嵐の前のギルド
「確かに言われればそう見えるな」
「翼に見えたのも全て魔方陣だったの。まさかあの暴走で解かるなんて」
「じゃあ、この映像に映ってる天使って人間なのか?」
「まだ確証が無いわ」
「だが犯人が他にいるってことは間違いないだろ?全員がこんな翼を身に着けるなんて他人の力だろ」
「そこは私も同意見よ。手足や体を操りやすくするために翼状したのでしょうね」
「何のために…」
「ここからは私の推測だけど、この時は実験段階なのかもしれないわ」
「実験!?こいつら全員実験動物だと言うのか!?」
「現段階でどれだけの能力を持っているか検証したとすると納得がいくわ」
「俺たちは餌だったってことか。…くそがっ!」
「悔しい気持ちは解るけど、今は堪えて。そしてこれからが本題よ」
「……実験はまだ続いてるかもしれないと言う事か」
「ええ。そして昔よりも凶悪になっている可能性もあるわ」
「だがそんな報告上がってねぇぞ」
「……上げられないんじゃないかしら?」
「!?」
「そこでお願いがあるの」
「ああ、秘密裏に動けってことだろ?」
「ええ。一人じゃ大変だから何人か連れて行って。人選は任せる」
「わかった。セレスには言うなよ?」
「ええ。今のあの子じゃ荷が重すぎるわ」
「それもそうだが、まだ突っ走るかもしれねぇからな」
「今回の暴走も、あの子の余裕の無さが起こしたようなものね。
まあ、その代わりにこうやって天使の新しい情報が手に入ったのだけども」
「ふん、まあ親父としてあいつの不安を一つでも取り除いてやらねぇとな」
「まあ、相変わらず甘いのね」
「娘が可愛くねぇ親父が何処にいる?」
「…親バカ…」
「うるせぇ」
「これはどういうつもりか説明してもらおうか?」
「記載の通りだ。あんな新人に一撃で倒されるなど、いい恥さらしだ!」
「ちょっと!戦いもしなかったあんたらが何偉そうに言ってるのよ!」
「黙れ小娘!貴様ごときが口出ししていいことではないわ!」
「あらあら、ここに座っている以上、皆平等であると言う信念を忘れてしまったようね?」
「ふん、それを良いことに小娘と人形を使っておるお主らが何を言う?」
「ちょっと…!」
「黙っておれ。弱い者ほどよく吠えると言うだろ?」
「な!?詭弁を…」
「一撃で倒れたのは、私の軽率さが招いた事実だ。しかし彼の能力を知らぬお前らが同じ目に会わないと言えるか?」
「当然だ!我々はアルカナフォートの円卓の十三士。どこぞの新人にやられるわけがない」
「それは…ただの驕り」
「んな!?ジュリア!貴様っ!教師の分際で我々を侮辱する気か!?」
「実践…離れれば衰える。実際…戦えない」
「そこらの魔道士より優れている我々が戦えないなどあり得ぬ!」
「そんな戯言よりも、今の状況を見るべきよ」
「あ、ああ。そうだな。いくら屁理屈を並べようと、この結果は変わらぬ」
「我らアルカナフォートの円卓の十三士の決定は絶対」
「ステラ、そなたの退任請求を否定する者は五人。十三士の半数以上が否定せぬ今、引いてもらうぞ!」
「あらぁ?好き勝手やってる豚どもが何を吠えてるのかしら~?」
「は!?」「んな!?」
「うげ!?」「あらあら~」
「遅いぞ、クラリス」
「数年ぶりに参加したから迷っちゃった~。ごめんねぇ」
「く、クラリス!貴様!なぜそこにいる!」
「え~だってぇ~、ステラちゃんを退任させるとか不快な豚どもが吠えてるから駆除したくなっちゃった」
「き、貴様ぁ!」
「へぇ?豚が私に噛み付こうってって言うの?」
「くっ」
「ま、待て!それでもまだ足りないはず…!?」
