ルーとミナ2
暴走後、病院で目覚めて一日も経たずに歩き回れるほど回復した。
怪我自体は魔法で治せるので、病院は暴走の反動の昏睡と目覚め後の経過を見るためと言っていたが、
ここまで回復出来るのは予想外だった。
これも地球人からすると優遇された環境であるからだろうか?
動けるなら早く行きたい。そう思いながらある部屋に向かった。
コンコン
ノックをするが返事が無い。しかし中から声は聞こえる。
話し込んでて聞こえないのだろうか?
仕方ないので勝手に開けて入ることにした。
ノックはした。話し込んでて聞かなかったのが悪い。
スッと音も無く扉は開く。さすが貴族様が入る病室だ。ドアさえも一級品なんだろう。
自分のとこはここまで静かじゃなかったなと思いつつ中を確認する。
カーテンで見えないようになってるが、この病室に入院している彼女と、
その彼女の友人が話してる声が聞こえる。
こっちの世界でも女子はおしゃべりに夢中になるんだなと呆れつつ、カーテンを開いた。
「ルー、元気になったみたい…だ…?」
目の前に現れた光景に驚く。
「……」
「「……」」
あまりの光景に完全に時が止まる。
ミナはいつもの格好だが、ルーは服を脱いで座っている。
ミナがタオルを持っていて、そばに桶も見える。そして桶からは湯気が立っている。
ああ、風呂に入れないから身体を拭いてもらってるんだな。と理解した。
「きゃああぁ!!」
そうルーが叫ぶと同時に、ミナが頬を膨らませながら力いっぱいビンタしてきた。
「もういいよ」
そう言い、ドアを開くミナ。まだふくれっ面である。
入るよう促されたので、ビンタされた左頬を擦りながら入室した。
ベッドには入院着を着たルーが腕を組んで座っていた。こちらもふくれっ面である。
「最っ!低っ!レディの部屋に無断で入るなんて礼儀ってものを知らないバカの?」
「ノックはしたぞ。しゃべってて聞こえてないお前らにも非はあるぞ。
それに入ってほしくないなら鍵くらいかけろよ」
ルーもミナもグサリと痛いところを突かれ、反論出来なくなってしまった。
暫く沈黙が続いたが、まだ二人ともふくれっ面である。
「もう十分元気みたいだな」
トウヤが話し始めた。
「ええ、お陰様で。…ってゆうかまず初めに言うべきことがあるんじゃなくって?」
「ああ、怪我をさせてごめん。ぼうそおっ!?」
いきなりミナにど突かれた。
「なに?」
「そ・れ・も・そ・う・だ・が、もっと先に言うべきことがあるだろ」
どす黒いオーラを出しながら歯ぎしりするように言う。
「……タイミングの悪い時に来てすまない」
ルーもミナも微妙な顔をしていたが話を進めた。
「暴走していたときのことだし、魔道士に怪我は付き物だ。誰も気にしてないよ」
「そうね。あたしも勝手に目の前に飛び出したんだから、特にどうこうするつもりは無いわ」
一応許してもらえたことに安心した。
「まあ、それでも何かお礼はさせてよ。と言っても大したこと出来ないけど」
許してもらえたとしても、あの時暴走を止めることに協力してくれた人には何かしらお礼はするつもりだった。
「なら私は今貰おうか」
「は?」
ミナがゲスい顔で迫ってきた。
「どうだった?ルーのか・ら・だ」
「!?」
変なことを蒸し返された。
「ちょ!?ミナ!」
ルーは慌ててミナを止めようとする。
「あー、ルーはもっと食べた方がいいよ」
思いのほかトウヤは平然と答えた。
「「へ?」」
思いもよらない答えにルーもミナも固まる。
「地球でもよくいたが、あまり食べない、食べれない、運動しない人間は子供みたいな体格だったな。
それに比べてよく食べて、しっかり運動するタイプは身体が大きかったな」
トウヤは淡々と地球での経験を述べる。
実際周りは子供ばかりであまり食べれない環境だったせいか小柄な子が多い。同い年のユキもトウヤより小柄だ。
逆に横暴だったあいつらと孤児院とは別の家庭があるシスターは皆体格はよかったし、
一緒に住んでいるシスターも育ちは普通の家庭だった為、立派な体型をしている。
「こっちじゃどうだろうな?リーシャはそういう体質だからしょうがないとして、
食堂で見る人達は引き締まった立派な体型をしてるから、やはり地球と変わりないんじゃないかな。
だとするとやはり食と運動だろう。運動はギルドの仕事である程度賄えるから、残りは食事しかないだろ?」
そう言い終わり二人の顔を見ると、ミナは「そうじゃないだろ」と呆れたような顔を、
ルーは俯きながらプルプル震えていた。
「つーまーりー……」
ルーから低い恐ろしげな声が出る。
「子供みたいな体型に興味が無いってことか!」
そう叫ぶと魔法の砲撃を放った。
ルーが暴れたため、看護師にお説教されてしまった。
部屋は対魔法仕様のため無傷だが、叫び声は遠くまで響いていたようだ。
ルーの病室を出ると溜息が出た。
「なんかルーといると怒られてばかりだな」
「今日は半分君のせいだ」
きっかけはいつもミナのせいだと思う。
「しかし君も普通の男子だな。やっぱりこういうのが好みか」
ミナはニヤニヤしながら胸元の双丘を寄せて見せる。
普段ローブを羽織っているので体型が見えなかったが、そこそこ立派なものをお持ちである。
「…ここじゃ普通レベルだな」
「いや、小柄な方だ。よく観察してるね」
ここではミナより立派な人達が沢山いた。
地球で言う欧米や西洋の人達に近いだろうか?身長も体型もその人達より良いように見える。
「一応知らない人達のことを知っとかないといけないだろ?あと女性ばかりってのも気になるな」
「強力な魔法を使える人は女性が多い。
魔道士を指す言葉に“魔女”ってのはあるが“魔男”なんてのは無いのがいい例だな。
それにちゃんとした体づくりは魔道士の基本だ。健康でないとクエストに行けないだろ?」
「その結果、地球よりも恵まれた体型を得られているってわけか」
地球との文化の違いが見えた。
「で?君はやっぱり大きい方が好みか?」
ゲスな顔でミナがまた聞く。
「さあ?わかんね」
「うわー、逃げたー」
「…大きいと凄いと思うが、そこに拘りは無いんだと思うよ。
現に地球で好意をよせてた子は全く無かったし。相手次第じゃないかな?」
「へー」
そう返事するとミナは
「それって誰でもチャンスはあるってことだよな」
と小声で呟いた。
「なあミナ。もっとこの世界の話聞かせてくれよ」
「ん?ああ、いいよ。でも一応入院中なんだから病室に戻ってからな」
扉の向こうで話していた二人の会話を聞いてしまった。
趣味が悪いのは解っているが聞き流せなかった。
初めは最低世界の魔道士なんてと思っていたが、今は悪くない気分である。
それは彼だから?見た目や偏見で判断しない彼は好ましい。そう思ってる。
(もっと頑張ろう。退院したら修行もし直そう)
少女は軽く拳を握り気合を入れ直した。