とある魔法世界の科学教室
「超電磁砲は電気で発生する磁力の引力と斥力を使い、金属を飛ばす砲撃にゃ。
金属はおそらく鉄かにゃ?それを冷却することで磁力の効果を強め、
そして電気で作った帯状のレールで加速させて飛ばすにゃ」
説明がザックリ過ぎていまいちピンときていない人数が多いようだ。
リンシェンもどう説明すればいいか悩んでいる。
というより科学の知識のない人間に説明しろと言うのも酷な話である。
「ま、簡単に言えば磁石の引力を使って高速で飛ばしてるってことね」
ソニアの言葉で全員なんとなくのイメージがついたようだ。
「それは科学世界では常識なのか?」
「んんにゃ、そんにゃ……そんなことないです…」
ステラの問いに対していつも通り答えようとしたリンシェンだが、リーシャの一睨みで直された。
「なるほど、それはどれだけ研鑚したかと言うわけか」
「電気に冷気は変化、そしてその衝撃に耐えられる金属やレールの生成が具現化ってわけね。
確かに言われてみれば飛ばした後は減速してるだけで弾は残ってるわね。放出なら消滅が先か」
ソニアは空中に画面を増やし、映像データを他のメンバーにも見せる。
「連射も簡単に出来るみたいですね」
ミナが現在の映像を見せる。
画面には連続で超電磁砲を放つトウヤが映し出されていた。
鉄を飛ばすだけなので連射も容易いのだろう。
しかしその砲撃も弾かれ、躱されとセレスに決定打を与えるまではいっていない。
「今のところ噂負けしてるわね~」
ティーナは尤もな意見を述べる。
現段階でのトウヤの評価は科学の知識があり、それを取り入れた魔法を使う程度。
噂ほど凶悪なイメージも無ければ、能力がずば抜けているという訳ではない。
「確かに今のところはですね」
ポーラが意味深な物言いをする。
「そういえば私の前で“風打ち”とか言う魔法を使ってたな」
ミナはトウヤとの修行を振り返る。
「その時“第八”とか言ってなかった?」
ルーがミナに続けて思い出す。
「あとデバイスも作れるみたいだな」
ファイゼンが続けて評価する。
「ほう、まだ手を隠してるという訳か」
ステラがそれは楽しみだと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべる。
「でもそれはセレスだって一緒よ」
ティアが相棒も負けていないと言う思いで話す。
まだ模擬戦は始まったばかりである。
(この程度じゃ当たらないか)
超電磁砲を乱射しているが、全て躱すか弾くかされていた。
(躱すは考えてたが弾くのは予想外だな)
豆粒大の鉄球を使っているのでそれなりの衝撃だが、弾くと言うことはその衝撃並の堅さがあると言う事だ。
(近づく前にもっと調べないとな)
乱射を止め弾の形状を変える。次に使うタイプは火薬を使うタイプ。
円錐状の装置内で爆発させるだけだが、貫通力と殺傷力が高いので乱射はさせない。
(当たりに行かないでくれよ)
砲撃を当てなければならないのに、当たってほしくない。そんな矛盾した思いで放った。
乱射を止め、砲撃の種類を変えてきたと思ったら手元で爆発。そして何か飛んできたと思ったら肌が切れていた。
シールドを消してはいない。ただ単に貫通したのだ。
(今まで弾けたのに貫通した!?)
腕から流れる血を見て現実を理解した。
傷口の形状から見て刃のようなもので切れたようだ。
幸いにも腕を掠めた程度だが、体に直接当たっていたら穴になっていただろう。
(何をした?それよりも私に傷をつけた?あんな魔法もよくわかっていない子供に?)
セレスは相手を侮っていた自分に、そして自分に傷をつけたトウヤに怒りが込み上げてきた。
様子見なんて温情を残していた自分を戒め、全力で叩き潰す。相手が誰であろうと。
強化魔法で止血すると、手早くデバイスを取り出す。
「火纏!焔の鎧!」
呪文を唱えるとセレスを囲むように炎の輪が現れ、強い熱風が吹き荒ぶ。
トウヤから先程と同じ砲撃が放たれるが、もうそんなもの通用しない。
この鎧によって防御力が数十倍に跳ね上がっている。
「火纏!焔の剣!」
続けてデバイスであるレイピアに炎が纏われる。
そして一気に距離を詰めトウヤを刺す。これで終わりのつもりだった。
トウヤを刺したはずのレイピアはトウヤの目の前で折れ曲がった。
突然壁のようなものが現れ、刺したレイピアを折り曲げたのだ。
「エンチャント・ギア・ファースト!」
そう唱えるとトウヤの周りには激しい雷の嵐が現れた。
そう確認できた瞬間、視界の端で蹴りが迫ってきてることに気付いた。
(受けてはダメだ!)