「ふみゅ!」
「あらあら、ルミちゃん、大丈夫?」
「ふぇ?だいじょ~ぶれす。おししょ~さま、ありがと~れす」
「ああ!私の可愛いルミちゃん。健気で良い子ね」
「えへへれす」
「クラリスとルミ、合わせて七人。半数は取ったぞ」
「く、クラリスが動くとは…」
「当然よ。ステラちゃんだから私は好き勝手出来るのよ?豚どもはお呼びでないわ」
「貴様はステラと敵対関係のはず!なぜ貴様が!」
「ええ、敵対してるわ。でも協力関係でもあるのよ。お解かりかしらぁ?こ・ぶ・た・ちゃん」
「くっ!」
「これにて、私への退任要求は破棄する。いいな!」
「…ここは引くしかありません」
「チッ!不浄の魔女が!汚らわしい!」
「…ねぇ?今のステラちゃんに言ったわけじゃ…ないよねぇ?」
「?ひぃぃぃぃ!?」
「やめろ、クラリス!数が減ってしまう」
「構わないわ。私の人形で埋めてあげる」
「わ、わたしはあの高貴なる…」
「関係無いわ!私はその上にいるのよ!」
「!?!?」
「やめろクラリス!頼む!」
「…ふぅ、仕方ないわね。ステラちゃんが許したから見逃してあげるわ。さっさと消えて」
「ひ!ひぃぃぃ!」
「んもぅ。ステラちゃん甘すぎだぞ」
「いいんだよ。あんなのに構ってるほど暇じゃないんだ」
「それもそうね。そ・れ・よ・り・も、メルトちゃん久しぶりぃ~元気だった?」
「はい、わたしは変わりありません」
「ああ!ルミちゃんとはまた違う可愛さに癒されるぅ!!」
「ババアが幼女趣味って…怖いわ~」
「あらソニアちゃん、相変わらずちんまいのね」
「!!…コロス!」
「あらあら、無理なことはしないの」
「すまないが、クラリスと二人で話をさせてくれ」
「あらあら?何事かしら?」
「緊急?…なぜ呼ばれない?」
「緊急ではない、あの子の話だ。それと今回の礼もせねばならないからな」
「承知…気を付けて」
「んもぅ、私はいじめっ子じゃないぞ。あ、ルミちゃんも先に帰ってていいわよ」
「ふぇ?わかりました。お先に帰らせていたらくれす。おししょ~さまも気を付けてれす」
「はぁい。あ、メルトちゃんは近々メンテで呼んじゃうから、そのつもりでね」
「?わたしのメンテはまだ先のはずですが」
「新しい錬成陣が出来たのよ。バージョンアップも兼ねてメンテナンスするわ」
「わかりました。準備しておきます」
「よろしくねぇ」
「で?あの子って見せてくれた子よね?何の話があるのかしら?」
「あの子の魔法についてだ」
「ああ、私の上位互換ね。可能性はゼロじゃないとは思ってたけど、まさか会えるとはねぇ」
「危険か?」
「その子次第ね。良く使えば良い魔法、悪く使えば悪い魔法になるのがこの魔法よ」
「うちのメンバーと既に仲良くなっている」
「あら、そうなの?じゃあ好きにさせてればいいわ」
「そうか」
「それにしてもこの子、あのお方に似てる気がするわ」
「あのお方ってまさか…」
「私があのお方と言うのはあのお方しかいないでしょ?」
「まさか関係者か!?」
「それは無いわ。だってあのお方と並べるやつなんてごく僅かよ。地球人に興味を持つとも思えないし」
「そうなのか?」
「そうよ。でももし私の見当違いで、この能力持ちならいいわね」
「いい…のか?」
「いいわ!メスになるわ!」
「……」
「でゅふ、でゅふふ」
「とりあえず、お前の好きそうな魔道士を見つけたから、そいつの映像をくれてやろう」
「ええ、これとあなたの血で協定成立よ」
「なら早く持って行ってくれ」
「はぁ~い。それにしても“創造する神”に出会えるなんて。長生きはするものね」