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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
それは甘く蕩けて灰になる
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接触

「ふが!…!?やっべ!」


いつの間にか眠ってしまっていた。


死ぬかもしれない結界の中で寝てしまうとは、なんとも間抜けな話である。


「どれだけ寝たんだ?」


時間が計れる物を持っていないのでわからない。


洞窟を確認すると彼女が戻っていた。少なくともそれに気づかないほど寝ていたようだ。


前に“魅了(チャーム)”の影響を受けた時より離れているが、今のところ体調に変化はない。


様子を見たいが、魔法無しでよく見るには遠すぎるので、さっそく接触してみることにした。


彼女は洞窟の前で何かをしていたが、よく見えなかった。


ゆっくり、気付かれないように身を潜めて近づき、洞窟へ入るタイミングを伺う。


ふと後ろから風が吹くと、彼女は何かに気付いたようにこちらを見た。


(やば!気付かれた!?)


そう思ったが、彼女は少し高い位置を見ていた。


すると彼女は祈るように両手を握り目を瞑った。


(何をしてるんだ?)


よく見ると彼女は震えているようだ。


(怯えている?)


そういえば、ファイゼンの話だと人が石化することを恐れているようだと言っていたな。


となると結界を小さくした?なんで人がいるってわかった?


(まさか匂いか!?)


彼女が気付く直前、風が吹いていた。それはトウヤが風上、彼女が風下という状態だった。


となるといつまでも隠れることは出来ない。早めに接触しなければ逃げられてしまう。


ふと彼女が洞窟に入ろうとしたのが見えたので、さっそく行動を開始した。


「待って!」


とっさに出たのはそんな言葉だった。


彼女は声に驚くと同時に洞窟へ隠れた。


これで彼女は洞窟から逃げることは出来なくなった。


「特に何もしない。警戒しないでいいよ」


言葉は通じないかもしれない。でも声色で感情を伝えることは出来る。


嬉しい声色、悲しい声色。言葉は通じなくても声で意思を伝えるのは動物に備わった武器だ。


トウヤは入り口で座り、彼女が出てくるのを待つ。


無理矢理中へ入って連れ出しても良かったが、ここは彼女の気持ちを大切にすべきだろう。


「少し話をしたいんだ。それまで待つよ」


通じてないかもしれない。でもお互い目を合わせて訴えれば伝わる物もある。


昔、シスターがやってくれたように…




「消えた!?…のか?」


リーシャは目の前で起こった光景を疑った。


「生体反応が二つ接触しています。おそらく会話の出来る距離です」


レナは冷静に情報を伝えた。


「あいつ…やりやがった!」


リーシャは思わず森へ駈け出した。


「待ってください!」


思わぬ叫びに足を止める。


「どうした?」


「この距離…まだ手を取り合う範囲ではありません」


レーダーには反応が二つ並んでいる。しかしまだ距離があった。


「おそらく無理矢理連れ出すという方法ではなく、

彼女の意思を尊重して自ら接触するようにしているのではにでしょうか?」


「なるほど。なら森へ近づかない方がいいな」


「はい。こんな…遠回しな手を選んだんです。余計なことをしない方が賢明かと思います」


「ああ。でもポーラ達には報告だ」


「承知しました」


やるべき仕事はした。あとはトウヤ次第だ。


(遠回しな手…ね)


たぶんあいつならそうすると思っていた。


(はは、うちもいつの間にかあいつを認めてるんだな)




彼女は警戒していた。


無理もない。初めて普通に動く人間と出会ったんだ。


しかし彼女も気づいているはず。今までにないくらい近づくことが出来ていることを。


ぐぅぅ~


そういえば森に入ってから何も食べていなかった。


トウヤは荷物を降ろし、洞窟の前でキャンプもどきを始めた。


と言っても魔法世界の間でも他国に持ち込んで良い物、悪い物があるので使い慣れていないものもある。


ガスコンロは科学世界の品物らしく持ち込みは禁止。


なのでその代りに火打石を持ってきた。石と言っても鉄材だが…


枯葉、枯れ枝を集め、着火用の麻紐を(ほぐ)しながら彼女を確認した。


どうやら気になるようでこちらを見ている。


(まあ初めはそんなもんだよな)


施設でも無理に距離を詰めようとすると逃げられた経験がある。


(あいつらを思い出すな。元気かな?)


魔法世界に来て数週間。故郷を懐かしむ日が来るなんて考えたことがなかった。




火を起こし、あらかじめ川で汲んだ水で紅茶を作っていると彼女が出てきた。


匂いが強い物を選んで持ってきたが、こんなに早く出てくるとは…


「はじめまして」


声をかけると警戒され洞窟へ戻ったが、またすぐに出てきてくれた。


「あ~…う~あ~…」


やはり言葉というものを知らないようだ。でもかろうじて出せる声で話しかけてきてくれた。


あの時顔をしっかり確認しなかったが、思っていたよりもずっと幼い顔をしていた。


しかも左右で瞳の色が違う。たしかオッドアイと言ったか?


(いくつだ?)


亜人は人種(ひとしゅ)よりも野性的な環境で暮らすため、子供である期間が短いらしい。


実年齢としては二歳くらいだが、見た目はトウヤと同じくらいの年齢に見える。


「トウヤです。よろしく」


握手を求めるように手を差し出すと怖がられたが、人に興味があるようで指で突いたり触れたりを繰り返えされた。


「とー…や?…えす??」


「トーヤ」


もう片方の手で自分を指しながら名前を言う。


「とー…や?」


彼女の答えに無言で頷く。


「とー…や。…とーや…とーや」


そう繰り返して言うと、身体中の臭いを嗅いできた。


「え!?あ、ちょ…」


スンスンと嗅ぎ続けられると非常に恥ずかしい。


一通り嗅ぎ終わると、今度は体を密着させるように抱きついて来た。


(!?!?)


見た目によらず非常に女性的で驚いた。“魅了(チャーム)”が無くてもファイゼンは喜びそうだ。


(ああ、でもこの人も同じ物を求めていたんだな)


昔施設に入ったばかりの頃、シスターに同じことされて恥ずかしかったが嬉しさもあった。


(同じ人同士の温もりって、本能で求めるものなのかな?)


抱き合う、つまりハグは魔法世界でも言葉に出来ない強い力があった。


今まで目の前で石になり、灰になり消えていった物を、彼女はようやく手に入れることが出来た。




ぐぅぅ~


ふと鳴った音で、慌ててお腹を確認したが、どうやら自分ではなかったらしい。


音の発生元は彼女の方だった。


案の定、飢えに苦しんでいたのかもしれない。


子供である間はある程度食事をとらなくても生きていけるようだが、

彼女の場合その間に全く口にしていない可能性があり、餓死寸前まで来てるかもしれないと思っていた。


そのため無理を言ってここまで来たが、少しは当たっていたようだ。


当の本人は気にせず動かなかったが、トウヤは動き出した。


「あっ、ああ」


「待って。ちょっと待って」


手の平を見せ、抑止の合図を見せる。これは彼女も使っていたので理解できるだろう。


しっかりと止まってくれたので紅茶と携帯食を取り出す。


「たす…けて…」


「え?」


急に彼女が言葉を発した。


「たす…けて…たすけて…たすけて!」


「たすけて?何があった?」


周りを確認したが何かいる様子はない。


「たすけて!ああああ!」


そう叫ぶと、彼女はトウヤから逃げるように走り出した。


「何が?ってか離れるな!」


追いかけねば、せっかく無効化している結界がまた現れる。


仮に誰か近づいていたら石化しかねない。


トウヤは急いで彼女を追い掛けた。


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