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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
局と魔法と原石たち
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猫と獣

スッと影が横切り吸い込まれた二人に近づくと、二人はピタッと止まった。


そして突如吸い込みが収まった。


(何をした?)


状況がまだ呑み込めないが、影の主リンシェンが何かしたようだ。


リンシェンの所からスッと降りるアルフォートの元へポーラは向かった。


「大丈夫ですか?」


「ああ」


アルフォートは無事なようだ。だがセレスはアルフォートに抱えられながら震えていた。


どうやら完全に戦意を失い、恐怖に打ちのめされてしまったようだ。


「あんな姿になられたら、こいつにとっては辛いだろうな」


セレスはもう戦闘に参加できないだろう。


ふと、爆縮が消えるのが見えた。


「アルフォートさんはセレスを安全な所に」


「ああ、俺もティアと動く。前線は任せたぞ」


そう言い残すとアルフォートは後ろへ下がった。


アローニャとステラは既に回収され、おそらく観戦室だろう。今のところあそこが安全だ。


リンシェンはと目を向けると、プルプル震えながらゆっくり降りてきた。


こっちもか?と思ったが、

「なあ!あいつでおいらの実験やっていいか!?あんな強そうなやつ初めてにゃ!」

と高揚したよな笑みを浮かべながら嬉しそうに聞いてきた。


「ちょうど実験で強いやつ探してたんだ!頼む!」


普段のにゃあにゃあ言う喋り方を完全に忘れるほど嬉しそうに頼んでくる。


「あんた、一応仲間なんだから酷い実験とかするんじゃないよ」


「強けりゃ大丈夫にゃ!」


強くなかったらどうなるんだろうと心配になったが、今はそんな心配をしている暇はない。




「ああ……あああ…あああああああ!」


トウヤがもがき苦しむような悲鳴を上げ、耐えかねて地面を叩いている。


魔法で強化された腕で叩いてる地面は割れ、隆起してるところもある。


リーシャは無事だろうか?


さっき一撃を貰ったが、そう簡単に気を失うほど弱くないはず。


近くで攻撃の機会を伺っているのだろうか?


トウヤが動かないうちに念話のチャンネルを繋ぐ。


「リーシャ、無事?」


「ああ、トウヤの後方にいる」


即座に無事の知らせが届く。


「トウヤが動かないうちに戦力を確認したいわ。リーシャ、リンシェンの他は誰がいる?」


「俺とティア、ティーナさんとミナ、アルフォートさんは観戦室に揃った。今から戦局に戻れるぞ」


メンバーを教えてくれたのはファイゼンだった。


「あとあたしも入れるわ。現段階でわかってる彼のデータよ」


ソニアが割って入り自分がまとめたトウヤのデータを全員に転送した。


「やっぱり風打ちが厄介ですね」


「そうね。合わせ技なんてこともしてくれたし。

欠点は距離をとると効果が無くなること、あと接近しすぎると自分にも影響することね。

でもそれを補うものもあるから油断は出来ないわ」




「ああああ…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


突如響く獣のような悲鳴が響く。それと同時に(はつ)による突風が吹き荒れる。


「あれが…トウヤの暴走…なんて禍々しいの」


ポーラは突風に身体が持って行かれそうになるが、なんとか耐える。


トウヤの暴走は初めの頃が可愛く思えるくらいに進んでいた。


どす黒い魔力が身体を包み、まるで黒い獣のような状態になっていた。


「ちょっと、あれを生かして止められるの?」


ソニアはアルカナフォートの中でも戦闘に長けた魔道士。


そして独自の分析で効率よく勝利を手にしている。


そんな彼女が難色を示した。


それは生かして止めることがかなり難しい状態であることが言える。


分析力の高い彼女の言葉は信頼出来る。


魔法を学んだ状態の暴走は無理なのか?生かして止めることは出来ないのか?


そんな後ろ向きな考えがポーラの頭の中を巡っていた。




「暴走を止めるには、魔力を空にする。それか暴走状態から気絶させることにゃ」


突如話に入ってきたのはリンシェンだった。


「ちょ、ちょっと…」


「おいらに任せるにゃ!」


リンシェンはしゃがみ、地面を掴む。


「にゃああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


猫の化物のような叫び声を(はっ)すると、リンシェンの体が魔力の膜に包まれる。


その姿はまるで猫のようだった。肩にはそれぞれ二つの魔方陣、足首の辺りにも魔方陣があった。


(まさか、暴走を真似した?)