なぜか直感的にそう感じたので、急いで身を引き蹴りを躱す。
トウヤは蹴り上げたことで大きな隙を見せている。
今がチャンスと折れたレイピアを投げつけ動揺を誘い、渾身の力を込めた拳で殴りかかる。
しかしトウヤの姿は一瞬にして小さなものに変化した。
「これは!?」
瞬時に息を止め目を瞑り、耳を塞いだ。
小さなものから強い光と煙が甲高い音と共に溢れ出した。
閃光弾と言われる目くらましと激しい音で相手を攪乱する兵器と、
目や喉を刺激する煙を出す催涙弾と言う兵器を合わせた物だろう。
どっちもアルフォートが使っていたことを覚えていたので対処法もわかっていた。
トウヤはこれで攪乱出来たと思っているだろう。だがセレスは知っていた。
反撃のチャンスだ。探知魔法で前後左右を確認したが反応は無かった。
「上か!?」
確認すると既にトウヤは攻撃の態勢を整えていた。攪乱出来ないと想定していた動きだ。
「風打ち・第五座・震!」
また同じ直感が働いたが避けられない。今度は受けることに集中した。
攻撃を受けると世界が揺れるような衝撃を受けた。
「くっ!」
全身に痛みが走る。身体の可動域を無視して揺れているため、骨が折れそうだ。
バリアジャケットに焔の鎧という高い防御性能の上からでもこれだ。
自分の感が当たってるのを嬉しく思うと同時に、相手の攻撃が如何に危険かよくわかった。
「うう…はあああ!」
鎧を爆発させ、力づくでトウヤの攻撃を打ち消した。
その爆発でトウヤは飛んだが無傷のようだ。
「火纏!焔の鎧!」
セレスは再度鎧を纏う。
相手の攻撃の脅威は理解した。だがその攻撃も当たらなければ意味がない。
次は攻撃もさせず、一方的に殲滅する。
「エンチャント・ギア・セカンド!」
その呪文と共に空気が、肌が震える。さっきよりも激しい暴風とプラズマの嵐が現れる。
(は?これじゃあまるで……Sランク魔道士じゃ…)
セレスはその光景に思わず一歩引いてしまった。
「ポ、ポーラ、何をしたの?」
ミナは顔を引きつらせながらモニターを見ている。
「いや、私が見たときよりも跳ね上がってる」
ポーラも驚いていた。
ミナの時はもちろん、ポーラの時の修行よりもはるかに力強い発を行っていた。
「ソニア、数値は?」
ステラが計測をしているソニアに聞く。
「およそS~SSと言ったところね」
「ほお、ここにいるほとんどを抜いたか」
ソニアの答えにステラは嬉しそうに呟いた。
「あ、あれって…呪印?」
ルーが指す方向を見ると、トウヤの顔の左側に模様が出ていた。
「まさかあの子!」
ミナがガラス面を叩き会場にいるトウヤを覗きこむ。
「封印術よ。あの子、昔暴走してしまったことがあって、抑えるために力を封印したって言ってたわ」
ミナとルーは一安心する。封印の話は聞いていたが顔のそれが封印術の模様だとは知らなかったのだ。
「それはおかしな話だな」
ポーラの話を否定したのはステラだった。
「そうね~。暴走って魔力が高すぎて制御出来ない場合に起こる事よ~?」
「その話が本当なら、あの子はS+ランクかもしれないってことよ?」
ティーナとソニアがおかしい根拠を述べる。
「はい、魔力だけならその通りです」
ポーラの問いに全員が驚く。
S+ランクは最低でもギルドマスターくらいの強さを示す。
つまりトウヤの強さは魔力だけならギルドマスター以上であるということだ。