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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
それは甘く蕩けて灰になる
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大虐殺

五年前


前任の町長は若くして高い人気を有していた。


町を守るという多忙の中、民一人一人に心を砕き、適切な助言をすることで民から慕われていた。


そしてこの頃は人間と魔物の混血と呼ばれる亜人、魔族と交流があった。


少数ながらも未知の力を持つ魔族は医療にて高い実績を持ち、民たちから受け入れられていた。


ある日、町長が原因不明の病に倒れた。


それは奇しくも町長から重大な発表が行われる日でもあった。


治療は懸命に行われ、そこには高い医術を持つ魔族も加わったが症状は一向に良くならない。


そして数日後、治療の甲斐なく町長は息を引き取った。


町は悲しみに暮れ、来る日も来る日も町長の墓へ訪れる者は後を絶たなかった。


あまりにも続く悲しみの中、前町長の弟である現町長は魔族の一人の女性に言い放った。


「お前が…お前が兄貴を(たぶら)かすようになってからおかしくなったんだ!

兄貴がお前と婚約すると言った時から、体調を崩していった!お前が何かしたんじゃないのか!」


実際、その女性は兄と恋仲であり、兄からもそう言った話を聞いていた。


しかし……


ただの八つ当たり。それは本人もわかっていた。


ただ悲しみに打ちひしがれるなか、何かに当たらなければ気が済まなかった。


ただそれだけだった。


しかしそれを聞いた者はそれで終わらなかった。


「魔族の女が町長に何かした」「魔族が町長の地位を狙い殺した」

「魔族が町長を殺した」「町長が死んだのは魔族が原因だ」


悲しみに打ちひしがれる民衆に、根も葉も無い噂が広まるのに時間はかからなかった。


そして民衆がとった行動は町長と同じく当たらなければならない気持ちをぶつける事だった。


冷静に考えれば浅はかで間違いなのは誰にでもわかる。


だがそれを抑えることは誰一人として出来なかった。


そしてそれは暴徒となり、魔族を皆殺しにしていった。




町長は頭を抱え、震えながら話してくれた。


この人たちは五年という月日が流れても、あの日の過ちという十字架を背負い続けている。


「それで…その話と今回の事件、どのような繋がりがあるのですか?」


重苦しい雰囲気をかき消したのはポーラだった。


「サテラだ!サテラが生きていたんだ!」


ポーラの問いに町長は叫び声で答える。


「殺される…サテラは私を…殺される……」


また頭を抱え震える町長。


「サテラとは?」


「……前町長と仲の良かった…魔族の女性です。……映像の女性が似ているんです…」


町長の代わりに答えたのは、まだ冷静さを保てている補佐役だった。


「似てるんですか?」


「はい…あと魔族の医術に石化による再生術があります」


「再生術?」


「患部を石化させ腫瘍などを取り除き石化を解くと、細胞の再生が起こり、治すことが出来るんです」


「え?石化って解けるの?」


トウヤは思わず驚いてしまった。


「…一応、かける魔法があれば解く魔法も存在するのが魔法よ」


「そうなんだ」


また一つ勉強になった。


「で、そのサテラという方は小柄だったのですか?」


「い、いえ、ちょうどあなたと同じくらいです」


ポーラの身長は170cmに少し届かない程度。小柄とは言えない。


「なら別人です。映像から見ると推定140cm後半。ちょうどこの子と同じくらいです。

見た目からは大人か子供かはわかりませんが、行動からして大人に思えます。

なので別人ではないのでしょうか?」


「本当か!?本当にサテラじゃないのか!?」


町長はポーラの肩を掴み、必死に確認した。


「私達はサテラという女性を知らないので確証はありませんが、お話を聞く限り皆殺しになったのでは?」


「サテラだけは!サテラの遺体だけは見つかっていないんだ!」


「なら五年もの間、何もしなかったのはなぜですか?あなたを恨んでいたならすぐに復讐しているはずです」


「そ、それは…ならなぜあんなのが森にいるんだ!」


「それを調べるためにも、出来る限りの情報を私たちにください。そして被害が出ないよう最善を尽くします」


「魔法が砂になるのに?!どうやって!」


「こちらには科学世界の武器がいくつかあります。

魔法と無縁なら結界に反応しないことがわかっていますので、いざという時はこれを使って対象を殺します」


「……」


ポーラの説明にトウヤは反論したいが、町長が黙ったのでそれで良しとする。


「…魔族が最後に逃げたのがあの森の近くです」


町長よりも冷静に装える補佐役は説明してくれた。


「仮に生き延びていたならば、あの森に潜んでいてもおかしくないのですね?」


「……はい」


「魔族が使っていたのは石化を利用した再生魔法だけなんですね?」


「…私が知る限りはそうです」


「他に生活習慣や生態とかで変わったことは?」


「彼らはあまり食事を必要としてなかったです。誘えば一緒に食べてましたが、他では見ませんでした」


「それは魔族全員でしたか?」


「…はい」


「……」


「……」


結局一番欲しい情報が手に入らない。


「亜人は私達と比べて変わった魔法を使う場合が多いから、まだ情報が欲しいですね。

私も魔族という存在は知ってるけど詳しくは知らないですし、

ファイゼンを襲った魔法の正体もつかめないまま接触するのは危険です。

トウヤの言うあの女性を襲いたいという感情だけじゃ何の魔法か断定できないし」


「となるとまた監視と調査しかねぇか。うち、そういうの苦手なんだよな」


「なら地球に行って武器の調達する?」


「う…まあ仕方ねぇか」


「俺も地球に行って武器の調達か?リーシャ一人だと大変だろうし」


「いや、トウヤは森に行け」


ふと会話に男が割り込んだ。


「ファイゼン!?大丈夫なの?」


「ああ、まだボーっとするがな。あの人と話せるのはトウヤだけだ」


「どういう事?」


「あの時、あの結界の他にもう一つ魔法が出ていたんだ。それに対抗出来るのはトウヤしかいない」


「いったい何の魔法なの?」


「“魅了(チャーム)”だ」


「え!?あの禁止魔法の?」


「ああ、症状がよく似ている」


「待って!だとすると辻褄が合わなくなるわ」


「ああ、もしかしたら俺たちは勘違いしていたのかもしれないぞ」


そしてポーラは一つの可能性にたどり着いた。


「もしかして…暴走してるの?」


「暴走って暴れまくるんじゃないのか?」


「いや、暴走には二種類あるんだ」


トウヤの問いに対してリーシャが説明する。


「暴走にはお前もなった破壊衝動に襲われる“獣の暴走”と、自覚も無く起こる“静かな暴走”があるんだ。

前者はよく知ってる通りだが、後者はその人の能力が常に発動している状態になる」


「その“静かな暴走”が“石化”と“魅了(チャーム)”ってこと?」


「そうなるな。石化は結界として見ることが出来たが、魅了(チャーム)は見ることは出来ない」


「そうね。だとするとトウヤだけってのも納得ね」


「どういうこと?」


「たぶん、まだ子供だから効果が薄いんだ」


「いやいや、女同士でも効果ないだろ」


魅了(チャーム)に男も女も関係ない」


「あ…そうなんだ…」


「……大人になればわかるよ」


知らない方が幸せかもしれない。


「じゃあ、その暴走を止めれば彼女と接触できるんだな」


「いや、事態はもっと最悪かもしれないぞ」


「え?どういうこと?」


「俺の記憶だけじゃ思い違いかもしれない。映像を見ながら確認させてくれ」


この最悪な事態ならば彼女の命を絶つしかない。ファイゼンはそう考えていた。


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