表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
それは甘く蕩けて灰になる
62/304

生物が死んだ森

足取りがはっきりわかる川辺から探索することにした。


川は思ったよりも広く、所々深そうな場所がある。


と言っても最大で30cmくらいだろうか?川底がはっきりしているので深くないことはわかる。


それにしてもなんて綺麗な川だ。この綺麗さはやはり結界のお陰だろう。


生物を石化し、砂にする結界。つまり魚や微生物などの水生生物も全て砂となっている。


何もない。だから綺麗。歪んで作られた世界にも、こんな一面があるとは。




すこし辺りを探索すると、折れた枝を見つけた。


何かが落ちて折れたわけでもなく、朽ちたわけでもない。


彼女が通ったから折れたのだろう。


折れた箇所もまだ綺麗で真新しいように見える。


ごく最近、彼女が通ったのだろう。


それを頼りに、森の奥に進む。


「うお!?」


地面が思ったよりも柔らかかった。


朽ちて落ちた葉がクッションのようになっていた。


本来、微生物によって分解され土になる落ち葉も、結界の効果でそうならない。


ボロボロの繊維だけが網のように積み重なっているのだろう。


心なしか、森も朽ちているように見える。


生物に依存していた物が無くなったことで、森の植物の栄養も不足しているのだろう。


「生物も自然の一部なんだな」


植物も生物もお互い支え合って生きている。それが出来なくなったらどちらも滅するのを待つだけ。


意外な魔法で世界の成り立ちが解かった気がした。




「くっ!…はぁ…はぁ…」


彼女の痕跡がわからなくなって、どれだけの時間が経っただろう?


鬱蒼(うっそう)とする森の中を右も左もわからないまま歩き続けた。


歩き慣れない道なき道。大きな木の根は進行を阻み、変化の無い景色は方向感覚を狂わせた。


「はは…目印置いとけばよかったな」


生憎、そのような物は持っていなかった。


中にいる彼女が歩いてるのだから、自分も歩けるなんて大間違いだった。


ずっとここで生活する彼女にとって、見慣れた景色を歩くのは造作もない。


対してトウヤは初めて歩く場所だ。魔法があれば簡単だが今は使えない。


「ちくしょう、こっちで合ってるのか?」


日の光を頼りに歩いているが、抜け出すことも出来ない。


時間は確か、昼ぐらいだったから、こっちが南か?


いや地球の常識は、ここでは通用しない。


せめてそれだけでも調べとくべきだった。


今さら後悔しても遅いので、諦めてただひたすら歩くしかない。




ふと、森にふさわしくない物が目に入った。


確認しに拾うと、それは男物の服だった。


「そういえば…彼女も男物の服を着ていたな」


初めて彼女を見た時に違和感を持ったのを思い出す。


「彼女の私物か?」


いや、森にいた彼女が洋服を手に入れることは無いだろう。


となるとこれは…


「被害者の物か」


石化の被害にあった人達。石化で体は無くなったが、こうやって着ていた服だけ残っているのだろう。


そしてその服を彼女が着ている。


生まれた瞬間からこの石化の能力が暴走した彼女は服を着る機会が無かった。


そして稀に見かける自分に似た生物が着ていたものを、

見よう見真似で着たところ、快適な生活に変わった。


だから身に着けている。


相手を見て、良いものを自分に取り入れていく。


「…もしかして……彼女は…」


ある考えが浮かんだ。


となると説得はもっと簡単かもしれない。


そう思うと早く彼女の元へ急がないと。


疲れた身体を奮い立たせ、また歩き始めた。


早く。早く彼女の元へ行かないと。


焦る気持ちを抑えながら、彼女の捜索を続けた。




今はどのあたりだろうか?


しばらく彷徨(さまよ)い続けると、地面が盛り上がり、洞窟っぽいものが見えた。


「もしかしたら…」


洞窟は雨風を凌ぐのにはちょうどいい。


つまりここを拠点としている可能性が高い。


急いで近づき、中を確認したが彼女は居なかった。


その代わりあったのが、綺麗に整えられた男物の服だ。


この森の中でこんなことが出来るのは彼女の仕業だろう。


つまりここは彼女の拠点であることは間違いない。


「くそっ。どっか行ってるのか」


監視してた時も彼女はよく動いていた。


だがここに戻ってくるのは確実だ。


ここで待てば確実に接触出来る。


となると厄介なのがAMSになる。


近づくだけで魔法を打ち消すので、トウヤが接触してなくても近くにいるだけで結界が消える可能性がある。


それを見た瞬間、ポーラ達が範囲内に入るかもしれない。


そしてトウヤを見て逃げ出した彼女が、偶然AMSの範囲外に出たら、ポーラ達が石化してしまう。


これを避けるためには、彼女が逃げないように接触しなくてはならない。


洞窟はそんなに深くない。


なら洞窟に入った時にトウヤが入り口に立てば、彼女の逃亡を防ぎつつ接触できる。


となると、少し離れたところで身を潜めて様子を伺うべきだろう。


トウヤは洞窟を見渡せる位置に身を潜め、彼女の帰りを待つことにした。


しかし今まで慣れない道を彷徨(さまよ)った影響だろうか?潜めると同時に眠りについてしまった。




「チッ、おっせぇな。まだ接触出来ないのか?」


ただ待つだけの状態にリーシャは耐えられなくなってきた。


「広い森を魔法も無く彷徨(さまよ)ってるんです。時間がかかって当然です」


レナの答えは淡々としている。


「でも真っ直ぐ行けばいいんだから問題ないだろ?」


「映像で見る限り、かなり鬱蒼(うっそう)としています。道無き道を進んでいる可能性があります」


「チッ、ジッと待ってるのも何だ。少し体動かしても問題ないだろう」


「結界の急な拡大には気を付けてください」


「ああ、わかってる」


リーシャはそう言い、近くの大きな岩を持ち上げた。


「……」


「……なんだ?何か言いたげだな?」


「いえ…すみません、まだ見慣れなくて」


リーシャが持ち上げた岩は、体格の十倍以上はあるように見える。


それを易々と持ち上げ、上下に動かしている光景は、見慣れなければ驚くだろう。


「そう言えば最近だったな、あんたがうちらの担当になったの」


「…はい」


「うちの面々には驚くばかりってか?」


「いえ、お噂は常々聞いております。…でも驚いているのは事実です」


「はは、そうだな。うちも驚いているよ。特にトウヤにはな」


「…はい」


「噂よりもずっと甘ちゃんだ。むしろ危なっかしさのほうが強い」


「はい…早死にするタイプだと思います」


「でもそっちの方が好感が持てるんじゃねぇか?」


「え?」


「冷徹非情よりも助けたいって言って頑張っているやつの方が好感が持てる。

もちろんやり過ぎも良くないが、人のために頑張ろうってやつは応援したくなるだろ?」


「は…はい。でもそれが演技ってことは…」


「それは自分で判断しろ。自分の目で見て、自分の頭で考えて、確固たる証拠を示せ。

それが出来ないならただ否定するだけのやつに成り下がるぞ」


「…はい」


「まぁ気持ちは解らなくはない。でも何に対してもそんな風に疑うと何も信じられなくなるし、

必要なタイミングでの判断を鈍らせることになる。早めに解決させておけよ」


「しょ…承知しました」


まだトウヤを取り巻く環境は厳しい。そんな中で厄介ごとを持ってこようとするとさらに厳しくなる。


それをわかって仲間として迎えたが、苦労は多そうだ。


(せめてもの救いは、噂よりも甘い性格かな?)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