石化
「ふあ…あぁ~…」
「もしかしてお眠かにゃ?」
「…っぽいな」
魔法世界に来て、地球の時間の感覚が狂ってしまっている。
そのため、眠くなったら寝る。そんな生活をしていた。
「移住しても元の国の時間通りに生活する方がいいにゃ」
「…それリンシェンが言えるのか?」
「んにゃ!どういうことにゃ!」
「この前も数日徹夜して研究してなかったか?」
「……ん~…おいらはにゃ~んも知らにゃいにゃ~」
「嘘へた!!」
仕事中とは思えないほど和気藹々としていた。
「こぉら!新人君たち、気が緩み過ぎだぞ」
通信の会話にもう一人加わる。たしか名前はウィンリー・マーキュリーと言ってたな。
クエストには必ず支援部隊がいて、局内から様々な情報提供や記録を行っている部隊がいる。
その一人、ウィンリーはポーラたちと付き合いが長く、支援に付くことが多いらしい。
「真面目に仕事しないと、リーシャに報告しちゃうぞ」
「うにゃぁぁぁ!それはダメにゃ!!」
「…そんなに怖いのか?」
「地獄の鬼にゃ」
「記録しました。(ハート)」
「うにゃぁぁぁ!消すにゃ!今すぐ消すにゃ!!」
「真面目にお仕事しなかった時の保険です。(ハート)」
「ひぃぃぃ!」
「と言っても結界の周りに何も無いように見えるな」
「局のレーダーにも生物の反応は森の中に一つだけよ。その報告に会った女性だけのようね」
「ってことはこの結界の効果って表面だけなのか?それとも術者には効果が無いのか?」
「そうね、なぜ彼女だけが中で生きてられるか不思議ね」
彼女が悪意を持ってこの結界を作っているなら犯罪者として狙撃で殺せば済む。
しかし何かしらの事情があるなら彼女は一般人、もしくは被害者だ。
迷惑だから殺すなんて横暴な真似は許されない。
このクエストの難しさを改めて痛感した。
「あれ?何か近づいてる?」
「え?」
「東南…町の南側からその森に何かが向かってるわ」
「あっちか」
「これは、鳥のようね」
「ねぇ、鳥も魔力を持ってるんだよね?」
「えぇ。動物はみんな魔力を持ってるわ」
「その鳥、結界の中に入るかな?」
「うにゃ、観察してみるにゃ」
向かうと言っても近づくと鳥が逃げるので、遠くから観察するしかない。
「あの鳥かな?」
「えぇ、位置も合ってるわ」
目測で結界まで10m。鳥は結界に近づいて行く。
そして…
ピシ。
結界内に入ってしまった鳥は石となってしまった。
「やっぱり動物はみんな石になるみたいだね」
「そのようだにゃ」
飛んでいる最中に石になった鳥はそのまま落ちていく。
しかしその鳥は地上に落ちることはなかった。
突然ボッという音を発すると共に砂となって消えてしまった。
「見た?」
「見たにゃ」
「記録出来たわ」
確認のために魔法でボールを創り、結界内に投げる。
結界を突き抜けた直後にボールは石になったが、さらに奥に進むと砂になって消えていった。
「まさか…二重に結界があるのか?」
「いや…強くなってると言った方が正しいかもしれない」
「どういうこと?」
「ポーラが話してた石化の呪いは聞いたわね?」
ウィンリーは石化の仕組みを解説した。
石化とは、動物の体内に吸収された魔力が石に変化し、固まってしまうことである。
魔法の研究で魔力とは別に“魔力”と呼ばれるものが発見され、
この二つはどちらも魔法を使うエネルギーとなるが、ほんの一部分だけ違うのもだとわかった。
その違いとは、魔力は“魔力”に動物性たんぱく質が結合された状態という違いだ。
“魔力”だけだと魔法エネルギーに変換させることは難しいようで、
動物は皆この魔力の状態に変換し、それを魔法エネルギーとして使用していることがわかった。
そのため動物だけ魔法を使い、植物は魔法を使わないという現象が起きているのだ。
動物が発する魔法には、魔力が帯びているため魔法にも石化の効果は発生する。
そしてこの石化が進むと、風化して脆く崩れていく。
「だから森は何ともないし、石化した人たちも全て砂になったから発見されないのか」
「おそらく、だけどね。でもほぼ間違いないかもしれないわ」
「でもにゃぜこんにゃ結界を張ってるかまではわからにゃいにゃ」
「…もしかして…誰かから身を守ってる?」
「え?」
「内側に進めば進むほど強力になるってことは、入って行けないようにしているんじゃないのか?」
「そうなってくると討伐じゃなく、保護しないといけなくなるわね」
「うにゃ、とにゃると町長に聞くことが出来たにゃ」
「そうだな。この結界がいつからあるか、そしてその時に何が起きたかだな。
あと中の女性に保護しに来たと伝えるべきだな。そうしないと保護のしようが無い」
「そうね。でもまずはトウヤ君。休んでおかないと何も出来なくなるわよ」
「あ……」
事件が発展したことで眠気を忘れていた。
「準備も必要だから、とりあえず拠点に帰還しないとね」
「ああ、わかった」
こうして一行は帰還した。
トウヤが休んでいる間に一通り必要な物資が届いていた。
紙に、それを固定する杭、メッセージボードなどなど。
中の女性に救助に来たことを知らせる手段を出来る限り集めていた。
「お?起きたか」
「おはよう。ポーラとリーシャはまだ無理そうなの?」
「ああ、やっぱり酷いな」
「何でファイゼンは症状が軽いんだ?」
「そりゃ男だからじゃね?」
「どういう事?」
「男は女性より魔法の感覚が鈍いらしい。だから軽いんだよ」
「……」
トウヤはリンシェンを見る。
「うにゃ!おいらはおんにゃにゃ!」
「中身は男かもな」
「うにゃあ!心外にゃ!傷ついたにゃ!」
「俺は何も言ってないぞ」
「ちょ!?トウヤ!?」
わちゃわちゃしているところに軽く咳払いが入る。
「揃ったなら……町長の話の共有と現状の報告を…お願いね」
念話でポーラが話しかけてきた。
「ああ。まずはトウヤとリンシェンの調査から、結界が二重構造であることがわかった。
第一層で動物が石化し、第二層で石化したものが砂になるって感じだ」
リンシェンとトウヤはファイゼンの説明に頷く。
「そのことから中にいる女性は外敵から身を守る為にその結界を作っていると言う推察だ」
「あと、そのことから行方不明になった人達はみんなその結界の被害にあったと考えている」
「現状……その可能性が高いと…考えるのが妥当ね」
「んで、中の女性を説得するために石化しないメッセージ類を手当たり次第用意したってところだ」
「こにょ国で作られたもにょは石ににゃるかわからにゃいしにゃ」
「最終手段は科学世界の物を使う予定だが、どれかは使えるだろう」
「それで……町長さんの話は?」
「それが心当たりが無いって言うんだ。何人かに聞いて回ったがみんな同じだ」
「そうなのか?何か隠してるってことは?」
「そんにゃ様子はにゃかったにゃ」
「いや、俺は隠してると思うぞ。リンシェンはそういうの鈍いだろ」
「うにゃ!そんにゃことにゃいにゃ!」
「まあどちらにしろ、このメッセージを置いて出てきてもらうのが先決だ」
「そうだな」
「とりあえず、リンシェンはそろそろ休みの時間だ。俺とトウヤで置いてくるよ」
「動けるの?」
「まぁなんとかな。これぐらいは大丈夫だと思うよ」
今度は男組が向かうことになった。