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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
それは甘く蕩けて灰になる
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風石の魔女

「な…何かあったの?」


ポーラは小声で尋ねる。


「なんか相性悪いみたいで、険悪なんだよね」


少々うんざり気味でトウヤが答える。


威嚇し合うだけのルーとリリスを見てポーラは何かに気付いた。


「え!?マジで!?いつから?」


「は?なにが?」


「あ、えーと、私にはどうしようも出来ない。頑張れ」


「は?何言ってんの?」


ポーラの言ってる意味がわからなかった。


するとポーラは相手をミナに変えてヒソヒソ話し始める。


「ねぇ、いつから?」


「模擬戦の少し前から」


「ちょ!?え!?早すぎない?」


「思ってる以上にチョロいようだよ」


「へ…へぇ~」


ポーラはニヤニヤ顔が抑えられなかった。


あの顔はろくでもないことを考えてるなと思い、トウヤは無視した。


やがて目的の部屋に到着する。


コンコン


「エルメント・ジュエル、ポーラ・テアトリーヌです」


と言うと中から「どうぞ」と声がしたので中へ入る。


そこにはソニアがいた。


自室にしては物が無さすぎる。どうやらソニアの仕事用の応接室のようだ。


「呼び出したのだからお堅い挨拶はいいわ。そこに掛けて」


とテーブルに案内された。


「悪いわね、急に呼び出しちゃって」


とソニアは飲み物を用意しながら詫びる。


「いいえ、とんでもないです」


トウヤとリリス以外は行儀良く座っていた。


(そう言えばこの人かなりお偉いさんだったな)


