外伝:メイドインジャパン
「みんな…じゃないか。リーシャとリンシェンは?」
訓練場に行くとポーラ、ファイゼン、セレス、ティアがいた。
「A地区よ。リーシャがお気に入りの修行場なの。
そこにリンシェンを無理やり連れて行って修行してるの」
「…お気の毒に。リンシェンは繰り返し練習とか苦手そうだから地獄だろうな」
半泣きで修行しているリンシェンの光景が目に浮かんだ。
「そうだ、ついでにデバイス出して。カートリッジ交換してなかった気がするからさ」
「え?カートリッジ?」
聞きなれない言葉に四人の頭に疑問符が浮かぶ。
「あー、もしかしてこっちにないのか?非常用外部装置みたいなの」
「デバイスにそんなのないよ。…ってこれもしかして魔力無しでも使えるの!?」
「ああ、いざという時はカートリッジに溜めた魔力を使って逃げれるぜ」
「「はあ!?」」
魔法世界の常識を超えた機能だが、理屈は理解出来る。
それをトウヤは実現させてしまっていたのだ。
「私にも創って!」
セレスはトウヤの肩を掴み必死な顔で言う。
あまりにも必死な顔にかるく引いてしまったが、トウヤは
「ああ、いいよ。元々みんなに創ってあげようと思ってたし」
と快諾した。
デバイスを受け取り、柄を交換しようとするとまだカートリッジが残ってることに気付いた。
「カートリッジを知らなかったってことは、ロードもまだしたことないのか?」
「そんな機能があるとも思ってなかったからないわよ」
「性能がだいぶ違うみたいだから、実際に使って見せた方がいいか」
訓練場なので的としての岩などがあちらこちらにあった。
「お願い、見せて」
と言われたので準備した。
「ねぇ、私のにもカートリッジって言うのが入ってるの?」
ティアが二丁銃のデバイス“ミラージュ”を見せてきた。
「ああ、弾倉部分がそうで、砲撃の種類を変えられるんだ。
それに一つに合体出来るし、短剣にもなるよ」
「うそ!?そんなに機能があるの!?」
実質何丁もの銃の機能と同じものが、このミラージュには入っているのだ。
魔法の銃は実弾を使わない分、同じ大きさでも中に余裕が生まれる。
そこに機能を詰め込まない理由は無い、というのがトウヤの考えだ。
「やばい…やばいやばいやばい、超いいデバイスなんですけど!」
ティアはミラージュを両手で天高く掲げ恍惚の笑みを浮かべる。
「トウヤ君ありがとう!」
そう言いながらティアはトウヤを抱きしめようとしたが、躱されてしまった。
「準備できたから下がってて」
「え?あ、はい」
(あれ?何か私避けられてる?)
そんな思いがティアを過ってしまった。
準備できたと言っていたが、戦闘状態にならなかった。
「まだ開の状態よね?」
ポーラが強で目に魔力を集中させ、トウヤの魔力の流れを確認していた。
「そうだな。何かあったのか?」
ファイゼン達も同じように確認する。
デバイスを使うなら発の状態から纏でデバイスに魔力を纏わせ使う物と思っていた。
が一向にその状態にならない。
「いくよ。よく見ててね」
いよいよ始まるがまだ開の状態だった。
「バルディッシュ!カートリッジ、ロード!」
そう言うとデバイスからガチャンと機械的な音が発せられ、魔力が発せられた。
「デバイスから魔力が!?」
そう驚くと共に初めて見る光景に目を疑った。
トウヤは開つまり魔法を使う準備だけして何もしていない状態だが、
デバイスには魔力が纏わった、纏の状態だった。
つまりデバイスは魔道士の状態に関係なく、戦闘状態になったのだ。
「ザンバー…」
トウヤはそう言いながら薙ぎ払う構えをとる。するとデバイスは斧から鎌に変化し、魔力の刃を出した。
「シュート!」
そう言い薙ぎ払うと、大きな魔力の刃が前方に飛び、岩を切断した。
「…う……そ…!?」
デバイスは纏が解除されると、先端からプシューと熱気を放出した。
衝撃的な光景だった。本来は魔道士がやることを、デバイスの能力だけで済ませてしまった。
今はわかりやすいように発をしなかったが、
通常の戦闘では魔道士からの発、纏、そして強化魔法の効果が加わる。
その状態での破壊力は、この比じゃないだろう。
「な、なんてもの創ってるんだよ…」
「必要な時に十分な力が発揮できないなんて、よろしくないだろ?」
驚くファイゼンをよそに、トウヤは飄々としていた。
「このやり方は何処で学んだんだ?」
セレスが素朴な疑問をぶつける。
「地球の漫画だよ。俺のいた日本って国は漫画なんかのカルチャーがすごくて、世界中に発信していたんだ。
その中の作品のいくつかから魔法のインスピレーションの参考にしてるんだよ」
「その本欲しいな」
「…ジュリア先生も同じこと言ってたから順番にな」
祖国の物が魔法世界でこんなにも需要があるなんて知らなかった。
カートリッジの取り換え方を教え、予備をいくつか渡した。
「一応魔力に差は無いと思うから、普段から自分で溜めておくようにしてね」
ポーラとティアに操作と注意点を伝えると、後ろから力強く肩を掴まれた。
「わ…私のも早く創って!!」
二人だけ優遇された状況に、セレスは焦り始めていた。
「わかったから順番ね!そんなに簡単じゃないんだし、俺用のを渡しただけのとは違うから!」
確かに、ポーラやティアのデバイスは少し小さい。
トウヤと身長が十数cm違う分、適したサイズが違うのは当然だ。
「今日はこれで我慢して」
そう言い取り出したのはリングっぽい物がいくつもあった。
「何これ?」
「アンクレット型のデバイスだよ。これをみんなにあげようと思って」
そう言いリングを全員に二本づつ渡した。
「なんの効果があるの?」
さっそく身に着けながらティアは問う。
「ポーラに飛行魔法とは風で体を浮かしてるって聞いてね、駆が使えるデバイスを創ったんだよ」
「何でそんなことを?」
「風で浮かせるなんて、突風が吹いたら制御できないだろ?」
「たしかに」
魔法世界に地球で言われる飛行魔法というのは存在しない。と言うよりどういう力で浮かせてるか説明が出来ない。
イメージすることが基本の魔法にとって、地球の飛行魔法のイメージは妄想の域を出ないのだ。
「駆ならば空間を切り取って操作するから天候に影響されなくなるよ。
さらに反重力魔法も付けたから、近場なんかはジャンプで行けるぜ」
「な…なに~!?そんな良いの貰っちゃっていいの?」
「ああ、武器のデバイスが完成するまでは、それで我慢してくれ」
新しいデバイスを手に入れたセレスはルンルン気分だった。
「それとそっちの修正だけど、バルディッシュはカートリッジ二本分、
ミラージュは銃創とグリップを少し大きくするだけで良さそうかな?
あと細かい修正とかあれば、都合がいい時に修正するよ」
「か…完全に武器屋の職人芸だな」
「もしかしたら…そういう仕事が向いてるのかもしれないわね」
「それもその日本って国の影響なのかな?」
のちに日本の漫画とアニメ、職人たちが作った道具が魔道士たちの間で流行ったのは言うまでもない。