同じ獣のような姿、そして(はっ)せられる魔力で肌がビリビリ震えてる。


違いは意識がハッキリあるように見えることだろう。


「にゃあ゛あ゛!」


リンシェンが駆け出す。


(速い!)


ポーラの前から消えたリンシェンはトウヤに攻撃した。


トウヤは盾で防ごうとしたが、リンシェンは瞬時に背後へ回り一撃を与える。


一撃を受けたトウヤは素早く反撃に出るが、構えようとする瞬間にリンシェンの次の攻撃を受けてしまう。


(なんて素早い攻撃だ)


ポーラの目でもかろうじて捉えられるほどである。


「出たなニャンフー」


「あれが話に聞いていたやつ?」


「ああそうだ。一撃は重くないが、動きの重心や支点を狙い攻撃を封じている。

さらに変則的な動きで躱しづらい。うちもかなり苦労したやつだ」


確かに理論上、攻撃される前に攻撃すれば一方的に攻められる。


遠距離なら未だしも、近距離でそれをやるとなると、かなりの洞察力とそれを可能にする身体の動きが必要になる。


「その補助的な役割があの魔法陣にありそうね」


「あいつは操作系だ。そういうのは得意だろう」


「でも長くはもたないんじゃ…」


「多少は良くなったんだがな。本人の気質もあるな」


大量の魔力を(はっ)しながら動いているので、燃費が悪いのは目に見えてわかる。


なので抑えられてる今のうちに、何か対策を用意しなければならない。




「ティア、アルフォートさん。狙撃は出来そうですか?」


「いや、速さが尋常じゃねぇ。さすがに難しいな」


後衛のティア、アルフォートの援護は案の定難しいようだ。


「なら、お二人にはアローニャさん、ステラさんの護衛も兼ねて安全地帯(セーフティ)の保守をお願いします」


「ああ、わかった」


いざと言う時の逃げ道の確保。作戦の第一段階は生き延びることを前提にした最悪の想定から始まる。


「ソニアさんは檻の魔法で動ける範囲を絞ってください」


「は?そんなことしたらあの猫娘ヤバいんじゃない?」


「いいえ、中に入るのはあの二人と私とリーシャです」


「な!?あの化物と一緒の檻に入るとか正気?」


「私達が招いたんです。私達で止めます」


ポーラは強く覚悟を決め言う。


「それにあの子言ってたんです。ああなったら止められないから殺してくれって。

もし殺すなら私達がやります。でもその前に止める、誰も死なずに済むように私達がやって見せる。

それが出来なきゃあの子は安心して魔法が使えないんです。安心して仲間になれないんです!」


仲間として、迎えた本人として、トウヤを助けたい。そんな覚悟が見えた気がした。


「はぁ。あたしは一応止めたからね。どうなっても知らないわよ」


ソニアは呆れながらも了承した。


「仲間っていうなら俺も入れろよ」


ファイゼンもポーラの作戦に加わる。


「あんたじゃ戦闘の…」


「仲間だろ?」


言い返せない。


「うちはあいつに貸しがあるんだ。前しか見ないぞ」


「支援型が前線に立って、どうなても知らないよ」


「なんとかするさ」


檻の中に入る人間は決まった。


「ソニアさんは檻の維持。ティーナさんは檻の強化。ミナは二人のサポートをお願い」


「ああ、わかった」


「がんばってね~」


作戦のそれぞれの役割が決まった。


「そういえばルーは?」


もう一人一緒にいたはずの魔道士を思い出した。


「あいつは無理だから置いて来た」


「え?」


ミナの意外な発言に疑問符がついた。


限定条件下で無類の力を発揮するルー。この作戦にはその条件が揃っているように思える。


しかし彼女の友人のミナは無理だと判断した。そこに疑問を感じた。




(ルー、君には覚悟があるか?皆を守る為に彼を殺すと言う覚悟が)


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