小柄で少女のような外見からかなり親しみを持っていたが、アルカナフォートではトップクラスの魔道士だ。


そう思うと自然と姿勢を正していた。


「飲み慣れてないリリスちゃんのために、フレーバータイプを用意してみました~

どうぞ、遠慮なく飲んで~」


と差し出されたのは紅茶…いやこっちではティーとお菓子だった。


「ありがとうございます」


と言うとポーラ、ミナ、ルーの三人は当たり前のようにティーを口にした。


さすがリアル貴族様。慣れていらっしゃる。


ポーラも貴族ではないが、いいとこのお嬢様らしい。


なのでこんなのも慣れているのだろう。


そう思いつつ、リリスに飲みやすくミルクを混ぜた物を用意する。


柑橘系の香りでフレーバータイプと言っていた。地球で言うアールグレイに近い品種だろう。


紅茶を飲み慣れない人でもミルクを混ぜると飲みやすくなる品種と昔聞いたことがある。


この人も相手に配慮出来るタイプなんだなと心の中で思った。




「さて、今回来てもらったのは他でもない。リリスちゃんの能力で解かったことを伝えるわ」


メンバーから大体察していた通りの話題が出た。


リリスを中心に、最も懐かれているトウヤ。所属することになるギルドのマスターであるポーラ。


そしてトウヤと親しく、ソニアとも繋がりのあるミナとルーとを呼び出したと言うわけだ。


「能力は“石化”と“魅了(チャーム)”だけど、どうやらメインは“石化”のようね。

“石化”は近づくと強力になって灰になる、正確には灰のように軽い砂ね。

魅了(チャーム)”は封印で抑えられるし、漏れることはないと思うわ」


「能力が二つ…やはり亜人なんですか?」


「その可能性は高いわね。魔族自体がほぼ人族(ひとぞく)と変わらないから断定するのは情報が足りないわね」


「え?能力が二つだと亜人なのか?」


「「……」」


「あんたみたいな特殊な力じゃない限り、能力が二つなのは麗王(れいおう)関係か亜人のどちらかなの。

この子は麗王(れいおう)の関係者じゃないから亜人で決まりよ」


「あと亜人はその他の能力が弱い傾向がある。他がかなり出来ないなら決まりでいいと思うぞ」


「あ…あ、そうなんだな。わかった」


「まあトウヤくんは知らないことの方がまだ多いわよね」


「すみません」


なぜかポーラが謝る。


「それと肉体的にはもう十五歳前後で、身長は伸びるかもしれないけど、

もう大人と同等ね。だから保護した時はかなり空腹で苦しんでいたと思うわ。

ただし、ボロニアの環境の人間だから年をとるのは十数年後ね」


「十数年…え!?どういう事!?」


トウヤは混乱した。


「あー。前に各国で時間の流れが違うって話したよね?」


「ああ。メリオルは地球のおよそ二倍遅いって話だよな?」


「ええ。ボロニアはメリオルより十倍以上遅いのよ」


「…は!?何それ!?…え!?ってことは…」


「あんたが二十くらい年をとると、この子が一つ年をとるのよ」


「それって…リリスだけ取り残されるってことか?」


「ええ。ボロニアから魔道士が出ない理由の一つと言われてたものよ」


ボロニアから局へ行っても厳しい環境下で魔法を使うことになることは聞いていた。


それに加えて同じ時を過ごした仲間だけ老い、死んでいく。それを何度も見ることになる。


迂闊に保護した為に、リリスにそれを強いることになってしまった。


「でも、あのまま見捨てるよりは保護して正解だと思うわ。

だって私たちも死ぬのは絶対よ。それでも言葉を交わし、仲を深め助け合っていく。

死ぬのは辛いと思うけど、だからって断ち切るのは間違っていると思うわ」


「はい。仲間を失った悲しみは、新しい仲間が癒してくれる。

だからこそ仲間に入れることを許可したんです。

こうやって仲間を作り続ければ、まだ幸せに生きれると信じて」


当のリリスは話の内容をほとんど理解していない。


でもこうやって仲間を作り縁を作ることで、これを知ることが今後あるだろう。




「はい、しんみりしちゃったから話題切り替えるわよ」


パンと手を叩き、ソニアは場の空気をかえる。


「あ、でもまだリリスちゃんのことね。まだ伝えないとといけないことがあるから」


「まだって…能力の次は局の話ですか?」


「それもあるけど、まずは能力。“古文書(アーカイブ)”に似た魔法があったわ。

こちらは結界を操るタイプではないけど効果は同じだわ」


「それって蛇族のとは違うんですか?」


「蛇族は石化まで、今回はさらに強化した灰化までだから上位互換と言っていいわね」


そしてソニアはリリスの能力を伝える。


「リリス・フランベール、AA(ダブルエー)ランク、“土属性”の“操作系”魔道士。

能力としては“風石(ふうせき)の魔女”と同等の“崩れる石像(ストーンアッシェ)”と見て間違いないわね」


風石(ふうせき)の魔女?」


「大昔に存在した魔道士の事よ。たしか大切な人ほど石化させてしまう悲劇の魔道士でしたっけ?」


「そう、その魔道士よ。もっとも、リリスちゃんはそれよりも上位な能力である可能性があるわね」


「ランクもAA(ダブルエー)ってかなり控えめですね。とても暴走するとは思えないんですが」


「暴走はボロニアの環境のせいね。

元々魔力の回復力が高いのに、あの環境だったから起こったのかもしれないわ」


「言い換えれば回復力が驚異的なんですね」


「そうね。もしかしたら局内でも一、二を争う回復力ね。

あと操作特化だから、出来るようになったらかなり手強いことになるわ」


「あー…既にかなり操作できるようになったから、十分手強いかもしれませんよ」


トウヤは申し訳なさそうに言う。


「え?それって…」


「検査の後、二人に協力してもらって操作訓練したんです。

それで結界の範囲を半円やら線状やらに変えることは出来たんですよ」


「あ…あんた随分危険なことを平然とするのね」


「そう…なんですか?」


トウヤはいまいち解かっていないようだ。


「危険だとも思ってないのね。…一応リリスのために言っておくけど、

石化の解除方法は解かっているので、石化しても崩れなければ復活できるわ。

ただ、この方法は石化させた本人でなければ出来ないみたいだから乱用は厳禁ね」


ポーラは呆れた感じで説明する。


「治療に使っていたらしいからね、あるとは思ったけど汎用性は無さそうね」


「その通りです」


「となると、問題は局内のことだけか。出鼻は挫いてあげたし、

ある程度の操作が出来たなら、しばらくは問題ないかもしれないわね」


ソニアは何かを考えるように天を仰ぐ。


「その局内の問題って何ですか?」


「ああ、魔族に限った事じゃないんだけど、局内で亜人を快く思ってない連中が多いってことよ」


ソニアに変わり、ポーラがトウヤの問いに答えた。


「…一応うちのギルドが主な原因だからステラにも話を通しておくわ」


「お願いします」


ポーラは一礼すると、リリスに言った。


「リリス、いい?あなたは今後、命を奪いに来る人間が現れる環境になるわ。

でも、ここにいる人達はあなたのことを絶対に守るから、安心していいわよ」


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