら、おいらはカスタムにゃ~」
リンシェンは鼻歌交じりで待機所に向かう。
「ねぇ、ちょっと聞いていいかな?」
残った三人に対してクルルからの念話が届く。
「何?どうしたの?」
「もしかして……三人であの子取り合ってるの?」
「さん……にん!?」
思いがけない単語にルーとリリスが驚きと疑いの目を向ける。
「違う違う!私はそんなんじゃない!」
慌てて否定するが、二人は疑いの目を向けたままだ。
「なに変なこと言ってるんだクルル!」
「ごめん。なんかそんな感じに見えちゃって。
ってか、もしかしてルーちゃんとリリスちゃんって仲いいの?」
「「全っ然!」」
同時に同じことが言えるほどの仲のようだ。
「ああー……ならミナ、リリスちゃんに付き合ってあげて。ルーちゃんは自由で」
「あ、ああ、わかった。…リリス、行こうか」
何か言いたそうな顔をしていたが、バニッシュでの練習をするにはまだ補助が必要。
ルーに教わりたくないのであれば、ミナを選ぶしかない。そこはリリスもわかっていた。
「ほ、ほんとにそんなことないからな!」
その言い訳が嘘くさかった。
(一人を好むが来る者を拒まず。仲間になるなら…)
ふとポーラの言葉を思い出した。
(だからわたしも、この人たちも…)
ルーもミナも、自分と同じような感じがする。
(負けないように、ついて行かないと…)
リリスは二人の名前を記憶した。
「バニッシュにはエアーの効果を高める効果があるんですー。
それはバニッシュの淵であればある程、高い効果が得られるんですよー」
「そうなんだ。ルーは教えてくれなかったな」
たぶん余計なことに気を取られないように、順を追って説明するつもりだったんだろう。
「それは上手くなってから気を付けてくださいねー。今は飛ぶことだけに集中しましょー」
ミイナに引かれて加速し、一気にバニッシュから宙を舞う。
ただ飛ぶだけだが、タイミングはわかってきた気がする。
が……
「なんか着地でガンとなる気がする」
「おそらくエアーを使わないで着地してるからですねー。出力を上げて滑り台のようにしてくださーい」
「出力を上げて…滑り台のように……どういうことだ?」
「ストームギアはその気になれば上下に走れるんですよー?」
「え?どういう…!?」
ミイナがいきなり加速して近場のバニッシュへ向かう。
「少し回りますよー?足元をよく見てくださいねー」
勢いよく飛び出すと逆さになり、頭から落下する。
「こういうことでーす!」
ミイナはギアの出力を上げ下へ走り出す。
「いいっ!?」
思わずミイナを掴む腕に力が入る。
するとギアが落下のスピードを超え、自然と足が下を向く。
キイィィ
何か風のようなものが集まっているような音がする。
地面が近づくタイミングで一気に風を放出して前へ進んだ。
「うっ!?」
加速の仕方が今までとは比べ物にならないくらいだった。
「ストームギアは魔力の他にエアーを溜めて推力の補助を操作してるんですよー。
他にもバニッシュで放出すると高く、遠くへ飛ぶことが出来るんですー。
こうやってエアーを操作することで、着地もスムーズでき、一気に加速できるんですよー」
「な…なるほど、ね」
何も知らなかったので、地面にぶつかるかと思ってしまった。
「それよりー…そろそろ力抜いてくださーい、動きづらいでーす」
恐怖心からミイナに力一杯しがみついてしまっていた。
「あ、すまない」
「いえいえ。初めは回る必要はありませーん。エアーを操作して滑り台を
滑るようにしてみてくださいーい。出来てたなら加速しますので、わかると思いまーす」
「エアーの操作はどうやるの?」
「ギアの後方に魔力を溜めるイメージで使えますよー」
あの加速は今までの練習の比ではなかった。
ストームギアはタービュランスを制する者が勝つ。これは本当だった。